死の欲望

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 ここは土の匂いがするけど、たけのこもきのこも生えてないし、草一本みあたらない。


 食べ物が欲しい、と隣にいる少女が言った。


 くじいた足をかかえながら、発する声はかぼそい。


「もう三日も食べ物を口に入れてないのよ。おかしくなりそうだわ」


 俺も同じだ。


 同じく、三日何も食べていない。


 二人で出かけて、人気のない山の中に入って、それで誰かが作ったのか獣が掘ったのか分からない穴にはまった。


 後は、想像の通りだ。


 出られなくなった。


「助けが来ないんだからしかただないだろ」


 俺達は、スマホも持っていなかったため、自力で這い出せないなら死ぬしかない状態だ。


 まぬけすぎる。


 誰か嘘だと言ってくれ。


 こんなの、冗談だろう?


 そもそも、なんでこんな所に来ようなんて言い出したんだよ。


 俺もなんでこんな所に行こうなんて同意したんだよ。


 つい三日前の自分を呪いたくなる。


 いくらなんでも、こんな最後は嫌だ。


 人生の最後くらい、自分で好きに選びたい。


「死ぬって、怖い事だったんだねぇ」


 うつろな目で彼女が「あはは」と笑った。


 何を今さら、そのためにこんな人目のない所に来たってのに。


 二人で死にに、来たってのに。


「死ぬって苦しい事だって、一つ賢くなったよ」


 それ、場合によりけりだと思う。


 死んだことないから知らないけど、即死って言葉もあるし。楽に死んじゃった人もいるんじゃないか? 知らないけど。


 でもまあ、こんな事になってから恐怖について考えるって事は、想像力が足りてなかったんだろうな。


 ただ、楽になれるって思い付きだけで行動していた。


 世の中にはそうじゃない、苦しんででも解放されたいって人もいると思う。


 でも、自分達はそうじゃなかった。甘ちゃんだった。


 ある意味ぼうとくだよな。


 もっと真剣に考えろってんだ。


 なんちゃってで、三途の川渡ろうとすんな。


「罪を犯したから、お前も死ねって言われたんだ。だからその通りにしようと思ったんだよ」


 傷跡をかきむしるように彼女が訴えた。


 かさぶたは痛々しくはがれてて、なおらないまま血を流してる。


 苦しいよな。


 でも、こんな状況じゃ、そのまま死んだって苦しいままかもしれない。


「俺だって、俺のせいで死んだ人間がたくさんいるんだよ。でもその内の一人が、不幸扱いすんなって最後に言ってたよ」


 荷物を漁ってロープを取り出した。


 ロープの先端に輪っかを作る。


 穴の淵にちょうどいい高さの木があるから、そっちに向けてロープを投げる。失敗。


 でも、何度か投げて木にひっかけた。


 ロープ丈夫だな、


 人の体重がかかっても、ちぎれないんだろうな。


 変な感じだな。


 殺すための道具が生かすための道具になるなんて。


 俺は彼女に手をさしのべた。


 幼馴染だから、ずっと見守ってきた少女に。


 すぐ殴ってくるような身内がいる少女に。


 家族の方がクソなのに、ある日魔が差した彼女が反撃しただけで、そいつらはぽっくり死んじまいやがった。息吹き返しやがったから、しぶてぇなおいとか思いながら、俺が花瓶で頭を割ってやったよ。死ぬ間際にあいつらに恨み言を吐かれたせいで、彼女は罪なんて余計なもんを抱え込んじまったんだ。


 助けになるかどうか分からないけれど、俺は手をさしのべる。


 このくそったれな現実をもう一回生きなおしてみるために。


 けど、この世界がこの優しい少女を助けてくれなかったら。


 ……分かるだろ?


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死の欲望 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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