第三章
第73話
「これはすごいですね……!」
ダークエルフの里に行くことになったリツたちは、いつもよりも更に大きなサイズになったフェリシアに乗っている。
リツとセシリア、そして縛られているダークエルフの族長テリオスが一緒だった。
そして、そんな縛られたままのテリオスだったが、精霊の背中に乗って空を飛んでいることに感動して震えていた。
「――やっぱり今は精霊と契約しているやつってほとんどいないんだな……」
素直に感動しているテリオスの言葉を聞いて、少し物憂げなリツは過去との違いを再認識させられる。
エルフやダークエルフといえば自然の声を聞ける特別な種族であり、自然界が具現化した存在である精霊と契約するのは、リツが勇者だった五百年前、特に珍しくなかった。
しかし、セシリアの話でも、テリオスの反応でも、精霊であるフェリシアの話でも、精霊との契約は今現在ではありえないことだと知り、改めて時間の流れを感じていた。
「まあ、それはそれとして、少しダークエルフの里について聞かせてもらってもいいか?」
この移動中に、少しでも情報を集めておきたいと、リツがテリオスに話を振る。
「え、えぇ、なんでも質問して下さい」
ハッと我に返ったテリオスは、いつからかリツに敬語を使うようになっていた。
ダークエルフたちとの戦いで、そしてマルガとの戦いでリツはその実力が相当なものであることを証明している。
今ではとても珍しい精霊との契約もしている。
そして、リツはダークエルフの里を解放しようとしている。
なんだかんだとリツは口では色々言っているが、テリオスたちのことを悪いようには扱わないと思える優しさを感じられた。
そんなリツに対して、テリオスは敬意をはらわずにはいられなかった。
「里をその魔王……あー、なんちゃらウロスだっけか? におさえられているんだよな?」
一度聞いた名前ではあったが、名前自体にあまり興味がなくうろ覚えのままリツは質問をしていく。
「え、えぇ……魔王ティグフルスですね。その配下の者たちが里を見張っていて、女と子どもたちが軟禁されています。先ほど戦ったマルガと同等かそれに近い力を持っていて、我々では束になっても抵抗することはかないませんでした……」
そう説明するテリオスの表情には悔しさがにじんでいる。
「そいつらの命を救う代わりに、エルフの里を襲えと言われたのか……」
リツの言葉にテリオスはコクリと頷く。
「そうしなければ、皆殺しにすると言われ、私の姉が、最初に……くっ……」
それ以上は言葉にできなかったが、テリオスの姉は見せしめとして殺されていたようだ。
姉を目の前で見せしめに殺されたことはテリオスの心に深い傷となっている。
「ひ、ひどい……」
口元を押さえたセシリアは今にも泣きそうな表情になっている。
「……そいつは、良くないな。というか、今の魔王たちってちょっとせこくないか?」
話を聞いているとどうにも気分の悪くなるような魔王たちの行動に、リツは不快感をあらわにする。
操魔の魔王はセシリアのことを妾の一人にしようとしていた。
そして、今回の魔王ティグフルスはダークエルフの非戦闘員を人質にして言うことを聞かせている。
「確かに……やることが小さいですね」
それはセシリアも感じていたことであり、疑問を覚えていた。
「今の、というのは? それにたちということは、他の魔王のことも知っているのですか?」
テリオスは不思議そうに首をかしげている。
魔王たちは各地に点在しており、それぞれが他の魔王の領地には踏み入らないようにしている。
それもあって、人々も他の領地の魔王のことを詳しくは知らない――それがこの世界の常識だった。
「知ってるもなにも、ねえ?」
「はい」
リツとセシリアは苦笑交じりに顔を見合わせる。
「俺たちは西の大陸から来たんだが、そこには操魔の魔王という魔物を操る魔王がいたんだよ。で、俺が倒してきた」
まるで今日の天気の話をするようにあっさりと答えるリツに、困ったような笑みを浮かべてそのとおりだと頷くセシリア。
「……えっ?」
魔王を倒すというとんでもないことを、大したことでもないようにリツが言うため、テリオスは驚きとまどっている。
本当のことを言っているのか、冗談で言っているのか。
そもそもそんな魔王が本当にいるのか。
なにをどこまで信じていいのかわからずに、テリオスは頭の中でグルグルと考えてしまっていた。
「ちなみに言っておくけど、操魔の魔王がいたというのは本当のことだよ」
テリオスが悩んでいる様子を見たリツが、一つ目の情報を肯定する。
「その魔王をリツさんが倒したと言うのは……」
笑みを浮かべながらセシリアはここで一つタメを作る。
「と言うのは……?」
ごくりと喉をならすテリオス。
「本当」
ため息交じりに答えたのはリツ。
別に誇るほどのことでもなかったが、そこで嘘をついても仕方ないと、本当のことを口にした。
「ですです。リツさんがものすごく強くて、先ほどのマルガさんとの時のようにあっさりと倒されていました!」
「……はっ? 魔王を、マルガの時みたいに、あっさりと?」
テリオスは信じられないものを見ているかのような視線でジロジロとリツのことを見ている。
「まあ、操魔の魔王との時はあんまり本調子じゃなかったけどね」
これは強がりではなく、あの時点では完全には自分の調子を取り戻せてはいなかった。
五百年の間に色々あった分の魔力の調整がうまくできていなかったのだ。
「マルガさんとの時は、手を抜いていた――というより色々試していましたよね?」
リツなら単純な力だけで圧倒できたはずだが、あえて複数の属性の魔法を使っていたことからセシリアはそう判断していた。
「おー、よく見てたね。まあ、あいつくらいなら練習相手に丁度いいと思ってさ。いきなり真っ二つにしたら死んじゃうのもあって、色々とやってみたんだ」
誰も殺さずに終わらせようと思っていたため、あえて力を調整してマルガの角を狙い、更にはダークルに力を吸収させていた。
自分の力がどの程度まであるのかがいまいちわかっていなかったが、マルガとの戦いで現状を確認できたようだった。
「やっぱり! リツさんなら、一撃で倒せるのになあって思ってました!」
『リツは大技から小技まで使えるのがかっこいいよね!』
ここで機嫌よくフェリシアも会話に参加してくる。
「――ううううぅ……」
ここまで無言だった精霊が話し出したこと、マルガを練習相手と見ていたこと、自分たちが苦戦した相手を一撃で倒せることなど、情報量が多すぎた。
あまりの情報量にテリオスの頭はパンクしてそのまま気絶してしまった。
「え、色々話を聞きたかったのに……まあ、しばらくは寝かせておいてあげるとしようか」
これから先に待ち受ける戦闘のことを考えると、テリオスにも休息の時間をとらせてやろうと、ふっと笑ったリツは優しさを見せていた……。
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