第一話 オリエンテーション合宿
オリエンテーション合宿当日となった。グラウンドには透たち新高校一年生が集合している。
校長の話を聞いた後、透たちはバスに乗り込んだ。乗り込む際も健一たちに手を貸してもらった。
(……)
あいにく怪我をしているのでバスは一番前の席となり、彩香とは離れた上に彼女の近くの席には通路を挟んで男子がいた。けれども怪我を通じてここ最近彼女とは特に距離を縮められたので充分満足だった。
「とはいえ、二日目のハイキングは先生たちと一緒か」
透は予定表を見ながら言った。
「タイミングが悪かったな。けど、ある意味役得が続いているじゃねえか」
「まあな」
隣の健一は気の毒そうに言いつつも、彩香が登校に付き添ってくれていることを羨ましがっていた。
彩香と二人きりで登校できて本当に幸せだった。もし付き合うことができたら、自然とそれができるようになるのだろう。
「なあ……本当にお前チャンスなんじゃないか?」
健一はより一層に声をひそめて言ったが、透は「どうだか」と首を振った。
「そろそろハイエナが全体から寄ってきそうだ。バド部だっていくら男子がさほど多くないとはいえ、二年と三年の先輩たちも含めて葛城院さんが入ってきて歓喜だろ」
「確かに他のクラスの連中も嗅ぎつけてきているからな。やっぱり実力テストで噂が広まっているらしい」
事実、彩香のことを一目見ようと他のクラスの男子が透のクラスの友達のところに来ていたりすることもあった。
「で、最大の問題はクリアしたのか?」
意味ありげに健一が訊いた。
「なんだ? 問題って」
「彼氏だよ。いるのかいないのか」
「ああ――」
透はすっかり忘れていた。ここ最近は「前回」の失敗を〝修正〟することで頭がいっぱいだったし、彩香と仲良くなれたことで浮かれていた。
「そういえば……どうなんだろう」
「やっぱりわからないのか」
「ああ。いるような話は聞かないんだが……御坂も特にそういう話はしないし」
「さすがにあからさまに訊くわけにもいかないしな」
(そうなんだよな……忘れてた。けど、もしいたとしたらどうなんだろう。そんな雰囲気も見かけないんだよな……)
あくまでもプライベートのことだから知る方法も難しかった。やはり御坂あたりに探りを入れてみるか――透はそれが一番無難かなと思った。
(けど、『前回』の時は高崎と付き合っていたっていう噂もあったし……)
あまり「前回」のことは思い出したくはないが、その時のオリエンテーション合宿の直前にはそんな噂も流れていた。
確かに親しい感じはしていたが、確たる証拠もなかった。
(そうはいっても、あの時の精神状態で高崎と付き合っているなんて知りたくなかったしなあ……かといって、もしいたとしたら今俺がやっていることは全て無駄なことに……)
透は新たな問題に考えを巡らせたが、とにかく今は彩香ともっと仲良くなることに越したことはないと思い直した。
◇ ◇ ◇
宿泊先のホテルに到着して駐車場で開校式を行った後、ホテルの中に入った。
会議室で高校のカリキュラムや進路、科目についてのガイダンスなどが行われた。
それらが終了してようやく各自の部屋に行くことになった。六人一組の部屋となっており、健一とも一緒だった。
「ふう」
透は入口に松葉杖を置いて片足で部屋の中にある椅子に座った。すると、早速同じ班の友達に彩香のことを訊かれた。
「おい、お前いつの間に葛城院さんとあそこまで仲良しになってんだよ」
「仲良しっていうか、色々あって」
「やっぱ席が近くっていいよなー」
「そもそも葛城院さんって彼氏いるんじゃないのか?」
やはり焦点はそこだった。みんなも気になるようだ。
「俺もさすがにそこまではわからない。でも、いても不思議じゃないよな……」
「つーかさ、スペック高すぎじゃね? 特待生だし、めちゃくちゃ美人だし」
外見のスペックもさることながら、中身も最高である。一つ一つの動作に品があり、優しくて女の子らしくて、何もかも非の打ちどころがなかった。いかにも物語に出てきそうな完璧美少女だった。
その後もしばらく彼女について色々とああだこうだと下品な会話も含めて盛り上がっていた。
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