おじさんと僕の30日

田島鼻毛

第1話 日常

「夕陽!いつまで寝てんの!早く起きないと遅刻するわよ!」

朝7時13分、時計を見て高校二年生の西田夕陽は飛び起きた。

「母さんなんでもっと早く起こしてくれないの!」

「ずっと起こしてました〜」呆れたように母親が言う。もちろん母親のどでかい声はずっと聞こえていたが誰かのせいにしないと冷静ではいられなかった。



そう、今日はただの平日ではない。この間少し前から気になっていたクラスメイトの瑠奈に告白をし、その返事を聞くために早く学校に行かなければならないのだ。母親が用意していた冷めた食パンを口に放り込み麦茶で流し込み、急いで歯磨きをすませ、「行ってきます!」そう言いさっさと家を出た。母親が何か言っていた気がしたが僕の耳には届いていなかった。


「ごめん、私達これから受験じゃない?だから恋愛とかよりも勉強にしたいからさ、ごめんなさい。」瑠奈はそう言って逃げるように体育館裏から姿を消した。

この日の気温は36度、乾いた喉を、心を潤すように必死に水を流し込んだ。しかし後者が潤うことはなくただただ喉だけが潤っていった。一限開始のチャイムがなったがどうにもベンチから腰を上げる気にならないのでサボってしまうことにした。


「受験かあ。」そう言葉にするとなぜか振られたことよりもそっちの方が気になってしまった。僕の通っている学校はかなりの進学校でみんな早くから受験勉強を始める。もうみんな進路に向けて予備校や塾に通ったり資格の勉強をしている。もちろん僕は何にもやっていなかった。受験。その言葉を口にしただけで少しだけ焦ったが、よく考えてみたら僕は今好きな子に振られたばかりで傷心中なんだしそんなことを考えるのはよそう。といつものように逃げたのだった。


少ししてガラッと教室のドアを開ける。するとみんなが一斉にこっちをみてまた視線を戻す。これが嫌だからあんまりサボりはしたくない。

「おう、夕陽またサボりかよ。お前進級できんのかー?」煽りながら絡んでくるこいつは小学校からの幼なじみの佳樹だ

「夕陽おはよう。そのサボり癖いい加減やめろよな」と冷静に注意してくるこいつは1年の時に仲良くなった海斗だ。

基本的にこの3人、それからさっき振られたばかりの瑠奈の4人でいつもだらだらとつるんでいる。瑠奈がこちらへ来ないのを察してか海斗が

「夕陽、お前瑠奈となんかあったのか?」と聞いてきた。こいつはずいぶん勘が鋭くて時々怖くなる。

「実はさ、少し前に瑠奈に告白してさっきちょうど振られたんだよ畜生」と半分投げやりに言うと

「え、お前瑠奈のこと好きだったのかよ」と佳樹は初めて飛行機をみた原始人のような顔をして驚いていた。その反面海斗はどうやら知っていたようだ。さすが怖い。そんな事を話していると担任の中村がこっちに近寄ってきた。嫌な予感がしたその瞬間にその予感は的中した。

「西田、ちょっと職員室こい。」めんどくせーなとみんなの前では強がって見せたが内心かなりびびっていた。からかいながら見送る佳樹を背に僕は中村の背を追いかけて歩いた。

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