第21話 貴公子のけじめ(ロゼリア視点)
さて、あれからどうなったかと言うと……
フレデリック殿下は廃嫡が決定しましたが、不満があるらしく暴れるのでひとまず地下牢に閉じ込めました。なんと言っても国宝である賢者を傷付け国外追放した罪はかなり重いですから、平民になるだけで済んだのはまだマシなのだとわからないみたいですね。
でも、あの阿呆の本当の罪はテイレシアお義姉様を蔑ろにしたことですけど!
「あの阿呆はまだわめいているんですか?」
「……あんな馬鹿が息子かと思うと穴に埋まりたくなりますわ。貴腐人様の助言通り根回しをしておいて良かったです」
重いため息をつく王妃様。どうにもあの阿呆王子は陛下の遺伝子に偏り過ぎな気がしますね。陛下は親バカな上に王妃様がいないとまともに仕事も出来ない阿呆です。この国がちゃんと成り立っているのは王妃様の采配あってこそですので!
あ、ちなみに王妃様は腐女子仲間です。わたしの執筆している物語のファンだと言って仲良くしてくれています。以前、王妃様がわたしにファンレターをくれたのをきっかけにお手紙のやり取りをしていたんですよ。
「腐女子活動とは関係無いことまでお願いしてしまって申し訳ないです」
そう、実はわたしはあの阿呆王子がなにかやらかした時の為に王妃様に裏工作をお願いしていたのだ。まさか本当に賢者の方までも国外追放にするなんて考えたくなかったが何をするかわからなかったので。
だからもし追い出された人たちがいたら国から出たところを王妃様の母国で保護してもらおうと色々と根回ししておいたのです。
「それにしても王妃様の素早い行動には感心致しました。もうパーフェクトですね!」
「まぁ、おほほほほ。わたくしとしても賢者たちを失う訳にはいきませんから。それにテイレシア嬢にはあんな馬鹿息子の婚約者になってもらったせいで苦労をかけて本当に申し訳なく思っておりますのよ。
まさか貴腐人様がテイレシア嬢の義妹になられるなんて運命を感じましたし、このままいけば貴腐人様と親戚になれると楽しみにしておりましたのに……あの馬鹿が貴腐人様に懸想してテイレシア嬢にあのような暴挙に出るなんて!貴腐人様には申し訳ないですが、テイレシア嬢が次代の王妃になってくれなければこの国は終わりです!」
「とんでもない!だってお義姉様は最高ですから!お義姉様以上に素晴らしい女性など存在しませんから!王妃様は本当に見る目のある方ですわ!」
この王妃様は、お義姉様がどんなに素晴らしいかを本当によくわかってらっしゃるのでわたしと気が合います。そしてこの国を心底愛してらっしゃる愛国心溢れる方なので、国の為なら実の息子だろうと即切り落とすことの出来る素敵な方なのですよ。
え?もし王妃様があの阿呆を庇ったらどうしてたか?そんなの……決まってますよね?うふ。
「それに、今回のことがうまくいけば……あのジークハルト様の生講演を特等席で拝見できる権利を頂けるんですから!!」
「さらに特典としてジークにい様の〈美少年キラーの語る、美少年を口説き落とす100の名言〉サイン入り本もプレゼント致します」
「よっしゃあ!我が人生に悔いなし!」
ちなみに王妃様は、結婚後に陛下のダメ男っぷりがボロボロと出てきたうえに仕事の忙しさと息子の阿呆さ加減に現実逃避した結果、腐女子に目覚めたそうです。今では薄い本が心の栄養剤になっているのだとか。
「フレデリックの前では演技とはいえ薄い本を握り潰さなくてはいけなかったので心が傷みました……。あ、そういえば貴腐人様、里帰りした先で開催されていた他国の腐女子の執筆なされた薄い本ですわ。買い揃えてきましたのでお土産にどうぞ」
そう言って薄い本を数十冊テーブルに並べてくれました。これは他国で出回ってる新作ですね!あの国の薄い本はなかなか手に入らないのにこの量はすごいです!
「王妃様が他国の腐女子とも交流を広げて下さるので、とても嬉しいですわ!」
「貴腐人様のお役に立てて光栄です」
やはり、腐女子の絆は全てを越えますね。腐女子最高!
「さて、では仕上げを致しましょうか。あの阿呆王子も愛しい方に会いたいでしょうしね」
***
「……ジークハルト!ジークハルトに会わせてくれ!」
地下牢へ繋がる道を進んでいると阿呆王子の声が響いております。
なにやらジークにい様に会えればなんとかなるとでも思っているようですが、ジークにい様が罪に問われないために自分が責任を負うと言ったのではなかったんですか?
ですがわたしはちゃんとジークにい様に会わせてあげますけどね。
わたしと王妃様が牢から見えない位置に隠れて見守る中、ジークにい様がそっと牢に入れられた阿呆王子に近づきました。
「フレデリック……まさかこんな場所で再会を果たすことになるなんて残念です」
「あぁ、ジークハルト!会いたかった!助けてくれ、俺はこのままでは平民にされてしまうんだ!なんとか母上の誤解を解いてくれ!」
「誤解?」
「そうだ!母上は俺がジークハルトに唆されていると思っているんだ!だから、俺とジークハルトは真実の愛で結ばれた相手であると証明してくれ!
それに賢者たちの件も、きっとジークハルトならなんとか出来るだろう?!ジークハルトは賢いし、俺の為ならなんでもしてくれるだろう?!」
必死に牢の柵から手を伸ばす阿呆王子の姿に、ジークにい様は微笑みを向けます。でもそれはいつもの優しい微笑みではなく、氷の微笑でした。
「ふふふ、おかしなことをおっしゃいますね?僕はたかが伯爵です。そんな僕に王子であるフレデリックがやってしまった事の後始末が出来るとでも?」
「……ジークハルト?お、俺を愛していると……」
「もちろん、愛していましたよ。僕は僕に愛を向けてくれる子にはちゃんと愛を返します。でも、約束通りけじめをつけてきましたのでもうそれも終わりです」
阿呆王子の必死に伸ばした手の指先がジークにい様に触れようとした瞬間、ジークにい様がそれを避けるように一歩後ろに下がりました。
「……!」
避けられたのがショックだったのか信じたくないのか、阿呆王子は再度手を伸ばすがジークにい様がそれに近づくことはありませんでした。
「けじめって、けじめってなにをしてきたんだ……?」
「……僕にはある目標があったんです。だから、それを成し遂げたらけじめをつけるとある人と約束していました。フレデリックには感謝していますよ。あなたのおかげでその目標は達成されましたので」
「だから、なにを……!」
その時、それまで冷たく微笑んでいたジークにい様がふんわりとした優しい笑顔をみせました。そして幸せそうに言ったのです。
「僕は、結婚します」と。
もちろんお相手は男性なのですが……なんでも基本攻めなジークにい様が初めて愛を受け入れた男性らしくずっと昔からお付き合いなされているのだとか。ただ、ジークにい様は美少年キラーとして千人斬りをするという目標があったので、そのお相手もジークにい様の心が決まるのを待っていてくれたのだそうです。
ジークにい様は千人斬りの最後を飾るのは特別な相手ではないと納得出来ないとしていて、だからこそ今回の事に協力してくださったようですわ。
「けっこん……?」
「ええ、フレデリックのおかげで決心出来ました。ありがとうございます。あなたの愛はたぶん忘れませんよ。もう2度と会うことはないと思いますが、平民になっても頑張って下さい」
そう言ってにこやかに「さようなら」と立ち去るジークにい様の後ろ姿を見ながら崩れ落ちるのでした。
全てを失い魂の抜けた顔をする阿呆王子の姿に胸がスッとしました。ざまぁみろです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます