第14話 閑話2*〈貴腐人に憧れる会〉の隠された秘密*秘めた想い

ジークハルトは少年の肩にそっと手を置いた。その体は細くしなやかで、力を込めれば容易く折れてしまう気がするほどに儚い存在だった。


「……ジークハルト様」


 少年の潤んだ青い瞳がまるで宝石のようだ。とジークハルトが口にすると、少年は心臓が高鳴ったのか顔を朱色に染める。


「君の唇は果実のようだね。思わず食べたくなってしまうよ」


 そう言って自分の唇をその果実では無く頬に這わすジークハルト。しかし少年は我慢しきれずにジークハルトの首に自身の腕をまわし、その魅惑の唇に果実を押し付けたのだ。


「……っ」


「……ジークハルト様、愛しています……」


 宝石から溢れ落ちた涙を指ですくい、ジークハルトは指を濡らす滴を舌先に絡めた。


「僕の愛は君を壊すかも知れないよ?」


「あなたに壊されるなら、本望です……!」


 もうふたりの間に言葉はいらない。ジークハルトは少年の肢体を隠すものを優しく剥ぎ取り、白く滑かな肌をした無垢な少年をその美しい指先で淫らな獣へと変えてい――――







「そこのあなた!ジークにい様をモデルに創作するのは禁止だと言ったでしょう?!」


 ロ、ロゼリア貴腐人様ぁ?!あぁっ、その薄い本は……!


「先ほどあなたが落とされたのを拾ったのです。もしや新刊かと思ったらタイトルが“ジークハルト様は愛の化身”なんて書いてあるから……!あなたは〈貴腐人に憧れる会〉の規則を破ったのですよ!」


 お許し下さい……!ジークハルト様の尊いお話を聞いたら我慢出来なくなってしまったんです!

 愛が、愛が溢れて止まらなくなってしまって、つい……!


 ジークハルト様が可憐な少年を大人へと変えてゆく妄想が頭から離れなかったんですぅぅぅ――――!


「そのお気持ちは痛いくらいわかります!それは腐女子全員が胸に秘めている想いなのですから!でも、ジークにい様はご自身をモデルにされるのは嫌がるんです!ましてや名前から姿までそのままなんて言語道断!

 ジークにい様のお話はあくまでネタとして、ジークにい様を匂わせる表現はしないという約束で尊いお話をしてくださっているのですよ!」


 でもっ、でもっ!お優しいジークハルト様なら少しくらい許してくださるのではないかと……!


「いいえ。もしこの薄い本の存在がバレたら、ジークにい様は2度と〈貴腐人に憧れる会〉には来てくださらなくなりますわ」


 ……そんなっ!


「いいですか、これの存在はわたしとあなただけの秘密にいたしましょう。これはわたしが預かっておきます。……もう決して規則を破らないでくださいね」


 うぅっ……お慈悲をありがとうございますぅ!












 こうして没収された薄い本が、貴腐人の元で封印されていることは内緒である。

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