第8話 正義の味方(フレデリック視点)
ロゼリアは完璧だった。
極悪非道な
金髪碧眼のとても美しい少女は、まるで天使か妖精のようだった。
俺は多少強引だったかもしれないがテイレシアと婚約破棄し、ロゼリアと新しく婚約を結んだ。父上には最初は反対されたが、俺の説得により最終的には頷いてくれた。これでロゼリアをテイレシアという毒婦から救い出せると俺の中の正義感が燃え上がる。
そう、俺は正義の味方。まさに英雄なのだ。
ロゼリアは儚く可憐で、優しく抱き締めて守ってやらないと簡単に折れてしまいそうな少女だ。初めて出会った時、俺の話を頷きながら聞いてくれて、俺のことを熱い視線で見つめてくる可愛いやつなんだ。
きっと俺に一目惚れしたのだろう。まぁ、仕方ないことだ。俺は素晴らしく格好いいからな!それに俺もいつも口うるさいテイレシアよりも、俺の言葉に「はい」「ええ」「素敵」と素直に返事をしてくれるロゼリアの方が好ましいと思った。テイレシアは「王族としてのマナーがなってません」となにかとうるさいし、見た目も地味だからな。
母上の「王族相手にも怯まず注意をしてくるその度胸が気に入ったから」といったなんとも下らない理由でテイレシアと婚約したが俺は最初から気に入らなかったんだ。
ただ、なぜかテイレシアといるとトラブルがうまくおさまり俺が感謝されることが多かったから側に置いていてやったんだが、まさかこんな悪女だったとは俺も騙された被害者だ。しかしこんなにもスムーズに婚約者の入れ替えができるとはラッキーだった。やはり母上が里帰りされてる間にやったのが良かったんだな!
いまや俺は悪女から聖女を救い出した英雄だ、きっと町の愚民どもは英雄と聖女の真実の愛の物語に涙していることだろう。
正義を貫き、元婚約者すら断罪する俺ってなんて格好いいんだろう!
だが、ロゼリアが王宮に避難してきて3日目の朝。ロゼリアの王子妃教育をしている教師たちが言いにくそうに俺の前で口を開いた。
「ロゼリア様は、知識教養と申し分ありません」
「そうだろう。俺のロゼリアは完璧なんだ」と鼻が高くなる気分でいると「ですが……」と咳払いをされた。
「令嬢としての知識やマナーは完璧なのですが、その……少々わがままが……」
「わがままだと?」
なんだ、それくらいでうるさいやつだな。女なんて、ちょっとくらいわがままな方が可愛いだろう。
「はい、授業中は完璧な淑女なのですが……」
なんでもロゼリアは授業が終わった途端にお茶やお菓子を持ってくるように教師に言いつけたり、茶葉の種類が気に入らないと何度もお茶を淹れ直させ「お義姉様の淹れたお茶の方が美味しい」と文句を言うらしい。教師がそれを注意すると「今は休憩時間でしょう?」と好き勝手すると言うのだ。
「ロゼリアは一気に王子妃教育を詰め込まれて疲れているんだ。茶葉のひとつくらい許してやれ」
「テイレシア様は、授業が終わったからと言って姿勢を崩すことはありませんでした」
「なっ!」
なぜここでテイレシアの名前が出てくるんだ。あいつは悪女だぞ?
「さらに教師や使用人を馬鹿にするような発言も多々あり、いくら知識教養が満点でも人格に問題があるのではと……」
「うるさい!それはお前たちがロゼリアに厳しくするからだろう!もしやテイレシアと比べてロゼリアを苛めたのではないだろうな?!」
「知識教養については満点だと申しました。授業中は完璧なのです。受け答えも素晴らしく、時には粗相をした使用人を労る姿もありました。臨機応変も出きる完璧な淑女です。
含みのある教師の言い方にイラつきながらも話を聞く。
ロゼリアは完璧なんだろう?それでいいじゃないか。何の文句があるというんだ。
「ただ、授業が終わり授業内容の項目に合格の判を押した途端に豹変されるのです」
それはまるで別人のように横暴に振る舞うと。ロゼリアが「授業中や公務中はちゃんとやります。それなら文句ないでしょう?」などと言ったなど信じられるはずがない。
そうか、そういえばこいつはテイレシアをいつも誉めていたな。自分たちの言うことを聞くテイレシアがいなくなり俺の寵愛を受けるロゼリアを疎ましく思ってわざとこんな嘘を報告しているのではないか?だいたい2日やそこらでロゼリアの何がわかると言うんだ。
可哀想なロゼリアはやっと悪女から救出されたというのに、今度は王宮にこんな伏兵がいたのは……くそっ!俺のミスだ!
「……わかった」
「殿下、わかって下さいましたか!ならば早くテイレシア様にしゃざ「お前たちは全員クビだ」え?」
「全員クビだ!今すぐ出ていけ!」
「殿下!なにを世迷言を!王子妃とは未来の王妃!知識や教養はもちろん人格も重要視されるのです!テイレシア様のように慈愛と厳しさを持った方でないととても耐えられる立場ではな……ぐぁっ!?」
俺は頭に血が登り、まだその口を閉じない教師の顔を思わず殴ってしまった。
唇が切れたのか血を吐きながら倒れる教師の姿にハッと我に返る。その教師は俺が幼い頃からいていつも口煩かったが間違ったことは言わない教師だったのにと思うと悲しくなった。
俺が信頼していた優秀な者たちまで、テイレシアに毒されていたとは。なんと情けないことだろうか。
いや、これも俺のミスだ。俺がもっと早くテイレシアが悪女であると見抜いていればこいつたちだってこんなことにはならなかったのに。
だが、俺は正義を貫かねばならない。正義と愛の名の元にロゼリアを守ると誓ったのだから!
こうして長年王家に仕えてくれていた古株たちは王宮を去っていったのだった。父上は公務中だったから俺の独断で全員追い出したが、正義の行いは素早くするに限るからな!
悲しい断罪が終わった頃、ロゼリアが俺の元へやって来た。
「殿下、お時間よろしいですか?実は紹介したい方がいまして……。どうしても会って頂きたいんです。わがまま言ってごめんなさい」
いつもの可愛らしい天使ようなのロゼリアが申し訳なさそうに首を傾げる姿が俺の荒れた心をホッと安らいでくれる。
ほらみろ、ロゼリアのわがままなんて可愛いものじゃないか。
「大丈夫だ、今日は授業も休みにしたから時間はたっぷりあるぞ」
「本当ですか!嬉しい!」
笑顔を見せてくれるロゼリアに、俺の正義は正しかったのだと確信していた。
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