第7話 その名は貴公子(ロゼリア視点)

「ジークにい様、お待ちしてました」


 お義姉様から引き離され王宮に拉致られてから3日後。わたしは待ちに待っていた相手の登場に最高級の笑顔を向けました。


「僕の可愛いお姫様の頼みならばどこへでも参上するよ」


 そう言って見る人全てを魅了するような魅惑の笑みを浮かべる絶世の美青年こと、ジークハルト・アルファン伯爵はまるで幼い子供にするかのようにわたしを抱き上げる。


 ジークにい様は、母の再従兄弟にあたる方なので、本当なら再従兄弟叔父様とお呼びしなくてはいけないのですが、なにせジークにい様はまだ20代です。さすがに呼びにくいのでにい様と呼んでるんですわ。


「もぅ、いつまでそうやって子供扱いする気ですか?」


「僕は君のオムツもかえたことあるんだよ?」


「生まれたての頃のことを言われても覚えてません。それより、来てくれたからにはちゃんと約束を守ってくださいよ?」


 するとジークにい様は再びにっこりと最上の微笑みを浮かべて目を細めた。


「……もちろん。の仰せのままに」


 何を隠そうこのにい様は、そっちの世界ではかなりの有名人だ。

 輝く銀色の長い髪と、見つめられると吸い込まれそうになる紫水晶のような瞳。顔立ちは美の結晶とも囁かれている。

そんな彼の通り名は


“美少年キラー・腐薔薇の貴公子”である。


 ジークにい様の存在は腐女子の間では神的扱いだ。なにせ自分の経験談を語って聞かせてくれるのでそのリアルな話とにい様の美しさに鼻血を出して喜ぶ腐女子が後をたたない。端から見れば美青年に令嬢たちが群がってまるでハーレムのような光景だろう。ただ、にい様をモデルに創作するのは禁じられているので皆は残念がっているが。


「ふふふ、実はお手紙でも報告した通りとても素晴らしいお相手がいるんですわ。……にい様の記念すべき“千人斬り”の最後のひとりに相応しい男性が」


「期待しているよ、僕の可愛いローゼ。最近の美少年は3秒見つめただけですぐ堕ちてしまうから少し物足らなかったんだ」


「……以前聞いた時は10秒だったのに、記録更新してますね」


 ジークにい様の眼力はそれはものすごい威力を持っている。基本は美少年のみなのだが、たまにロマンスグレーもその網に引っ掛かるそうだから年々威力が増している気がします。


「相変わらず、女性には興味ないんですね」


「うーん、例えばローゼなら可愛いと思うけど妹みたいなものだからなぁ。他の女性はちょっとね。あ、テイレシアちゃんならもちろん可愛いと思ってるよ」


 にい様がお義姉様の名前を出した途端、わたしとにい様の間にピリッとした空気が流れました。


「……たとえにい様でも、お義姉様に手を出したら地中に埋めますよ?」


「おっと、怖いねぇ。冗談だよ」


「「ふふふふふ……」」


遠縁のわたしたちですが、中身はそっくりだとよく言われます。不思議でなりません。



 さて、これで仕込みはバッチリです。

 あの殿下には、これからじっくりと本当のを見つけてもらいましょうか?


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