Arthur8 制裁という名の差別
翌日、レインとカリーヌは身支度と朝食を済ませると、移動魔術で東校舎に移動した。そこで、ジュードとエリーと合流し、中へと入った。
教室で机のフックにカバンを掛けたレインは、背伸びをした。
「おはよう、レイン」
クラスメイトの男子生徒が話しかけた。
「あぁ、今日も一日頑張ろう」
「それにしても、眠たそうだね。どうしたの?」
「少しぐらい、夜ふかしてしまってね。睡眠の大切が身に染みるよ」
レインはあくびをしながら、目をこすった。
「どうせ、カリーヌとイチャイチャしたんだろう?」
「ち、違う! 勉強しただけだ」
図星だった彼は嘘をつくが、男子生徒に笑われてしまう。
顔を赤らめるレイン。その時、水上先生が学園の紋章の描かれた出席簿を持ちながら、入ってきた。
「朝のホームルームを始めますよ」
レイン達は、自分の席へと座った。
水上先生は、出席の確認を終えると、両手で一回叩いた。
「危うく、忘れるところでした。皆さんに連絡事項があります。昨日の夕方、騎士庁から重大連絡が入りました」
「なんか、ヤバい事件でも起きたの?」
教室の入り口近くの席に座っている男子生徒が声を上げた。
「水の魔術に長けた殺人鬼が、アーサーに入ったそうです。今日から、
不吉な内容に、レイン、カリーヌ、ジュード、エリー以外は騒めいた。
「今後の学園生活についてですが、移動魔術を感知する結界を貼ります。ですので、徒歩となります。寮の出入りする際は、管理人に顔を見せてください」
「先生、ちょっと、待ってください。しばらく続くのですか?」
「別に差別するつもりはありませんが、
「彼らは、
不安そうに声を上げていくクラスメイト。充実した教育を受けているとはいえ、一年生になったばかり。迎撃できる保証はない。
教室で大きくなっていくクラスメイトの声量。レインは、左手を上げて静かにさせた。
「みんな、落ち着いて。そんなに怖がる必要は無い。先生、なにかしらの対策はしていますよね?」
「もちろんです、レイン君。騎士庁が安全ルートを作りました。生徒警備担当の
水上先生の言葉を聞いたクラスメイトは、一息ついた。
「連絡事項は以上です。皆さんは、勉学に励んでください」
◇◇◇
三時限目が終わり、休憩時間に入った。レイン達は、四時間目の生物の授業を行う一階の理科室に向かっている。彼らの手には、筆箱、教科書、資料、ノートを持っていた。
「本当に大丈夫なのかしら?」
「とりあえず、信じるしかない。僕達は学園生活を送っていればいい。余計な事は考えないでおこう」
「正直、早く終わってほしいです。殺人鬼が、どこに潜んでいるのかと考えると、ストレスになりそうですよ」
「心配しなくていいよ。
レイン達が会話していると。
「これは、これは、松下君。ちょっと、制裁を受けてもらおうか」
外から男の声が聞こえた。レインは校舎の入口に視線を移した。
そこには、小柄の
「カリーヌ、先生に『少し遅れる』と伝えてくれ」
「ちょっと、レイン! どうしたのよ!?」
レインは荷物をジュードに持たせた。窓を開けて、飛び越え、その場所に向かった。
「おい、こら! なんとか言えよ!」
中央にいる
「い、いいいや、貴方達が来るのが遅いから、し、し、仕方がないじゃないですか」
「あぁん? お前のような下民が売店の食べ物を買っていいはずがねぇだろうが。俺らのような高貴な人間だけが利用していいんだよ」
「とりあえず、制裁としてパンチを受けもらおうか」
肥満体型の
「なんだ、お前?」
が、レインの左手に掴まれて、阻止される。
「彼が売店の食べ物を買ったからといって、暴力を振るうのは良くない。それに、三人でいじめをして」
「誰かと思えば、レイン・アルフォードか。
レインは、彼の顔面に疾風のような回し蹴りを浴びせた。肥満体型の
その様子を偶然見ていた、周りの生徒は、メデューサに石にされたかのように、口を開けたまま、驚いていた。
「俺らの制裁を邪魔するな! 学園のルールを教えているんだよ!」
ガリガリ体型の
レインは目を閉じて、ため息を吐いた。
「君達の心は貧しいな。悲しくなる」
と、呟き、右手で指を鳴らすと、そこから数多の青い弾丸が飛んでくる。
「ぶろろろろ!」
被弾した彼は、嘔吐したかのような声を出しながら、失神した。
中央の
「‥‥‥で、まだやるのか?」
レインは、透き通ったサファイアのような目を大きく開いた。弱者をいたぶる者へ向けた怒りの視線。アーサーの血を受け継ぐ者としての正義と高潔を感じる目つきであった。
中央の
「大丈夫か?」
レインは、仏と見間違えるほどの微笑で
「あ、ああ、ありがとうございます」
頬の筋肉を緩ませながら、レインに会釈した。
「助けるなら、あたしたちにも言いなさいよ」
レインの後ろから、カリーヌ達が駆けつけてきた。
「どうしても、いじめを止めさせないと思って、つい」
レインが顔の高さで両手を合わせてウィンクした。すると、カリーヌは眉毛を少し上げて、頬を膨らませた。
「ところで、レイン君。彼に、なにがあったの?」
頭をちょこんと傾げるエリーからの質問に、レインは事の経緯を説明した。
「くだらないですね。自分が来るのが遅いのに」
「制裁だね。ああいう、バカな人間がやっている」
「知っているのか?」
「悪しき風習だよ」
エリーは声を低くしながら、目を剥いた。太陽のような明るさを持っている彼女から想像できない顔つきだ。
「世界の各校で、下品なお金持ち連中がやっているの。『社会の立場を分からせる』とか、『身の丈にあった行動』などと言っているけどね。本当は、弱者が苦しむ姿を見て、愉悦を覚えたいだけ」
「最低ですね。クズの塊しかいないのですか」
(世界中の学園でふざけた真似が蔓延していたとは、どんだけ腐っているのだ)
レインは、拳を強く握って、憤りを覚えた。
「ところで、君の名前を聞かせてくれるかしら?」
カリーヌは、歓迎するかのような表情で
「え、えええーと、ぼぼぼぼぼ、僕の名はききき、桐田誠です。たた、たぶん、皆さんと同じ、がが、学年です」
桐田誠と名乗った彼は、地面を見ながら、顔を赤くした。
「カリーヌさん、彼が」
「あ! 誠君、ごめんね!」
「べべべ、別に大したことはありません」
(いや、君の顔が嘘だと言っているけど)
レインが少し笑っていると、授業開始のチャイムが鳴った。
「大変! 授業が始まるよ!」
「まずいわ、早くしないと」
「じゃ、僕達は行くよ。ああいう連中には気をつけてくれ!」
「は、はい! ああ、ありがとうございました!」
レイン達は、駆け足で理科室へと急いだ。
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