case13 街を放浪する金髪JKの話13


「あ、その筆箱かわいい。どこで買ったの?」

私が顔を上げた先にいたのは、クラスメイトの清水恵だった。恵と私はクラスで唯一、同じ中学からK高校に入った者同士だったから、その時初めて喋るというわけではなかった。でも別に中学の時すごく仲が良かったかと聞かれるとそういうわけでもない。

「かわいいかな?近所の文房具屋で買ったんだけど‥」

「へぇー、モエちゃん家の近くかぁ。モエちゃんどの辺に住んでたっけ?」

何この子?なんで私と仲良くしようとするの?

その時の私には本当に分からなかった。恵の細縁メガネの奥の目は他のクラスメイトと大して変わらない。むしろ、恵はクラスでも下の方の学力だったから、私みたいになりたくない、と強く思っているはずだった。

「私達、意外と家近いんだね。今度遊びに行ってもいい?」

「えー、うちには怖いお姉ちゃんがいるからやめといたほうがいいよ。」

正直、嬉しかった。ただただ見下されて落ちこぼれていくばかりのクラスに、1人でも私の事ちゃんと見てくれてる人がいるんだ。

やがて私は恵と一緒にいる事が多くなった。昼の時間一緒にお弁当を食べたり、移動教室の時に一緒に歩いたり。

そうやって恵と時間を過ごしているうちに、どうして恵が私に声を掛けてきたのか何となく分かるようになった。

恵もそんなにクラスで友達が多い方じゃなかったから、きっと仲間が欲しかったんだ。

だけどそれは自分より上の人間じゃあダメだった。

一緒にいて優越感に浸れるような、そんな人間じゃないとダメだ。

そこまで気づいていて恵と一緒に居る私も私だな、と思う事もあったけど、それでも独りでいるよりよっぽど良かった。

「ねぇモエ。これ見て。イケメンじゃない?」

恵が手に持っていたスマホの画面には、茶色に髪を染めた、いかにもチャラそうな男子高校生が写っていた。

「え?イケメン!だれ?彼氏?」

私はいつものようにリアクションを取り繕う。

「まだ、付き合ってはないんだけどね。何回か2人で遊びに行ったんだ。」

「へぇ。いいなぁ~。どこの高校の人なの?」

私がそう尋ねると、恵は指を立てて言った。

「これ、他の人には言っちゃダメだよ。」

言うも何も、私達に興味を持つ人なんてクラスにはいないでしょ。

「うん!絶対言わないから教えて!」

「H高校だよ。」

恵は私に耳打ちして言った。私は素直に驚いた顔をして恵を見る。

H高校。姉の通う学校。この区で一番荒んだ学校だ。恵が正直H校の人と関わりがあるなんて驚きだった。そんな風には見えない。眼鏡を掛けていて、長い黒髪を後ろで二つに結んでいて、いかにも真面目そうな感じなのに。

「ねぇ、こんな事言うのはどうかと思うけど、恵はその人と関わってて大丈夫なの?」

私は本気で心配になって尋ねる。

「えー、めちゃめちゃいい人だよ。ね、今度この人とこの人の友達と一緒に遊ぶ事になってさ。モエも一緒に行こうよ。」

私はこの時不安を感じていたけれど、同時に少し面白そうだなぁとか思ってしまった。今思えばほんとにバカだったと思う。

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