case8 街を放浪する金髪JKの話 8

 その日も平和な1日が過ぎているかのように見えた。だが、こんな平和に見える街で、昨日の様な事件が起きていると思うと、ぞっとする。


 出来れば何も起きず、平穏な1日であってくれと、祈らずにはいられない。


「お前、いま盗ったやろが!ポケットん中見せぇや!」


「何も取ってないって言ってんじゃん!」


 近くのコンビニからの罵声に京太郎はため息をつく。出来れば何も起きず、平穏な1日であってほしかったのに。

というか、この声どっかで聞いた様な?


「ほらほら、ポケットん中には何も入ってないっすよ。」


「怪しいな。その上着脱ぎぃや。」


「はぁ!?」


店の中で言い争いをしていたのは、中年の男性と金髪の女子高生だった。


「富永?」


京太郎は声をかける。


「あ、お巡りさん!いいところに!このおっさん言いがかりつけてくるんですよぉ。」


富永モエはこちらに駆け寄って来ると、中年の男性店員を指差して言った。

京太郎は店員に歩み寄り声をかける。


「どうされたんですか?」


すると中年男性は眉間にしわを寄せて言う。


「あの女、万引きしようとしたんや。」


「何か盗ったのか、富永?」


京太郎は尋ねる。


「何も盗ってない。その人の言いがかりっすよ。」


富永は俯き気味に言う。


「嘘つけや、自分盗ったやろ!?」


「だから‥!」


まぁまぁ、と京太郎は割って入る。


「お父さん、ここは自分が取り締まっておきますから、一度引き下がっていただけますか?」


店員は口をつぐむが、その表情は不満に満ちていた。


「盗っとったら、ちゃんと謝罪しに来ぇや。にぃちゃん、あんたも一緒にやで。」


「はい。」


京太郎は答える。


「ほんっとムカつく。何も盗ってないって言ってるのに!しかもなんすか、あの店員?上着脱げって、絶対そっち目的でしょ!?」


富永は怒りを爆発させながら叫んだ。そんな富永モエを京太郎は不思議に思って眺めていた。


「お前、いつも長袖なんだな。暑くないの?」


富永は今日は赤いジャージ姿だった。


「長袖はあたしのポリシーっす」


ほんとにわけが分からんやつだな、と京太郎は思う。


「それで?何で万引き犯と誤解されてたんだ?」


「いやぁ、それがっすね。今日も学校だるかったんでフラフラしてたんすよ。そしたらお腹すいてきちゃって、コンビニ入ったんすよ。でもあたし金持ってなくてぇ。メロンパンをずっと眺めてたんすよ。2時間ぐらい。」


「え?うん、それで?」


「で、何も買わずにコンビニ出ようとしたら、お前盗っただろって!酷くないすか!?」


「いや、それお前にも問題があるような。」


「えー、何でっすか?こんな純粋無垢なJKが万引き何てするわけないじゃないすか」


「ほんとに何も盗ってないんだよな?」


「何すか?お巡りさんまであたしを疑うんすか?」


富永は少し口調をトゲトゲさせて言った。それから少し俯き気味に言う。


「まぁそりゃそうっすよね。あたしみたいな底辺な人間。疑いますよね、普通。」


富永が柄にもなく落ち込んだ声を出すので、京太郎は慌てて言う。


「えーっと、腹減ってんだっけ?とりあえず交番来いよ。幸田先輩も会いたがってたぞ。」


「リンリンが?そりゃ嬉しいっすね。けど勤務中に悪いんで、遠慮しときます。」


富永は低い声で言う。


「じゃあ、お前、どっか行くとこあるのか?どーせ学校に行きたくもないし家にも帰りたくないって言うんだろ?」


京太郎がそう言っても、富永は


「いや、いいっす、いいっす。」


と意固地になる。


「ほんとに?腹減ってるのに?出前ぐらい頼んでやるぞ?」


「‥‥‥」


「交番来るか?」


「‥‥‥行く。」

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