case6 街を放浪する金髪JKの話 6
家に帰った後も京太郎は富永の事が頭の隅に引っかかっていた。鉄柵にもたれかかって、虚ろな表情で一人花火を見ていた富永。彼女はあの時、一体何を考えていたんだろう?
富永の気怠げな口調が頭の中に聞こえてくる。
あ、リンリンじゃないすか。浴衣かわいいっすねー。
やっぱ勤務中だから迷惑かなーとか思ったりして
あ、お巡りさんだ。なんだデート中だったんすか?
って言っても700メートルぐらい離れてますけどね。もっと近くまで行くと混んでるんすよねー。
それから現れた富永の姉。
おいこら、モエ!オメーこんなとこで何やってんだ!?
聞いてんのか、モエ!てめえ人の制服勝手にパクっといてこんなとこで何してんだよ!?
制服をパクった?京太郎は富永姉のその言葉が妙に引っかかった。一体何のために富永はそんな事したんだ?京太郎は頭をぐしゃぐしゃとかくと机に置いてあった缶ビールを飲み干してベッドに横になる。
最近の女子高生が考えることなんて分かんねぇや。
そして気づかぬうちに睡魔に押し負け、部屋の電気もつけたままに眠りに落ちてしまった。
「今日も元気にハッピー、ハッピー!お前ら、幸せになりたいかぁ!?」
「おーー。」京太郎は今日もいつも通り、幸田の妙なテンションに合わせて適当な返事を返す。
「って言っても今日は二人しかいないですけどね。」
「なんかつまんないなぁ。今日もモエぴー遊びにきてくれないかなぁ。」
「ちょっと気になりますよね、富永。」
京太郎のその言葉に幸田はむむっと言う。
「京ちゃん!けーさつがJKに手を出すなんて、ダメなんだぞ!」
「あの、先輩なんか勘違いしてません?」
「いいんだ。京ちゃんが本気なら。私は見てないふりをしてあげる。でも2人は立場の違いから交際を認められず、やがて結婚することに‥」
「少女漫画読みました?」
その時、交番の入り口から「失礼します。」と言う声が聞こえてくる。
「あ、星野さんだ!ご苦労様です。」
外から入ってきたのは「ご近所」に勤める美形警察官、星野健だった。星野はこちらにも分かるぐらいに大げさに京太郎を睨みつけると、幸田の前まで行ってこれまた大げさに言った。
「幸田さん。本日もお美しいですね。あなたのその美しさにはアインシュタインも驚嘆するでしょうに!」
なんだそれ。一周回ってバカにしてんじゃねーのか?
「もー、星野さんったらいつも変なことばかり言ってー。でもありがと!」
幸田のその言葉を聞いて、星野はこちらに顔を向け、究極に腹の立つドヤ顔をしてみせた。
「あの星野さん、何の用ですか?」
京太郎は無感情な声で尋ねる。すると星野はふんと、鼻を鳴らしてから言った。
「森山京太郎。そこにいたのか、気づかなかったな。あまりに幸田さんが輝きすぎていて!」
「あの星野さん、何の用ですか?」
星野は再びふんと、鼻を鳴らした。
「昨日の朝捕まえた高校生集団の事だ。二人にも報告しておくように上から言われてな。」
京太郎はその言葉にあぁと声を漏らす。昨日の朝方に捕まったって言う高校生集団。確か富永と同じ高校だったよな。
「何やらかしたんだ?」京太郎は尋ねる。
「集団強姦未遂、だそうだ。」
「それはまた‥、でも未遂だったんだな。」
「郊外の廃ビルから女性の叫び声が聞こえるって通報があってな。オレの先輩がギリギリのとこで押し入って現行犯逮捕したって話だ。まぁ、やった本人らはだんまりを決め込んでるけどな」
星野ははぁ、とため息をついて続けた。
「しかも犯行の仕方もかなり手が込んでた。犯行グループの中には18歳のやつとかもいて、車なんかも見つかったんだよ。車ん中からは睡眠薬とかスタンガンとか物騒なもんも出てきた。かなり計画的に行われてたみたいだ。」
「ひどい‥」幸田が声を上げる。
「でも、ま、未遂ですから。被害者の女性も今は普通に学校とか通えてますし。」と星野は言った。
「被害者の女性ってのはどんな子なのか聞いても大丈夫か?」
「何でまた?」星野は訝しんで京太郎に尋ねる。
「昨日少し妙な女子高生がこの交番を訪ねて来てな。多分、その捕まった高校生集団と同じ学校の子何だけど。何か関係があるかも、と思ってな。」
星野は少し考えてから口を開く。
「ふむ、被害にあった子はK高校の生徒だそうだ。だからその子とは無関係だと思うけどな。」
K高校。地元じゃ有名な進学校だ。はっきり言ってしまって申し訳ないが、富永の通う学校とは雲泥の差がある。確かに、K高校の子と富永に接点があるとは考えづらいな。
「じゃあ、用事も済んだしオレは戻るぞ。」
「星野さん、ご苦労様です!」
幸田の声に星野は笑顔で答える。
「またあなたに会いに来ますね。森山がいない時に。」
「二度と来んな!」
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