第179話 ヒールハイ到着

 無事ヒールハイへと到着した王達は迷う事なくヴィルモントの城へ向かった。

 城では既に事情を察知したのかダルマに出迎えられ、そのままヴィルモントの私室へと通された。


「陛下。こちらから出迎わず、更には私室へと通した無礼をお許しください」

「よい、それに何の連絡もなしに訪れた余に非がある」


 頭を下げ無礼を詫びるヴィルモントだが王は気にせず話を続ける。


「時間がないから単刀直入に言うぞ。実は数日前に大臣達に反乱を起こされ余は王座を追われる事になった。恐らく大臣達は他国へ戦争を仕掛けるつもりなのであろう」


 先日のヒールハイへの税金騒動も戦争に必要な資金調達の為。

 他にも資金を集めていたのだろうがヒールハイの件で一人の大臣を犠牲にし、注意をそちらに向ける事で王達はまんまと騙されてしまった。


「余は何としても戦争だけは避けたい。しかし余だけでは何もかもが足りぬ。そこでそなた達の助けを借りたく余はここへ来た」

「それならば妾は喜んで力を貸そう。インネレ・オルガーネは妾にとって妹のようなもの、兄妹を助けるのに理由は不要で要らぬ。じゃがの、真正面から助けるのは難しい、というより不可能じゃ」


 そこまで言うとダルマはヴィルモントへと視線を向けた。

 ヴィルモントはダルマの方を見向きもしなかったが、分かっていると言うように頷き話し出した。


「昨日クラウスから知らされたのですが、ここの馬車の乗客やヒールハイに入る者を調べている不審者がいるようです。この者がヒールハイに侵入する様子はないですが、陛下を探しているのは確実。この状況で私が動けば確実に陛下達の事がバレるでしょう」

「うむ、じゃからヴィルモントも妾もそなた達を出迎える事もこちらへ来るよう知らせる事も出来なかったのじゃ。自らこちらへと来てくれて助かった」

「そうか……」


 味方はいても助力になれない絶望的な状況に焦る王だが、ヴィルモントは得意げな笑みを浮かべている。


「ですが手助け出来ないのは大臣達に顔を知られている我々だけで、それ以外の者でしたら何の問題もなく陛下を助ける事が出来ます」

「それ以外の者? 国外の者ならば確かにそうであろうがあまり時間をかけるわけにはいかん」

「ええ。ですから今、この場でお呼びしましょう。幸い時間にはまだ余裕があります」


 そう言うとヴィルモントは腕を伸ばし手の平を床に向けた。

 目を閉じると同時に床に光る線が現れ不思議な模様を描いていく。


「召喚魔法陣……? あ、もしかして……!」


 何かに気づいたインネレの表情が輝きに変わり、魔法陣が完成すると眩い光と同時に中からシスが現れた。


「? ?? な、何だ、何が起きた?」

「狼狽えるな、王の御前だぞ」

「ヴィルモント?」

「また誰かが何かやらかしたのかと思ったら……」

「……何故お前は上空から現れる」


 シスを喚べた事に満足げなヴィルモントだったが何故か魔法陣ではなく上空から現れたムメイには不満げな表情になった。


「私は従魔じゃなくて奴隷だからその魔法陣では喚べないわよ。たまたま近くに居たからそのまま私も引き込まれただけ」

「ああ、そういえば呪いに関する耐性がないのだったな。ならばお前は私に呼ばれたのではなく巻き込まれたというわけか……」

「おお、そなた達か! 確かにお主らならば何の問題もなかろう」

「ん? んん、えっと……王、様? ……何があったの?」


 王がいる事に気づいたムメイは異常事態が起きたと察したようだが、シスは相変わらず首を傾げたままだった。


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