第175話 ディゲルとぬいぐるみ
夕暮れに街が染まり始めた頃、コンコンとドアをノックする小さな音が響いた。
「こんな時間に誰だ?」
不機嫌そうな表情を隠そうともせずドアを開けたのは手芸趣味を大勢の前でトクメに暴露され街から逃げ出した強面の男、ディゲル。
ドアを叩いていた十五歳程の少年はそんなディゲルに怯む気配は全くなく、むしろ喜びの表情を浮かべた。
後ろに立っていた同じ歳ぐらいの男の子と女の子も同じ表情を浮かべている。
「ディゲルさん! あ、あの、僕達……その、コレ、覚えていますか?」
「こいつは……!」
少年が見せたのは手の平程の大きさのクマのぬいぐるみ。
それはディゲルがあの街でこっそり作っては孤児院に贈っていたものだった。
「この子達がいてくれたおかげで僕達は、ううん、あの孤児院にいた子達は寂しくなかったんです。この子の存在もですが、贈ってくれた人がいて、僕達は一人じゃないんだって。それで僕達、お礼を言いたくてずっと探していたんです」
そう言いながら男の子は白く可愛らしい花が描かれた封筒を差し出した。
「これ、孤児院の子達がディゲルさんに書いた手紙です。あと僕達の面倒を見てくれている神父様とシスターもお礼を伝えたいと手紙を預かっています」
「…………」
ディゲルは驚いた表情のまま何も言えずにいるが、震える手で手紙を受け取り中を読んだ。
中身は神父とシスターの丁寧な感謝の気持ちと子供達の純粋な喜びの言葉が綴られている。
「それで、僕達ディゲルさんにお願いがあって……」
「……何だ?」
「僕達にぬいぐるみの作り方を教えてください!」
「!! な、何言ってんだ……俺は職人じゃねえ。ぬいぐるみを作りたきゃそういう店に行け」
「いえ僕達はディゲルさんに教わりたいんです! 貴方の作る、優しくて心が温かくなる
ぬいぐるみ達を僕達も作りたいんです!」
「……っ!!」
子供達の必死なお願いにディゲルは全身を震わせ右腕を振り上げた。
「い、言っておくが、俺は我流で作ってるからっ、一般的な教え方は出来ねえぞ。それに! 妥協だけは、絶対ぇ、許さねえからなっ!」
「!! はい!!」
言葉に詰まりながら話すディゲルに子供達は満面の笑みを浮かべ元気よく返事した。
右手で顔を覆っているディゲルの指の隙間からは透明の液体が流れている。
「さあさあ、ここまで来るのは大変だったでしょう? 丁度ご飯が出来たから食事にしましよう。ほら、貴方達も」
そこへこっそりやり取りを見守っていたディゲルの母親が現れ、優しい笑みを浮かべながら子供達を夕食へと誘った。
「え、でも……」
「遠慮しなくていいのよ、部屋も余っているから今日は泊まっていったらいいわ。何ならここに住んでもいいのよ、ディゲルの弟子ならもう家族も当然なんだから」
「そ、そうだ。手芸は身体が大事なんだ、妥協は許さねえって言っただろ。ちゃんと栄養あるもん食って夜はちゃんと寝ろ、まずはそれからだ」
流石に戸惑う子供達だったが、母親の優しさとディゲルの温かさに三人は目を合わせ頷いた。
「あ、ありがとうございます! これからよろしくお願いします!!」
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