第172話 仕事の報酬
ヒールハイでは現在ヴィルモントに呼ばれた四大貴族全員が揃って屋敷の食堂で席に着いていた。
大きなテーブルの上には唐揚げやステーキといった様々な肉料理が所狭しと並べられ、クラウス達はそれぞれ好みの料理を取り食事を進めている。
この集まりは不定例報告会と呼ばれ、街ではお互い忌み嫌い憎み合っている四大貴族達がありとあらゆる悪事や策略を交わしていると恐れられているが、実際は主にヴィルモントが気まぐれで四大貴族を集め食事をしつつお互い何があったか報告するというただの雑談だったりする。
今回ヴィルモントは王都までの道のりで起きた事や王とのやり取りを途中までは真面目に話していた。
空気が変わったのはゼビウスとのやり取りで息子のシスに世間一般の常識を教えるという家庭教師の仕事の話を始めた時。
それまでは至って普通の様子だったが、この辺りからヴィルモントは明らかにソワソワし始め表情も喜びが隠れきれていない。
「というわけで、これがその報酬で渡された宝石だ」
そう言ってヴィルモントが自信満々に見せたのは小指の爪程の赤く透き通った宝石。
「ルビー、いやスピネルか? 青系統を好むお前が赤、しかもそんな小粒を自慢してくるとは珍しい」
「宝石の種類も分からん奴め、まあお前ならコレを目にする事は勿論名前を知る事さえないだろうがな」
ドルドラの言葉にいつもの嫌味で返すヴィルモントだが表情は変わらず、上機嫌なまま宝石の説明を始めた。
「言っても分からんだろうが、これはアレキサンドライトだ。この様に室内では赤、太陽の下では緑と光の種類によって色が変わり、価値も非常に高くこの大きさでも他の宝石より何倍何十倍もの値段がつく」
「たかが家庭教師でアレキサンドライトは貰いすぎじゃないか? 相変わらず遠慮を知らない奴だ」
宝石の価値を知っているクラウスは物事を教えた程度で渡すには高価過ぎると眉を顰めている。
「何を言う。確かに私は報酬に宝石を求めたが種類までは指定していない。つまりゼビウスは私にアレキサンドライトを渡す程の事をしたと評価したという事だ」
「普通は貰いすぎだとかここまでの事はしていないと断ったりしないか? どこまで強欲なんだ」
呆れたように言うドルドラに怒りこそしなかったが、ヴィルモントは呆れた表情に変わった。
「何故相手が私を認め評価したというのにそれを否定するだけでなく不満をたらし自らの価値を下げねばならんのだ。私は相手からの評価を拒否し卑下するような事はしない。お前達も私を思う存分評価するがいい、私は否定せず受け入れよう」
好評しかされないと、謎の自信に満ちたヴィルモントに三人は黙ったまま目を合わせ頷きあうとローラントから始まりクラウス、ドルドラと順番に口を開いた。
「居丈高」
「高飛車」
「高慢ちき」
「誰が罵れと言った。やり直しを要求する、ちゃんと今回の件に関する私の評価だ。ほら、先程と同じ順番でいいから早くしろ」
「やれやれ……」
不満気に口を尖らせたヴィルモントだが意外と怒らず、そしてやり直しを要求された三人も仕方ないと言った感じだが特に怒った様子もなく、少し考えてから先程と同じ順番で口を開いた。
「意地っ張り」
「見えっ張り」
「業突く張り」
「言葉尻を揃えるな。あとドルドラは氷漬けにする」
「何故俺だけ!?」
流石に二回目となるとヴィルモントも容赦はなかった。
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