第163話 ゼビウスの杖

 他の試合はそれなりの盛り上がりを見せそしてゼビウス達の二回戦が始まった。


 一回戦の衝撃が強過ぎたのか観客席は緊張が走り、先程までの盛り上がりが嘘のように静まり返っている。


「さーて、次の相手はどんな奴? さっきの奴よりちょっとは楽しませてくれよ?」


 ゼビウスは機嫌が良さそうに言いながら地面に円を描くように黒い杖を軽く振った。


 今度の相手は前回と同じ剣士の男性二人、魔術師の女性一人という構成だが、初戦の相手と違い全員が警戒心強く隙のない構えをしている。


 その様子にゼビウスは標的を定めたのか目を細め動き出そうとした時だった。


「捉えた!!」

「!?」


 前方で構えたままの筈だった男性の一人がいきなりゼビウスの背後から現れた。

 想定外だったのかゼビウスは男の一撃を何とか杖で受けるも体勢が悪く、ゴトリと杖の落ちる重い音が響いた。


「よし、やった! レミリア! この杖を……!?」


 男は落ちた杖を拾おうとしたようだが、何故か杖を掴んだ体勢のまま動きを止めてしまった。


「幻覚魔法に気づかんとは……油断しすぎだ」

「あーあー、うるせえうるせえ」


 呆れたように言うトクメに、ゼビウスは聞きたくないと誤魔化すように大きな声を出しながら男の手首を踏みつけた。


「!!」

「確か人間は杖を魔力増強の為に持ってんだっけ? で、俺の杖奪ってこっち弱らせて自分達の戦力上げようしたみたいだが……重くて持ち上がらねえだろ? この杖な、この世界で一番硬くて重い金属アダマンタイトで出来てんだ。しかもそれを高圧縮してるからクッソ重いんだよ」

「口が悪いぞゼビウス」

「希少価値のあるもんを凝縮すればより価値が高くなると思ったどっかのバカが作り出した、魔力増強一切なしのただ重くて硬いだけの杖」


 トクメの指摘に一応訂正しながらゼビウスは重さを感じないのかのように片手で軽々と持ち上げる。


「その杖で殴られたらどれだけ痛いか教えてやるよ、お前の身体で」

「あ、あ……」


 男はゼビウスを見上げるだけで体勢を変える事も出来ずそのまま場外の壁まで殴り飛ばされた。


「よし、残りの奴はどうやって倒されたい?」

「!!」


 ぽんぽんと杖で軽く肩を叩くゼビウスに女性は杖を構えた。

 それと同時に二人を覆うように薄く青い壁が現れ、徐々に広がっていく。


「物理的な攻撃を防ぐ結界か。どうやら私達をこのまま場外まで押し出すつもりだがどうする?」

「どうするもこうするも、あいつらに選ばせりゃいいじゃん。で、どうする?」


 ゼビウスに視線を向けられ身体をびくつかせるも、相手は怯まず睨み返した。


「選ばせてやるよ。降伏するか、結界を壊されて殴られるか」

「私を舐めないでよねっ。この結界はどんな攻撃も防げるの! あんたが壊す前にこのまま場外に落とせば私達の勝ちよ!」

「あ、ああそうだ! 落ちてからもリングに上がれないよう俺が足止めしてそのままカウント負けにしてやるぜ!」


 相手側が答えると同時に結界が広がる速度も速まり、ゼビウスはニンマリと楽しそうな笑みを浮かべた。


「それがお前の選択だな」


 そう言ってゼビウスは杖を自空間へ戻し目の前にまで迫った結界に力強い拳を放った。


「えっ……!?」

「嘘だろ……」


 たった一発、それだけで結界はガラスの砕けるような派手な音を響かせ砕け散った。

 欠片となった結界は光を反射してキラキラと輝いている。


 美しいと思える光景にただ呆然と立ち尽くす男の前に非情な現実が現れる。


「戦いの最中にどこ見てんだよ、油断しすぎじゃねえの?」


 呆気なく場外へと殴り飛ばされる男に、残った女性は腰が抜けたのかその場に座り込んでしまった。


「場外、場外に逃げれば……」


 それでもこのまま殴られたくないと這いずって場外へ向かおうとしたが、端まで来た所で手を止めた。


「あ、ああ、そんな……嘘でしょ……」


 気づけば青い稲妻がリングを囲うように覆われていた。

 外が見えない程の厚い雷の壁に触れれば無事にいられないと分かるだけでなく、相手の圧倒的な魔力量も分かり女性に絶望が襲う。


「どこ行くんだよ、戦いの最中だぞ」

「ま、待って。こ、降伏する。負けを認めるから、だからっ……」


 ゆっくり近づいてくるゼビウスから何とか逃げようと雷に触れないギリギリまで下がるがゼビウスは止まらない。


「選択肢はさっき与えただろう、それを選ぶ時間も。これはお前が選んだ結末だ、今更変えられるわけないだろ」

「あ、ああ、あああ……」


 最早まもとな声を出す事も出来なくなった女性だったが、ゼビウスには情けも容赦もない。


 このゼビウスの圧倒的な力量差の勝利に観客はまたもや静まりかえった。

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