第153話 契約延長
「それで、依頼のオルトロスを追い払うだけで終わらせ戻って来たのか?」
あの後一通り怒りを発散させて落ち着いたヴィルモントはシスに何処で何をしていたのかを聞いていたが、オルトロスの話を聞くと眉間にシワを寄せた。
「えっ、と……ダメだったのか? 一応リーダーっぽいのは倒したんだが……」
「ダメに決まっている。オルトロスの習性を知らんのか、知らんだろうな。知っていたらそんな事する筈がないからな。お前はオルトロスだがあくまで種族がオルトロスなだけで何も知らないからそういう事が出来たわけだ。これは誰の責任か。主の私か親のゼビウスか、いっそシス自身か。どちらにしろギルドに行くぞ、私が知った以上放置するわけにはいかん」
「あ、ああ、分かった……?」
早口で捲し立てられそのままギルドへ歩き出したヴィルモントにシスは急いで後をついて行った。
「あっ……私も行っていい?」
「構わん、むしろついて来い。奴隷を放置してこれ以上余計な問題を起こすわけにはいかん」
「問題?」
「何でもない。お前は自分の事だけ考えていろ」
******
「うーん、追い払えただけでも十分とはいえ心配は残るわね」
ギルドに到着するやヴィルモントはマスターを呼び出し先程の事を報告すると、マスターも困ったように手を頬に当てている。
「なあ、何が問題なんだ?」
「……オルトロスは基本せっかちな性格だがもう一つ、執念深い面もある。群れのリーダーを倒しただけならばオルトロス達は復讐の為に再び戻ってくる可能性がある」
ヴィルモントの説明にシスもようやく事態を把握したらしく、顔つきが変わった。
「また村が襲われるのか?」
「恐らく。そして戻ってくるとしたら一ヶ月以内だ、その期間を過ぎて何も起きなければ追い払えている事になる」
「……つまり?」
「お前との従魔契約を一ヶ月延長する。ギルドマスター、もしその村にまたオルトロスが現れたら私の所まで連絡するように。シスにもう一度討伐させる、これに関しての報酬は勿論今回のもいらん」
「あら、いいの?」
「こんな中途半端な上に危険もある状態で成功などギルドが認めても私は認めん」
「そういう事なら……」
その後、職員が持ってきた手続きの書類を記入している後ろでギルドマスターはシスと話をしていた。
「そうだわ。依頼の成否はともかく、無理を聞いてもらったのだからそのお礼に食事でもどうかしら、奢るわよ」
「えっ。……店の食事は食えないものが多いし、そういうの分かってて食うとゼビウスとヴィルモントから怒られるから断る」
「そうなの、残念だわ。それなら……」
「っ」
「シスは私の従魔であり、部下でもある。勝手な振る舞いはやめてもらおうか」
ギルドマスターがシスとの距離を詰め、近づこうとしたのに気づいたムメイが何か言おうとする前にヴィルモントが動いた。
「これは……とんだ失礼を」
「分かればいい」
渡された書類をギルドマスターが確認すると、ヴィルモントの住んでいる街と身分を知ったのかすぐに距離を取り丁寧に頭を下げて謝罪した。
「さて、用は済んだから行くぞ。それで、ムメイは何をしている?」
「え? あ……ううん、何でもない」
片手を前に出しかけているような、微妙な体勢で固まっていたムメイはヴィルモントに声をかけられ我に返ったように手を引っ込めると、誤魔化すように真っ先にギルドから出て行った。
******
「そういえば……いつオルトロスについて知ったの? 元からってわけじゃないでしょう」
「シスを従魔にしたその日にオルトロスの生態についての本を貰い内容を完璧に覚えた。もし間違えていたり私が知らなかった場合、それは私ではなく私にそれを教えた者の失態だ」
「……誰の本?」
嫌な予感を堪えつつムメイが尋ねると、心を読んだであろうヴィルモントが勝ち誇ったような笑みを浮かべながら一冊の本を見せびらかすように取り出した。
全体的に薄紫の色をしているその本の表紙には『オルトロスの生態』と書かれている。
「トクメだ。正確な事を知る為に奴を利用しない理由はない。完璧になる為ならば私は自らの無知を認め相手に頼む事を惜しまない」
「頼むだけなのに……? どれだけプライド高いのよ」
「そうそう、あのギルドマスターがシスをやたら誘っていたがあれはただの知的好奇心だ、心配する必要はない」
「急に何」
「俺?」
いきなり名前を出されたシスは驚き、脈絡ない話をされムメイは本当に何の事か分からないといった表情に先程まで上機嫌だったヴィルモントは一気につまらなさそうな顔になった。
「何だ無自覚か、つまらん。私が言ってやってもいいが、どうせなら取り返しのつかない所で自覚して思う存分悶えるがいい」
「え、え……え?」
「???」
先程の発言を嫌味と受け取ったヴィルモントの反撃だったが、全く意味がないどころか余計な事をしたと分かるとその後は宿に着くまで、意味もなく巻き込んだシスにすら一言も話す事はなかった。
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