第94話 初めてのキスは蠱毒の味
初めて『父』と呼ばれトクメは完全に思考が止まっていた。
思考だけでなく動きも完全に止まり何の反応も返さないが、ムメイはトクメの服を握りしめたまま顔を見上げ、ゆっくりと口を開いた。
「……ん? あっ、これまずいやつだ。トクメ!」
違和感に気づいたゼビウスがムメイを引き離そうとする前に、シスが先に行動に出た。
「トクメ!! 俺の事は後で殺していいから十秒! いや五秒でいいから何もしないでくれ!!」
「は?」
そう言うとシスはトクメの返事も聞かずに勢いよくムメイに口づけた。
「なっ!!」
未だに『父』呼びの衝撃から戻れていないのかそれとも強すぎる怒りで逆に動けなくなったのか、トクメは微動だにしない。
皆が見ている中でいきなり始めた口づけから三秒。
シスはゆっくりムメイから離れたが、その口には黒いヘビのような物を咥えていた。
かなり力を込めて噛みついているらしく黒いヘビのような物からは同じ黒い液体が流れているが、シスは構わずムメイから全てを引きずり出すと地面に吐き捨て素早く踏み潰した。
「うわ、やっぱまだ蠱毒が残っていたか……シス、大丈夫か?」
「ぅぷ……ゼ、ゼビウス、その……」
少しとはいえ蠱毒の体液が口に入ったシスは強烈な嫌悪感からくる吐き気に襲われ両手で口を押さえ必死に耐えていたが、簡単に限界を超えその場で吐き出した。
「よしよし、流石のシスも蠱毒は食えなかったか、安心安心。ほら、変に我慢して蠱毒が残ると身体に悪いから遠慮なく全部吐いとけ」
跳ね返る吐瀉物で服が汚れるのも気にせずシスの背中を撫でているゼビウスの後ろでムメイも蠱毒に体内へ入られていた影響かやはり吐いており、トクメが必死に背中を撫でている。
「っふ……っ、はー……」
「落ち着いた? トクメ、ムメイちゃんはまだ動けなさそうだしクツズまで戻ってそこで休ませた方がいいんじゃない」
「クツズ? ああ、そういえば村は危ないと言っていたな」
「うん、あの村の住民今全員食中毒なってるからムメイちゃん休ませるどころじゃないし、多分全滅する。だから俺はケルベロスとガルムに大量の死者が来る事伝える為にシスと一緒に冥界帰るけど三日ぐらいで戻ってくるし、その頃にはムメイちゃんも回復してるだろ」
「……ちなみにシスを連れて行く理由は?」
「俺だけ冥界に帰ったらその間にお前シス殺しそうっつうか絶対殺すからそうさせない為だよ」
「…………」
図星を突かれたのかトクメはゼビウスの前にも関わらず盛大に舌打ちした。
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