第95話 保護者の報告会
テーブルには二つの大きなピッチャーが置かれていた。
一つにはほうじ茶、もう一つにはミルクがどちらもたっぷり入っている。
「……今更お茶程度で誤魔化される私ではないぞ」
「別に誤魔化すつもりはないし飲みたくないなら無理して飲まなくていい」
明らかに機嫌の悪いトクメは無視してゼビウスは透明なガラスコップにほうじ茶を半分程注ぐと残り半分にはミルクを注ぎ、ついでにガムシロップも入れた。
「というかお前冥界に来る余裕あんの。あれからまだ二日しか経ってないけどムメイちゃんは?」
「完全に回復した。蠱毒に入られた前後の事は覚えていないようだが、それ以外は特に後遺症もない」
「そっか、ならシスが対処して良かったじゃん。俺だったら回復にはもう少し時間かかったろうし、後遺症もあったかもしれないしな」
「どういう意味だ?」
「それも込みで話すから飲んだら?」
ほうじ茶の入ったピッチャーを差し出すとトクメはコップではなく手を出したのでゼビウスは何も言わずピッチャーを渡した。
トクメは七対三の割合でミルクは少なめだが、代わりに大量のガムシロップを入れている。
「で、どこから話そうか。俺が村の異変に気づいたとこから? それとも蠱毒の容器を壊したとこ?」
「……最初からでいい。一応あの村は何だったのかは気になる」
「村自体は普通だよ。近くに最古の怪物が住み着いて巻き込まれただけの、何の変哲もないただの村」
諦めたようなため息を吐くトクメにゼビウスは特に気にした様子もなくそのまま話を始めた。
「最初っつうか、やっぱり俺が牡蠣に当たったのが納得出来なくて色々考えてたんだよ。日頃の行いが原因ってならお前だって当たる筈だしさ」
しかし世界最古の怪物に毒や薬は一切効かない。
当然食中毒も起こさない。
トクメとダルマだけならともかく、シスも当たっていなかったのでただ運が悪かっただけだとゼビウスも思っていたのだが……。
「でもよく考えたらシスって毒ばっか食べてたから毒耐性めっちゃあるじゃん? ほとんど無効とも言えるぐらい。で、毒の効かない奴だけが当たっていないとなるとこれはもう運とかそういう話じゃなくなるだろ」
「……確かにそうだな」
「それでちょっと看病ついでにムメイちゃん調べてみたら極微力だったけど蠱毒の一部見つけて、後はもう芋づる式に。流石にあの村というか、あの辺り全体の時間と次元がズレてた原因が世界最古の怪物とは思わなかったけど」
時間の流れがズレていたので魚介類などが痛む事なく新鮮なままで食べる事が出来たわけだがゼビウスは種族の関係上摂取した物が本来の時間通りの状態に戻ってしまい、それが食中毒を起こした原因だった。
ちなみにムメイは牡蠣ではなく蠱毒という呪を摂取した事による激しい拒否反応なので、牡蠣に当たったのはゼビウスだけと言える。
「これ普通の人間なら何の問題もなかったんだよ。極微量とはいえ蠱毒を摂取し続けているから、いずれあの最古の怪物の一部になる事以外は。まあその最古の怪物がいなくなった事で時間も元に戻って、全員見事に食中毒起こして綺麗に全滅してくれたおかげで俺が冥界に戻らなきゃいけない程仕事が増えたんだけどな」
ちくちく嫌味を込めているのはそもそも食料が腐らない理由を調べて村を離れるか、それに頼らず干物にするなどして対応していれば冥界に戻らなければならない程の死者が出る事はなかったという怒りがかなり入っている。
傷んだ牡蠣を食べさせられた怒りも。
「……私が来た時ケルベロスとガルムはまだ働いていたが?」
「お前が来るまで俺もちゃんと働いてたの。ケルベロスとガルムがもう大丈夫だって言うから、戻る前にちょっと休憩してたらお前が来たんだよ」
話に一段楽がつきほうじ茶ラテを飲み終えたゼビウスは最初と同じ割合でお代わりを注ぎ、トクメも合わせるように飲み終え二杯目は先程よりミルクの割合を増やした。
「よし、村の話についてはこれで終わりだな。それで、シスの始末についてだが……」
「早ぇよ。お前もうちょっと余韻とかないの? 気が狂う程探しまくってた同族が見つかったと思ったら変わり果てた姿になってた上にどっか消えたんだけど? 感傷に浸るとかすればいいのに」
「いつの話をしている。確かに探していたがそれは同族ではなく旧世界を知っている者だ、お前と会った時点で既に目的は達成している。それに他の同族がダルマみたいな者だという可能性を考えればいっそ会わん方がいい」
「ええ……」
自分の事を棚に上げまくるトクメにゼビウスは多少引いているが、トクメは気にした様子もなく本題の続きを話していく。
「そんな事よりシスだ。奴が自ら殺せと言っている以上望みは叶えてやるべきだろう」
「望んでねえよ。アレはムメイちゃん助ける前に殺されたら意味がないから言っただけだ、意味を取り違えるな」
「それはつまり意識のない状態の娘に無体を働いたシスを放っておけと?」
「言い方。つうか、アレがムメイちゃんにとって一番負担のない安全な助け方だったんだからいいだろ」
「お前も助けようとしていなかったか? それを押し退けてまでやったという事は下心があったと判断するに十分だ」
「俺普通に腹殴ろうとしてたけど?」
「は?」
話している内に怒りが増してきたのだろう、早口になっていたトクメだがゼビウスの言葉にピタリと口が止まった。
「一応手加減するつもりだったとはいえ蠱毒を全部吐き出させる為だから、下手したら内臓破裂してたかもな」
「……」
「後は口に手を突っ込んで引きずり出すか。でもそれだと顎外れるかもだし、何よりムメイちゃんにかかる負担が凄まじい。やっぱシスの取った手段が一番良かったんだって、下心関係なしに」
「お、お前がそれをしていれば私はまだ納得していた……筈だ」
「信頼してくれてんのは嬉しいけど蠱毒を咥えるのは勘弁。シスが捨て身と言える方法でムメイちゃんを安全に助けてくれたんだから感謝……は無理か、一発殴るぐらいで済ませらんない?」
「それをするとたった一発殴っただけでシスを許さなければならないだろう。それならばいっそ何もしない」
「あ、許すつもり微塵もないな」
「当然。まあお前がそこまで言うなら命は許してやるが、今後ムメイに接近する事は許さない」
「…………」
多分トクメもアレがムメイにとって一番安全で負担のない方法だと理解したのだろう。
ただそれをした相手が悪すぎた。
「……お前ガムシロップ入れすぎ。ほとんどガムシロップじゃん」
一応説得は出来たみたいだがそれでも殺意は消えていないらしく、それを紛らわせる為かトクメは勢いよく二杯目を飲み干した。
そのまま三杯目のほうじ茶ラテを入れたがミルクの割合は大分増えており、それ以上にガムシロップの割合が多くなっていた。
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