第87話 ダルマ違い

「ほお、なるほど。妾が眠っている間にベヒモスの体内の中へ入り込み移動しておったのか……子を探すならまずは妾が血をばら撒いた場所まで戻る必要があるの。ふむ、ならば次の目的地は妾が眠る前にいた大陸、こことは違う他大陸じゃな、そこへ行くとしよう」

「違う大陸?」

「確か大陸はここ含めて七つあったと思うけど……分かるの?」

「うむ、バッチリじゃ!」


 見るからに楽しそうな世界最古の怪物と仲良く話しているムメイとシスに、トクメとゼビウスは嫌そうな顔を隠しもせずどんどん機嫌が悪くなっていった。


 ゼビウスは最初の対面で最悪の印象を持った相手に息子が友好的なのが気に入らず、トクメは同族に娘が自分以上に懐いているようなのが心底気に入らないらしい。


「何でついてくるだけのお前が行き先を決めるんだよ」

「旅行とは言っておるが特に行き先も目的も決めておらんのじゃろ? ならば妾の子を探す子探しに付き合ってほしいのじゃ。勿論手伝えとは言わん、それに他の他大陸ならここにはない食材や料理、チーズがある故つまらないという事はない筈じゃ」


『チーズ』の言葉にトクメの肩が跳ねたが表情に変化はない。

 堪えているみたいだがこの言葉でトクメが堕ちたのがゼビウスには分かった。


「このチーズ狂いめ……つうかお前この世界全部まわってるから今更知らないチーズとかないだろ」

「時が進むと新たなチーズが誕生する可能性は非常に高い、つまり探す意味はある。チーズに罪はない」

「……もしかして私の心読んだ?」

「妾は相手の考えておる事が自然に聞こえてくるのじゃ。先程は初めて会えた同じ同族にはしゃいで喋りまくってしまったが、妾は言っていい事といけない事を聞き分ける分別はきちんと分かっておる! 故に安心するがよい」

「出来れば全部口に出さないでくれると助かるんだけど……」

「うむ、あい分かった! 関連する事も控えよう」


 チーズを話題にしたのは偶然ではないらしい。

 チッとゼビウスは小さく舌打ちしたが、シスには聞こえたらしく肩をビクつかせたので軽く手を振り問題ないと伝えた。


「そうだ、妾にもトクメのように名が欲しいの。何か良い案はないか?」

「それぐらい自分で決めろ」

「トクメは頭、というより目玉故『特大の目玉』を略したのか。しかも娘のムメイと似た意味を持つ言葉『匿名』からも取っておるのか、ならば妾もそれにちなんだ、胴体に関する名がよいの」

「……ゼビウス」

「あ? また俺の心読んだな」


 再び顔を鷲掴まれる気配を察知したのか素早い身のこなしでゼビウスから距離を取った。


 トクメと同族ではあるが運動神経は種族の特徴ではなく個体差らしい。


「おっと、そなたに関わる事ではない故問題ないであろう? というよりも妾はてっきり口に出しているものと勘違いしたのじゃ、悪気はない」

「堂々と言うな、余計腹立つ。……ダルマだ」

「? 何がじゃ?」

「名前が欲しいんだろ? 俺がつけてやるよ、お前は今日からダルマだ。胴体のお前にピッタリな名前だろ」

「ほう、ダルマ。うむ、短くて呼びやすい、それに何やら可愛らしい響きじゃの、気に入った! 妾は今日からダルマじゃ! よろしくのムメイ、シス」

「う、うん、よろしく」


 世界最古の怪物改めダルマは名前をつけてもらい嬉しそうにしているが、ムメイの顔は何故か引きつっている。


「ムメイ……? 何か意味があるのか?」

「ダルマって飾り物があるんだよ、手足のないやつ。あいつにぴったりな名前だろ?」

「あ、丁度持ってた。ほら、これ」


 シスの疑問にムメイは何処か言いにくそうにしていたが、ゼビウスに説明され助かったとばかりに自空間から手の平に乗る大きさの赤いダルマを取り出した。


「これがダルマ? ゼビウスにしては随分可愛らしいまともな名前を……」

「それどういう意味?」

「っ、えっと、いや、何でもない」

「あー……ダルマって胴体部分なんだ。なら本来の姿は蛇みたいなもの?」

「そんな上等な生物に例える必要はない。内臓もない皮だけのようなものだ、紐でいい」

「…………」


 シスは気づいていないみたいだがゼビウスは確実に違う意味の方でダルマと名付けている。

 そしてトクメは悪意を隠そうともしていない。


 それでもダルマは何も気づいていないようなのでムメイは何も言わず、考えたりもしないよう他の事で頭の中を埋めた。

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