第86話 パイルドライバーをかけようとした

 ある日いきなり、何の前触れもなく世界は滅んだ。


 何が起きたかを把握する前に新たな世界が出来上がり、以前と同じように世界が育っていくのをただ眺めていた。


 ずっと、ずっと。


 その内眺めているのも飽きて長い眠りにつき、目覚めると世界は前回と同じような成長をしていた。


 ただ全く同じではなく、前の世界では見た事ない動物達を、同じく前の世界では人に扱えなかった魔法で狩りをしている。


 それが新鮮で面白くてしばらく眺めていたが、それ以外特に変わった事はなかったので再び眠りについた。


 次に起きた時、世界は前とは全く違う成長をしていた。

 魔法による技術が発展し、それを利用した様々な道具が作り出され前の世界にはなかったもので溢れていた。


 この新しい世界が楽しくて色々と眺めている内に『家族』というものを知り、酷く惹かれた。


 己とは違う存在でありながら己とよく似た存在である『子供』というものが欲しくて欲しくて仕方なくなった。


 だが世界最古の怪物に繁殖能力はない。


 ディメントレウスが世界で唯一の存在に子孫は不要と省いてしまい、そのディメントレウスも死んでしまった今、己の子供を産む事は不可能。


 しかしだからといって子供を諦める事は出来なかった。


 子を産む事は出来ずとも他に方法はある筈。


 己の血と遺伝子を引き継いだ子供を作り出す方法が。


 ******


「というわけで、妾は自分の血液を辺りにばら撒き近くの者達が摂取するのを確認してから長時間の長い時を眠り、起きたら妾の血を引き継いだ子供を探し、いなければまたばら撒くを何度も繰り返しておるのじゃ」


 新たに出会えた世界最古の怪物の説明を一通り聞き終えたゼビウスは椅子の背もたれに身体を預けグッタリしており、トクメも机に片肘をつき額を押さえている。


「お前の事情は分かったが、その頭痛が痛いみたいな話し方は何とかならんのか」

「ああ、だからこいつの話聞いてて疲れんのか……シスは別部屋に居てもらって正解だったな」

「ほうほうオルトロスを子供に……養子か、なる程その手があったの。しかしやはり妾は血が繋がった我が子が欲しい! 前回からまだ数百年程の年数しか経っておらんが探しに出ても良いかもしれんの。うむ、そうと決まれば妾もそなた達の旅行に同行させてもらおう。旅は大勢の方が楽しかろう」

「は?」


 こちらの状態を全く気にせず勝手に話を進められていくが、それよりも気になった内容にゼビウスは眉を顰めた。


「何でシスがオルトロスで俺の子供と知っている。つうか旅行の事も話していないし……お前もしかして……」

「うむ、その通り。妾は相手の思っている事が読めるのじゃ! といっても同族、いや元同一の存在であるトクメの心の中の心中は読めぬからお主から……」


 言い切る前にゼビウスが相手の顔を鷲掴んだ。

 そのままギリギリと力を込めて顔を締め上げていく。


「あいだだだだだ! ちょっ、ま、待ちなんし! 顔が! 顔が潰れる!」

「ああ? トクメと同族って事は不老不死なんだろ。なら顔潰れても死なねえし傷も治るから何の問題もねえだろ」


 ゼビウスの口調が荒れている。

 自身の事を知られるのを心底嫌がるのでそうとう怒っているみたいだが、トクメには何の被害もないので同族の悲鳴を聞き流しながら部屋にあったクッキーをつまみ紅茶を口に運んだ。


 少ししてゴキリだかバキリだか、不穏な音と呻き声が聞こえると同時に静かになりトクメが顔を上げると気絶している同族だけでなく何故かゼビウスまで床に伏せていた。


「……は?」


 ほんの一瞬クッキーに意識を移した間に一変した状況にトクメの口からは間抜けな声が漏れる。


 何が起きたか調べようにも同族から過去は探れず、ゼビウスにやると後が面倒くさいので調べる事が出来ない。


 仕方ないのでトクメは倒れているゼビウスを眺めながら再びクッキーを食べ始めた。


 ******


「ゼビウス、大丈夫か? 何があったんだ?」

「うう……トクメの同族だからあいつも重いと思ったらめちゃくちゃ軽かった……シスも気をつけろよ」

「え?」

「軽い物を重いと勘違いして力込めると身体、つうか腰への負担が凄まじい。壊れる」

「……ああ、気をつける……」

「あーくっそ、俺あいつ嫌い」


 ゼビウスの腰が完治するのに三日かかり、その間に世界最古の怪物の同行が完全に決まっていた。

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