第84話 さよならは突然に

 罰ゲームでベヒモスのところへ来たというベルゼブブだが、何故かゼビウスと同じくベヒモスを眺めたまま動こうとしない。


「ベルゼブブ? 行かないのか?」

「いや……サタンにはここへ行けとしか言われていないから別にベヒモスをどうこうする必要はないなと。あと今のベヒモスと戦うとアスモデウスがお前とそういう仲だったのかと囃し立てるだろうから行きたくない」

「ああ、うん、アスモデウスなら絶対そう言うだろうな。サタンなら流石に大人しくするだろうけど」


 仲間達からもアスモデウスは厄介がられているらしい。


「なあゼビウス、このままベヒモスが誰かに倒されるまで眺めておくのか?」

「トクメが戻ってくるまでに片付けておきたかったんだけどこれは仕方ない。あいつだってここにいたら同じ事すると思うし」

「……思ったんだが……ベヒモスはレヴィアタンを探しているがレヴィアタンは番と認めていないのだろう。なら第三者である俺達がどうこうするより、お前がベヒモスに番を解消するとはっきり言ってフッてきたらいいだけの話じゃないか?」


 ベルゼブブの提案に全員が黙り込みレヴィアタンへ視線が集まった。


「……悪魔が正論吐くと無性に腹立つな」

「俺を見ながら言うなよ。あっ、だからってベルゼブブを攻撃すんなよ!」

「悪魔以上に理不尽な奴め……」

「理不尽が正道な悪魔が理不尽と感じるならそれは正道って事だろ。それに、俺よりもっと理不尽な奴がいるからそれはそいつに言え」


 友好的なのかどうなのか判断に悩む会話をしていたゼビウスだが、急に会話を止めると手で口と鼻を覆った。

 レヴィアタンとベルゼブブは何とも無さそうだが何か異常は感じたのか辺りを見渡している。


「ゼビウス?」

「ムメイちゃん、ちょっと中いれて。流石にこれは無理」

「え? うん」

「何か来るのか?」

「来るよ、ベルゼブブ以上に臭い奴。多分トクメも一緒だ」

「え?」


 ゼビウスが言うと同時にベヒモスのいる方向から派手な音が響いてきた。


「うわ、何だこの臭い……腐った肉、腐りすぎた肉? すえた臭いなんてもんじゃねえぞ」

「おい、何だアレは……」


 ベルゼブブの指した先には濃い紫色をした巨大な芋虫のようなものが、ハサミ状の顎と思われる部分でベヒモスを挟み上げていた。

 ベヒモスも抵抗はしているみたいだが遥かに巨大な芋虫らしきものにはなすすべなく、そのまま一度芋虫もどきは全身が見えるまで飛び上がるとその勢いのまま地面へと出てきた以上に派手な音を響かせベヒモスと共に沈んでいき、完全に姿がなくなると今度は辺り一面静寂に包まれた。


「……は?」


 いきなりの事にレヴィアタンとベルゼブブは何の反応も出来ずただぽかんと見上げたまま固まっている。


「……ゼビウス、今のは……?」

「死体の管理をしているやつの一部。ベヒモスを連れて行ったって事はあいつ死体だったのか」

「ゼビウス以外にも死者を管理している奴がいたのか……」

「俺が管理してんのは魂だけ、死体はあっちの管轄。あいつ厄介な趣味持ってるからあんま近づかない方がいいよ、まあ臭いが強烈だからシスなら大丈夫か」

「ああ、一部なのか、道理で奴にしては小さいと思った。しかし本来ならベヒモスは対象外だろう。しかも、しか……趣味に使うには明らかに範囲外だ、誰かが埋葬したわけでもない死体を何故わざわざ回収した?」


 ゼビウスの簡単な説明にベルゼブブだけはそれで大体の事情が分かったみたいだが、それでも疑問が残ったようだった。


「交渉の結果だ。奴がいなくなっても誰も気にせず何の影響もない、無価値故に価値ある死体という条件に当てはまったのが奴だった」

「お、トクメ。つまり交渉は上手くいったって事か、お疲れさん」


 ベルゼブブの疑問にはいつの間にか背後に現れていたトクメが答えたが、いつもの人の姿ではなく元の目玉になっている。


「交渉? 何の?」

「内緒。ムメイちゃんならその内分かるからそれまで待ってたらいいよ。それよりトクメ、お前今すぐこっち来るか離れるか、とにかく移動しろ。そこにいるな」

「?」


 さっきまでの笑顔が一変し真顔になったゼビウスの忠告にトクメは素直に動こうとしたが、急に暗くなった視界に一度地面を確認してから空を見上げ、固まった。


 上空から大きな何かがトクメ目掛けて落ちてきている。


 見上げたまま全く動かないトクメだったが、謎の物体はトクメに当たる寸前にバゴッと鈍い音を立てて動きを止めそのまますぐ隣へ静かに落ちた。


 どうやらムメイが魔力で壁を作りトクメを守ったらしい。


「よくやったムメイちゃん。しかしお前相変わらず運痴という言葉じゃ表せないほど動き鈍いな。動体視力はバカ高いくせに何で反射神経死んでんの」

「流石に私もそこまで鈍いわけではない。ただこれは……」


 ムメイが珍しくトクメの為に動いたというのに、肝心のトクメは落ちてきた物体に意識がいってしまっている。


「何か知ってんの?」


 落ちてきた物体は今のトクメと同じ大きさの淡い黄色をした球形だが、先程の音からしてあまり重さはないように感じる。


「私の同族だ」

「は?」


 全く予想していなかった言葉に今度はゼビウス達が固まった。

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