第74話 レヴィアタンの扱い

「扱いが雑なのにも程があるんだよなああ!!」


 レヴィアタンの第一声の叫びにシスとムメイは両手で耳を押さえた。


「確かに煮るなり焼くなり好きにしろと言ったけど! だからってファラリスの雄牛に入れるか普通!? つか何で普通に持ってんだよ!」

「普通じゃないから持ってんじゃない?」

「良かったな、今は普通に外に出れてんじゃねえか」


 出発の時は確かにいた筈なのに気づけば姿を消していたが、どうやら一晩中ずっと焼かれていたらしい。


 レヴィアタンはその事で怒っているようだがトクメとゼビウス、どちらの性格から考えても外に出されただけ十分待遇は良い方に入る。


 しかしそれを知らないレヴィアタンは感情のままに今も喚き続け、シスとムメイはそれを適当に聞き流している。


「あの後悪名高き長靴履かれそうになったんだけど!? 外歩くなら靴を履くべきだって、俺元から履いてんだろうが!!」

「長靴が嫌いなのか?」

「違う違う。この場合の長靴と言うのはファラリスの雄牛と同じ拷問器具の方」


 長靴という名前ではあるが実際は鉄製のすね当てのようなもので、内側に鋭い突起が無数についている。

 それを嵌めさせた後はネジで締め上げ圧迫させ足の骨を砕く拷問器具である。


 時には更に苦痛を増やす為に楔を打ち込んだり熱湯や油、靴そのものを熱したりと様々な使い方がある。


「うわ、そんなものもあるのか。でもよく諦めさせる事が出来たな」

「その結果がこの首輪だよ」


 そう言ってレヴィアタンは首に付けられている真っ黒な首輪を指差した。


 命の心配がないとはいえ終わりのない拷問を何とか避けようと降伏宣言をしたはいいが、大嘘つきとされるレヴィアタンの言葉は当然というべきか全く信用されなかった。それでもレヴィアタンは諦めず必死に縋った結果、トクメと比べればまだ話が通じるゼビウスが保険として敵対行動を取った時に電気が流れる首輪を装着させる事で何とか収まった。


 それでもトクメは渋っていたがゼビウスに引きずられそのまま何処かへと連れ出され、今も戻ってきていない。


「不死なの知ってやがるから本当容赦ねえよあいつら……」

「ああ、誰が相手だろうと容赦も手加減もしないからなあ……どっちも」

「本当、よく首輪だけで終わったわね」


 思う存分叫び、同意も貰えてようやく満足したのかレヴィアタンはテーブルへ着くと勝手にお茶を飲み始めた。


「あっ? ぐっ! があああああ!!」


 すると急にレヴィアタンが叫びだし床へと転がりだした。


「えっ。何、何? どうしたの?」

「電流? 敵対行動を取ったのか?」


 バチバチと響く音と、痙攣しながらも首を掻き毟るように引っ掻くレヴィアタンのその行動にシスはムメイが感電しないよう前に出ながら様子をうかがう。


「……あ。もしかしてお茶、勝手に飲んだから?」


 宿を取る時にレヴィアタンは数に入れられておらず、今いるのはシス達男性陣が泊まっている部屋。

 部屋自体はシスが入るのを許したが、お茶を飲んでいいとは言っていない。


「…………」


 お互い無言で目を合わせるとシスはテーブルに置かれたままのポットを手に持ちレヴィアタンの前へしゃがみ込んだ。


「お茶、飲むか?」


 シスがそう聞いた瞬間、電流が止まったのかレヴィアタンの叫び声と痙攣も止まった。


「……」


 何とも言えない空気が辺りを包み込む。


「行儀が悪くてもダメなのか……?」

「大声で騒ぐのは大丈夫みたいだけど条件曖昧過ぎない?」

「ぐっ、が……あの野郎……! 電流だけじゃなくて首輪も締めつけてきやがったぞ……完全に殺しにきてんじゃねえか……」


 相当強い電流だったのかレヴィアタンは今も床に転がったままだが、何とか起き上がり椅子へと座り直すとそのままテーブルへと突っ伏した。


 ゼビウスはトクメと比べれば確かに話は通じる。しかしそれはあくまでトクメと比べればというだけの事をレヴィアタンはすっかり忘れていた。


「……まあ、何だ。話を聞こうか、お茶でも飲みながら」

「お菓子食べる?」


 先程まではどうでもよさげにしていたシスとムメイだが、今はレヴィアタンへ同情し椅子へ座るとしっかり話を聞く体勢になった。


 レヴィアタンはモゴモゴと聞き取れない程の小さな声ではあるが礼を言うと、静かに手を伸ばし落ち着いて話をはじめた。

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