第64話 イリスVSカイネ
空中では今も激しい剣撃が交わされていた。
お互い相手が一撃を繰り出した瞬間の隙を狙い、それを交わしまた一撃を繰り出すという事をもう何十分と続けている。
目で追うのも難しい程のその素早い剣撃は永遠に続きそうに思えたが、体力面か技術面か、もしくはその両方によりイリスの攻撃数が減りだんだん押されてきた。
そしてとうとう疲労による隙をつかれ武器を弾かれてしまった。そのままカイネはイリスの首元へ剣を突きつける。
「勝負あり、ね」
「っ、まだ、決まっていないわ!」
イリスがそう言うと同時に辺りに大量の水が現れ鋭い槍となってカイネを襲う。
「舐めるな! 私にこの程度の攻撃なんて通用しない!」
カイネの一太刀で水は全て切り落とされると同時に蒸発して無くなったが、その隙を狙いイリスはカイネの剣を手刀で叩き落とし掴みかかった。
「何のつもり?」
「見ての通りよ。戦いはまだ、終わっていないわ!」
言い終わると同時に顔を殴り、掴んだまま地面へと急降下を始めたイリスの狙いに気づいたカイネは薄ら笑いを浮かべる。
「私を地面に叩きつけるつもり?」
「幾ら貴女でも、この勢いで落ちれば無事では済まないでしょう」
「ふふっ……バカな子」
「!?」
カイネは笑みを深めると逆にイリスを掴み返しそのまま体勢を逆転させると身体を固定させ、地面へ向かって更に加速させた。
「地面にぶつかるのはお前の方よ! このままバラバラになってしまいなさい!」
「ーーっ!!」
地面へぶつかる寸前イリスは大量の水でクッションを作り、衝撃を吸収させ何とか無傷で済ませた。
しかし着地に意識を集中させた為カイネの対応が遅れた。
「今度こそ勝負ありね」
「…………」
地面に片膝をついているイリスを見下ろしカイネはゆっくりと手を近づける。
「貴女達七大精霊は己の罪を反省して代々力を弱めていっているでしょう。このまま弱体化を続けて無力な精霊になる前に、私が貴女を吸収してその力をもっと有効に使ってあげる!」
そう言ってカイネはイリスの胸に手を当てそのままズブズブと中へ沈めていく。
「本音が漏れているわよ、カイネ。何を焦っているの?」
手首まで沈んだのを確認するとイリスはカイネの腕を掴んだ。
「抵抗しても無駄よ! 邪魔をする奴はもういない! 今度こそ私の勝ちよ! イリス!! 私が勝てばカイウスの心はまた私の元へ帰ってきて全て元通りになる!!」
罪だ何だとそれらしい事を言っては毎回吸収しようとしていたカイネの真の目的にイリスは挑発するように笑う。
「何がおかしいの!!」
「カイネ、まだ勝負は決まっていないのに何故もう勝った気でいるの。そうやって油断するから負けるのよ」
「何を……?」
グ、とイリスは自らカイネの腕を体内へと進めていく。
「貴女、いつも私を吸収しようとしていたでしょう。だから待っていたのよ……こうして私を吸収しようとする時を」
カイネの腕を強く掴んだ瞬間、イリスの手から黄色い光が発され稲妻のようにカイネの身体を走った。
「あああああ!?」
電撃を受けたようにカイネの身体は痙攣を起こし、すぐさまイリスから離れた。
カイネの腕からは白い煙が上がっている。
「電撃!? いえ、この程度の魔法でここまでダメージを受ける筈がない。一体何をしたの!」
「トクメの魔法講座を受けていて良かったわ……貴女達神族に魔法は効きにくいけれど、別世界の神が作り出した別の魔法はよく効くのでしょう。神通力と言ったかしら」
旅を始めた頃に半強制的に受けたトクメの魔法講座。
あの時トクメは神通力の発祥から使い方まで全てを詰め込んで教えていた。
詰め込まれ過ぎて大変な目にあったが、イリスは今もしっかり覚えている。
神通力は精霊にも効果的だが、カイネの吸収を阻止出来るのならばイリスに躊躇いはない。
カイネは再び攻撃を仕掛けるが、イリスに触れる度に神通力を流され迂闊に攻撃出来ず距離を取る事しか出来ない。
「貴女、正気? 私以上にダメージを受けているじゃない、私が消える前に貴女が消滅するわよ」
神通力を流すたびにカイネにダメージは入るがそれ以上にイリスへの負担は強く、腕からは煙だけでなく稲妻のような火傷跡も出てきている。
「貴女は倒さなくてもいいのよ。それに言ったでしょう、これは時間稼ぎだと。こうして貴女をここに引き止められるのならそれでいいの」
「どういう……っ!?」
その時、上空で強い光が放たれ一本の光の筋が地上に向かって差されているのを遥か遠くから確認出来た。
「あの光は……カイウス!!」
光の正体に気づいたらしいカイネはイリスへの執着をあっさり解き光の方へ向かって姿を消した。
「トクメが勝ったという事かしら……」
ほとんど気合いで立っていたイリスの息は荒く、カイネが去った事で完全に気が抜けてしまい膝から崩れ落ちるように倒れた。
「でもまだ水は上がったまま……ムメイは大丈夫かしら……ウィルフ、ルシア、ごめんなさい……私は動けそうにないわ……」
それでも何とか動こうと手を伸ばしかけたが、指先を動かしただけで全身に走る激痛にイリスはそのまま気を失った。
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