第44話 シスvsブラッディダイル
「シスは何処まで行ったんだ?」
シスを追いかけていたウィルフ達だが、大きな池のあるところで気配が消えてしまい足を止め辺りを見回した。
「ドラゴンもいないわね」
「もっと先へ行ったのでしょうか。でもいつ襲ってくるか分かりませんから気をつけませんと」
「ドラゴンならさっき最初にいた所まで引きずられていたから大丈夫じゃない?」
「ひっ、あっ!」
「ルシア!」
先程までいなかったムメイが真横にいきなり現れ、驚いて後ずさったルシアが足を滑らせ池に落ちかけたのをイリスが間一髪で腕を掴み引き寄せた。
「あ、ありがとうございますお姉様」
「池に落ちなくて良かったわ。ここ、底なし沼みたいよ」
池の水は濁っており、周りにはシダやハスが大量に生えているが一ヶ所だけ植物が荒らされ池の方へと倒れている箇所があった。
「何かに引きずり込まれた跡に見えるが……まさか」
嫌な予感にウィルフが池へと視線をやった時、ボコリと中心から泡が立った。
そのまま泡はボコボコと早く大きくなっていく。
「ウィルフ、気をつけて。この沼に棲んでいる魔物かもしれないわ」
「ああ、分かっている」
イリスとウィルフが武器を構えた瞬間、池の中心から水柱が上がり大きな泥の塊がウィルフ達に向かって飛んできた。
「シス!? それにこいつは……!」
「ブラッディダイル! ルシア離れて!」
「お姉様!?」
泥の塊と思ったのは二匹の魔物で一匹はシス、そしてもう一匹はAランク指定の巨大なワニの魔物、ブラッディダイルだった。
シスとブラッディダイルはお互い身体を押さえつけ噛みつこうとしては避けてを繰り返し、地面を転がりまわっている。
そうしている内にシスがブラッディダイルの鼻を前足で押さえ、怯んだ隙を狙って顔や目を何度も噛みついていくとだんだん回転の速さが落ちていき、とうとう喉元を強く噛みつかれ完全に動かなくなった。
「シス、大丈夫か……?」
「臭いがきつい、水草がまとわりついて重い」
「あ、待て。ここで身体を振るなっ」
「大丈夫大丈夫、壁作ったから。シス、思いっきりやっていいわよ」
「あ、ああ」
シスは身体を振るって泥を飛ばすが、ムメイが言ったとおり壁があるのかウィルフ達に一切泥はかからなかった。
大体の泥が落ちると、ムメイはシスに近づき頭をワシャワシャと撫で始めた。
「ム、ムメイ。まだ泥があるから汚れるっ!」
「いいのいいの、洗えば落ちるんだから。それよりありがとう。シスのおかげで手間が省けたわ」
そのままムメイは頭、あごの下と撫で続け、シスの尻尾はバタバタと勢いよく振られている。
「イリス、野暮用というのはまさかブラッディダイルの討伐だったのか?」
「ブラッディダイルというか、最近沼地に大型の魔物が棲みついて元から生息していた魔物や動物達が襲われているから原因を調べてほしいと言われていたの。ブラッディダイルの生息地を考えるとこの魔物が原因だったみたいね」
「えっと、もしかしてお姉様……倒す気だったのですか?」
恐る恐るといった感じにルシアが尋ねてきた。
イリスの服装から戦うつもりであった事は確かだが、穏やかで優しいイリスからは想像がつかないらしい。
「気性が荒くて大分被害が出ているみたいだったから……」
「言っておくが、イリスは俺より強いぞ」
「え!?」
剣技ではほぼ互角のウィルフとイリスだが、得意とする魔法属性の相性によりイリスの方に分配が上がる。
「随分と楽しそうだな……」
「ひえっ」
そんな話をしていると茂みから目玉姿のトクメが現れ、ルシアが驚いてイリスの後ろへと隠れた。
「お前も来たのか。そういえばドラゴンはどうした? トクメの方へ行ったと言っていたが」
「年齢自慢をしたかったようなのでそれなりの歳になるまで封印した。それよりもだ」
ギョロッと睨んだ先にいるのは今も撫でられ尻尾を振っているシス。
誰が見ても分かるほどトクメの機嫌が悪くなった。
「ムメイ、あまり触るな。そんなに撫でたいのならば泥で汚れたシスより汚れのない私にすればいい」
「シスってあんまりこの姿にならないけど人の姿を続けるのも大変でしょう? 大丈夫?」
ムメイは明らかにトクメを無視してシスを撫でているが、壁を作るのを忘れているのか服の裾が泥で汚れている。
「まあでもそろそろ街に戻ろうか。あ、でもシス達も依頼で来てたんだっけ。こっちの依頼を手伝ってくれたから私も手伝うわ。何を探せば……」
撫でる手を止めそう聞いた瞬間、ムメイ達は街の近くの平原に立っていた。
そばには山積みになった小さな赤い木の実とブラッディダイルの死体が置かれている。
「えっ、えっ?」
「ルシア、大丈夫よ。ただ移動しただけだから」
「また急に……」
「最初に言ったが木の実採取など私にかかれば一瞬で終わる。商業ギルドには早めに行った方がよいのだろう、手伝っただけだ。どうしたムメイ、私を思う存分褒め称えていいぞ。ハグで感謝の意を示してもよい」
「…………」
恐らくシスに対抗しての事だろうが、ムメイは先程までの楽しそうだったが一転して不機嫌そうな顔になり、やはりトクメを無視して何の反応も返さなかった。
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