第37話 只今休憩中
キラープラント討伐は順調に進み早々に三体倒せたのだが、帰る途中にも続々と現れ更に五体倒したところで少し休憩をとることになった。
「何かやたら多いな、種蒔きの時期には少し早いんだけどな」
「それに魔石を確認してみたけど、どれも大きくて品質は高めよ」
ルドラとサリアが手に入れた魔石を確認しているとシスが「そういえば……」と手の平程の大きさの青い石を取り出した。
「うわあ、綺麗……」
「それどうしたんだ?」
「さっきの蛇から出てきたんだがこれも魔石か?」
「こりゃ宝石だな。キングマンバは何でも飲み込むからコレもそうなんだろ。サリア、何の宝石か分かるか?」
「宝石はそんなに詳しくないんだけど……」
自信なさげに言いながら、サリアは宝石を日にかざして眺めたり撫でたりしている。
「ラピスラズリ、かな? でも少し魔力も感じるし……ごめんなさい、これ以上分かんない」
「宝石というのが分かれば十分だ。これは俺が貰ってもいいか?」
「貰うもなにも、そりゃシスが倒した奴から出たんだからシスのもんだよ。な、サリア」
「うん」
シスがウィルフの方を振り向くと、そちらもルドラと同じ意見なのか黙って頷いた。
「それはシスが単独で倒した奴だろう、俺達が口を出す権利はない」
「そうか、助かる」
「けど宝石を欲しがるとは意外だな。それも毒や呪いに関係あるのか?」
「ちょっと手を加えれば軽い呪いなら弾けるようになるからな。宝石なら装飾品にもなるし、丁度いい」
「そうか」
お前装飾品も作れるんだな。
口から出かかった言葉をウィルフはすんでのところで飲み込んだ。
迂闊に聞いてまた重い話になるのは避けたい。
ふとルドラの方を見ると目が合い、無言で首を振っていたのでウィルフもやはり無言で頷き返した。
「そういえばサリアと言ったな。魔法技術と魔力はあるみたいだが無詠唱、無動作は習得していないのか?」
話を変えようとウィルフは先程から気になっていた事を確かめようとサリアに話しかけた。
「あ、えっと、今それを覚える為にお金を貯めていて……そうしたら魔術師ギルドに行って教えてもらう予定なんです」
「そうか……」
サリアの返事にウィルフは少し考え込むように空を見上げてから視線を戻した。
「俺で良ければ教えようか?」
「え?」
「見たところ技術面に問題はないようだし、発動も安定しているから十分使いこなせるだろう」
「その子に教えるなら私にも教えて!」
「お前はダメだ」
勢いよく割り込んできたルシアをウィルフは手で制しながら即答する。
「イリスから聞いているが、まだ魔法の発動が安定していなくて魔力そのものが混じっているのだろう。無動作無詠唱を習得したいなら、まずは安定した魔法発動と完璧な詠唱。教えるのはそれが出来てからだ」
「う〜、分かったわ」
悔しそうにしながらも、ウィルフの話に納得したのかルシアは大人しくなった。
その横でサリアはわたわたと財布を取り出し中身を確認している。
「えっと、あの、ごめんなさい。お金が足りなくて……」
「金はいい」
「え、でも……」
「七大精霊の情報を教えてもらったからな。その礼だと思ってくれたらいい」
「本当にいいのか?」
思わずといった感じでルドラが会話に入ってきた。
魔法を知らなくとも大体の人は知っているであろう七大精霊の事を、しかも当事者に話しただけで礼になるものなのか信じられないらしい。
「当然。今まで散々笑い者にされ愚者代表みたいな扱いだったからな。それを時間が経ったからと自ら調べる気になんて到底なれなかったから、今ここで知る事ができて良かったと思っている」
「あー、そっか、そうだよな……あんた達の事、他の人には言わない方がいいか?」
「精霊である事さえ言わなければ構わない」
「そういえば不思議に思っていたのだけど、何で精霊である事を隠さなきゃいけないの?」
「俺達が精霊と知ったら、十中八九属性を聞いてくるからだ」
実際ルドラもウィルフ達が精霊と知って属性を聞いていた。
そして属性を知れば確実に七大精霊である事が知られてしまう。
「人間だったらまだいいが長命種、エルフ等はまだ当時の事を覚えているかもしれないし同族だと場合によっては面倒な事になる」
「面倒な事ってのは?」
「……さっきも言ったが未だに精霊戦争の賠償というか神族からの制裁行為が続いていてだな……」
「悪い、もう聞かねえ事にする」
既に当時の七大精霊は全滅しているにも関わらず、神族からの制裁は続いているのがウィルフ達現七大精霊が今も同族や一部の他種族から距離を置かれている原因だったりしている。
「精霊は神界へ出入り出来ないよう結界が張られているし、精霊戦争の賠償と称して神界に連れて行かれた精霊や妖精は今も帰れなくなっているから……」
「もういい! もういいからあ!」
遠い目になりながら話を続けるウィルフにルドラは悲痛な声で止めた。
もう七大精霊とは関係ないと言ってもいいウィルフ達が精霊戦争を引き起こした七大精霊と同じ扱いにされているのがいたたまれず、更にはルドラ自身もウィルフから話を聞くまでそう考えていただけに余計にそう強く感じた。
「そうだな、話がそれた。とにかく、金の事は気にしなくていい」
「あ、はいっ! その、よろしくお願いします……」
ペコリとサリアがお辞儀してウィルフの魔法講座は始まった。
******
「大体こんな感じだ。後は実践で慣れていったらいい」
「はい! あの、ありがとうございました」
「良かったなサリア! これでAランクに近づいたぜっ」
「う、うんっ」
頭を撫でられ顔を赤くするサリアだが、誰にも気づかれないようすぐに俯いた。
「何だかんだでルシアも聞いていたが、お前は試すなよ。お前の場合下手すると魔力が逆流して身体が爆発しかねん」
「ひっ、言われなくてもやらないわよ!」
「暴発って怖ぇな、とりあえず慣れるまではCランクで安全に倒せる奴を相手にするか」
「うん、その方がいいと思う」
「そろそろ行くか……シス、起きろ。帰るぞ」
「……ん、終わったのか?」
「ああ、待たせて悪かった」
魔法が一切使えないシスはオルトロスの姿に戻り寝ていたが、ウィルフに声をかけられるとすぐに起き、一度あくびをしてプルプルと身体を震わせてから人の姿へ変えた。
「何だかシスさんって犬みたいね」
「サリア、シスはオルトロスになれる人じゃなくて、人になれるオルトロスだ」
「あ。そうだった……」
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