第23話 親子以前の問題
ウィルフとシスが店に入ったのはそれから一時間後だった。
色々街を歩き、食事が出来る店は他にもあったのだがどれもシスが食べられないメニューしかなく、最終的に酒場に落ち着いた。
「朝から酒場か……」
「人があんまりいないな」
「まあ酒場だからな、人が少ないのはむしろ都合が良い。そういえば酒は大丈夫なのか?」
「ああ、ワインはダメだったがそれ以外なら色々飲み合わせても吐いた事はない」
「相当強いんだな。なら安心だ」
酒場で出される料理は焼いただけや煮ただけなどの簡単な物がほとんどで、これならシスも安心して食事をする事が出来る。
酒場なので飲み物が酒しかないのは諦めた。
「それで、話ってのは?」
「ん? ああ、ゼビウスにお前が定期的に冥界へ帰ってくるよう説得しろと言われた」
早速運ばれてきたエールを飲みながら言うと、シスは噴き出しかけたエールを無理矢理飲み込んだ後思い切り咽せた。
「ゼビウスが!? 何でウィルフにっ」
「俺が聞きたい。朝起きたら冥界にいて、加護をつけられた。お前が冥界に帰るようになるまで外す気はないらしい」
「あ……何て言うか……すまん」
「悪いと思うならすぐにでも顔を見せに行ってやれ」
「それは無理」
申し訳なさそうな顔から一転して真顔で即答すると、シスはそのままエールを一気に飲み干した。
「何故? 仲が悪いわけじゃないんだろう。ゼビウスは心からお前の心配をしていた」
「冥界に出入りしているのを気づかれるとゼビウスが神族に殴られるんだよ、侵略だ反乱だってな」
今度はウィルフが盛大に咽せた。
「ゼビウスの首輪を見ただろう? アレはカイウスがつけたやつで、呪文を唱えると首輪が絞まってゼビウスは息ができず動けなくなる。その呪文もカイウスが神族や天使族に教えているから誰だってゼビウスを簡単に殴れるんだ。酷い時はただ暇潰しに殴りに来る奴もいる」
予想だにしていなかった事にウィルフの手は完全に止まってしまっている。
「あの鎖だって冥界の地面から少しでも離れたらカイウスに気づかれて酷い目に合わされる。元々は地面に繋がれていたのを引き千切って自由に歩き回れるようにはしているが、ゼビウスもカイウスには敵わないみたいで鎖自体を外そうとはしないんだ」
次々と明かされるゼビウスの事情に先程までの空腹は消え、運ばれてきた串カツの盛り合わせに手を伸ばせずにいる。
しかしシスは特に気にした様子もなく串カツを手に取り、何故か食べずにウィルフを見たまま動かない。
恐らく自分だけ食べるのは気が引けているらしく、ウィルフは無理矢理手を動かし串カツを一本手に取った。
「……これ、どうやって食べるんだ?」
「そっちか。そのまま齧りつけばいい、串を刺さないよう気をつけろよ」
手本として一口食べて見せるとシスも真似して一口齧り、気に入ったのかそのままあっという間に一本を食べ終えると二本目も食べはじめた。
「ゼビウスが姿を現した時は本当に驚いたな。流石に地上へ足はつけなかったがそれでも十分危ないし、神族や天使族に気づかれたら何をされるか分かったもんじゃない」
「それだけお前の事が心配だったんだろう」
思ってもいない理由だったが、何故シスが冥界に帰りたがらないのかは十分理解できた。
自分が原因で親が傷つけられるのは見たくないし、そんな目にあわせたくない気持ちも分かる。しかしゼビウスからは定期的に帰ってくるよう説得しろと言われている。
どうするべきか。
ふと気づくと串カツの盛り合わせが残り少なくなっていた。
何だかんだ食べていたみたいだがまだ食べ足りず、魚の塩焼きを追加し他にも気になっている事を聞いてみた。
「瀕死の重傷を負っている時に戻るのは何かあるのか?」
「普通に死にかけているだけだ。その状態だと冥界に行っても神族達に気づかれなくていいんだが死にたいわけじゃないし、最近はそう死ぬ程の傷は……冥界に行ける程の傷は負っていないな」
何でもないように言うシスにウィルフは頭を抱えた。
死ぬ寸前にしか帰って来ず、しかも最近は帰っていないのならゼビウスが無茶をして地上へ姿を現したのも、定期的に顔を出せと言うのも納得できる。
ふと顔を上げると、シスが注文した魚の塩焼きを勝手に食べようとしたのでその手を軽くはたいた。
「コラ、それは俺のだ。食べたいなら自分で注文しろ。……ところで、俺につけられている加護は大丈夫なのか?」
自身の身を案じたワケではない。
冥界の加護を受けているともし神族や天使族に知られたら、ゼビウスはどうなるのか。
やはり殴られるのだろうか。
「『冥界』とさえ知られなければ……多分。ただ、神の加護を受けている事自体気づかれない方がいいとは思う」
「……そうか……」
ゼビウスも他の神族と同じくまともでないと思っていた。
実際強制的に拉致され、ごく自然に脅迫してくる辺り十分横暴と言える。
だが、それ以上に、ゼビウス以外の神族がまともでない。
トクメがゼビウスはまともと言っていた意味がようやく分かった。
「こんなのが許されていい筈あるか」
「カイウスがそう決めたからな、それが正しいと決めたら誰もがそう従う」
実際カイウスは主神であり、力だけでなくその影響力も凄まじい。
カイウスの言葉を否定すれば即座に悪と判断され、周り全てが敵になってしまう。
実際過去にカイウスに花を渡さなかっただけで神族だけでなく、同族の精霊達からも追い詰められ消滅してしまった精霊もいる。
だが、相手が主神だろうと関係ない。
親子がまともに会う事すら出来ないなんてそんな正しさなどあってはならない。
「カイウスや誰にも気づかれず安全に冥界へ行ける方法は必ずある筈だ」
シスとゼビウス、この親子が安心して会えるようにしたい。
ウィルフは俄然やる気になった。
「よくよく考えると、俺に無理矢理加護をつけたのは神族達から俺が非難を受けさせない為か。冥界へ行ったのも拉致されたとなれば俺を責める事もできず、加護だって強制ならば何も言えない。そこまで考えての行動だったとは……」
「いや、多分ウィルフの事は考えていない。絶対」
「え?」
「神族共にケチをつけられるならつけてみろって挑発か、地上の奴に加護つけたのに気づかないのか? って喧嘩を売ってるかのどっちかだな」
「……」
「ゼビウスは結構性格悪いから…… 大人しく殴られているだけってのはまずない」
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