第4話 旅行決定
精霊という種族は大きく二つに分けられる。
一つは火や水といった属性から誕生した者達。
一つの属性に多く存在し、一般的に精霊と言えばこちらの方を指す。
もう一つは強い願いや感情などから誕生した者。
こちらは基本一つの感情に一体しか存在せず、大体は誕生した感情にそった行動を取っている。
例えば平和を願う心から生まれたイリスは戦いを好まないが、平和を荒らす者には容赦なくレイピアを向ける。
正義を願う心から生まれたウィルフもまた同じだった。
しかしその性質上規律や法律といったものを何より尊重していた為、全ての行動思想を規律や法律で決めれば世の中から悪は消え去ると考え行動に移した結果、自由の精霊の逆鱗に触れてしまい吸収され取り込まれた。
「私も怒りで我を忘れていたから完全に取り込もうと思ったんだけど、丁度目の前にイリスがいるのに気づいて止めたのよ。でももうほとんど吸収していて戻らなかったからルシアが生まれたみたい」
空中で優雅に足を組みながら話す自由の精霊に、ウィルフは過去の行いを反省しているのかいつぞやのルシアのように正座して何も言わず大人しくしている。
「このウィルフという男については分かったけど、何故今更復活したの」
「私が名前を呼ばれて引っ張られたから。ほんの一欠片といえどウィルフはウィルフだったからその場に残されて復活したんじゃない? もしくは同じ精霊のルシアが近くにいたからそれに刺激されて復活できたか、流石にそこまでは私にも分からないわ」
「それにしても、精霊は一つの感情に一つでしょう。消滅しかけていたからとはいえこういう場合はどうすれば……」
「前例がなかっただけで別にいてもいいんじゃない? 特に何か問題があるわけでもないみたいだし」
ドンドン質問してくるルシアに自由の精霊は答えているが、いかにも適当といった感じの態度にルシアが怒りかけているのに気づいたイリスは慌てて間に入った。
「落ち着いてルシア、自由の精霊だって全てを知っているわけじゃないの。あくまで憶測よ」
「そうですが……どうにもこいつと話しているとイライラして……すみません」
「今思うと何であんな愚行に走ったのか……アレこそ俺が最も忌み嫌う悪の行動そのもの……! ましてや最愛のイリスに剣を向けるなど……!」
「ウィルフ、私は気にしていないわ。それより、こうしてまた貴方と会えた方が嬉しいの」
「イリス……これからはどんな理由があろうともう二度とお前に剣を向けたりはしない、永遠に誓おう」
「!? っ!!? っっ!!!?」
ウィルフはイリスと見つめ合った後、強く抱きしめた。
いきなりの行動にルシアは驚愕の表情で自由の精霊とイリス達を何度も交互に見やっている。
「相思相愛って知らなかった? あ、知りようがないか。まあ、そういう関係だから邪魔しないようにね」
「えっ、ええっ、あれ……ちょっと待って。まさか、お姉様の目の前でウィルフを吸収したのは……」
「ワザとじゃないから。ウィルフがイリスに剣を向けていた時に私が来ただけ。むしろあの時イリスと対峙していなかったらそれこそウィルフは完全に消滅していたわよ」
「戻っていたのか……。何故私の所へ真っ先に来ない、ずっと探していたのだぞ」
「あっ! お前はあの時の!」
自由の精霊の背後にあの白い男が現れるとイリスとウィルフはすぐさま離れ、ルシアは素早くイリスの後ろに隠れた。
「あの時いなかったのに教える必要ある?」
「お前がいなくなった後すぐ来ている。つまり私には知る権利がありお前には報告する義務があるという事だ」
「よく言う。こっちが言わなくてもいつも勝手に調べているくせに」
「……あの白い男は何者なのですか?」
何となく小声になりながらルシアはイリスの服の裾をクイッと軽く引っ張りながら尋ねた。
白い男の異様な姿と雰囲気だけでなく、自由の精霊の機嫌が明らかに悪くなった事も加えてルシアは完全に怯えている。
「うーん、知り合い……知り合いが一番近いかしら。知り合い以上と言えなくもないのだけど」
「ただの名前を、いや名前すら知らないただの厄介な奴だ。絶対に関わるな」
「え?」
「相手をからかいおちょくる事に全てをかけていると言ってもいい奴だからな。話しかけても話しかけなくても奴に興味を持たれたら終わりだと思え」
「……お姉様……」
反応に困りイリスを見上げるが、イリスもやはり困ったような笑みを浮かべていた。
「私も何て言ったらいいのか分からなくて……言葉では上手く表現出来ないの。ただとても面ど、難しい性格をしているとしか言えないわ」
「鬱陶しい存在でいいんじゃない、性格も。知ったところでどうこう出来るものじゃないから無視していればいいのよ」
そんな話をしている間に自由の精霊がイリスの所へ戻ってきた。
白い男と一緒に。
「……何かあったの?」
「そう面倒臭い事でも難しい事でもない。ただ明日から私と自由の精霊は旅行をするのでしばらく会う事はないと伝えに来ただけだ」
それを聞いた瞬間ウィルフは白い男には見えないよう喜びで拳を握った。
「……。だが、多少数が増えたところで何の問題もなかろう、ウィルフも来るといい」
「悪いが俺はまだ復活したばかりで万全じゃない。他を、イリスとルシア以外を当たってくれ」
「リハビリと思えばよい。丁度この旅行は人間の姿で行こうと考えているからな、時々やっていただろう? 人間ごっこ」
見えないようにしたつもりだったが白い男はしっかり気づいたらしく、ウィルフを旅行に誘ってきた。
しかしウィルフは慣れているのかそれらしい理由で断りつつイリスも守ろうとしたが『人間ごっこ』という言葉に何も言えなくなりあえなく強制同行が決まった。
後ろではイリスも固まっている。
「ね、ねえ。その旅行に私もついて行っていいかしら」
「お姉様!?」
「そうだな……まあイリスは自由の精霊と仲が良いからな、いいだろう」
硬直から回復したイリスの声は少し上ずっていたが、白い男は特に深く突っ込む事なく少し考えてから同行を認めた。
「お姉様が行くのなら私も行きます!」
「イリス……すまない」
「気にしないで、それにルシアには経験が必要だと思うの。魔力や魔法の使い方は教えるより実際に使った方が早く覚えられるし、人間の世界を見てまわるのもいい勉強になると思うわ」
「お姉様、私の為に……! 分かりました! この旅行で完璧に魔力を扱えるようになってみせます!」
何だかんだ話がまとまっていく中、話の中心にいながら完全に放置されていた自由の精霊が呟いた。
「私の意思は?」
「私の旅行を断る理由などないだろう。仲の良いイリスも加えてやったのだ、遠慮しなくていい。思う存分楽しめ」
「…………」
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