TURN2:転生・目覚めの旋律

「…い…お……おい…おい!!大丈夫か!?」

「……ん…ここは…?」

「おお!気づいたか!良かったぞ…」

 少年が目を覚ますとそこは炭鉱の中であった。そして目の前にはスキンヘッドと立派なひげが特徴的なおじさんをはじめ、男たちの姿が。

「覚えてるかきゅーきゅーちゃん!お前さん落石事故で頭を打って気絶して…もしもお前さんが死んだらどうしようかと…うおーん!!」

「落石事故…?っ…」

 少年が自身の頭に触れると痛みが走る。そして包帯がまかれていることに気が付いた。

(思い…出した…)

 幼いころに両親を亡くしたこの少年。行く宛も無いため、物心ついたころにはこのデュエニウム鉱山で働いていたのだ。

 少年には名前も無いのでこの鉱山では作業員番号が99であることから「きゅーきゅーちゃん」と呼ばれている。ちなみに名付け親は通称8番さん、目の前で滝のような涙を流している、気前のいいベテラン作業員である。

(そして作業中に事故で頭を打って現在に至ると…ん?デュエニウム鉱山って確かアニメに出てきた…いや、アニメって何の話だ?それに…)

 少年が目をつぶるとまるで経験したことがあるかのように、思い浮かぶ。看板の付いたビルが立ち並ぶ街。カードが並べられたお店。そして自動車にひかれ意識を失ったこと…

「きゅーきゅーちゃん大丈夫か?さっきからずっと黙ってるけど…まさか頭の打ちどころが悪くておかしくなっちまったんじゃ…!?」

「あ…え……は…8番さん…俺…本当に頭…狂ったかも…」

「ええ!?」


「ふむふむ、なるほど。知らない場所が思い浮かぶようになったと…もしかしたら前世の記憶とかかもしれないな…」

 ひとまず事情を伝えてみると、8番さんはそんなことを言った。

「前世の…記憶…」

「頭を打った衝撃で前世の記憶が蘇ったのかも!なーんて、そんなことある訳ないか!」

 少年が目をつぶると鏡に映っているイボガエルによく似た顔立ちの男が思い浮かんだ。

(うーん、あれが前世とは信じたくねえかなあ)

「おいゴラア!何サボってやがる!!」

 鉱山内に突如大声が鳴り響く。現れたのは金ぴかのスーツに両手全ての指に付いた宝石、見るからに金持ちそうで悪人面の男。

「あの男…確か牛岡…」

「ああ…この鉱山のオーナーの牛岡金次郎さん、たまに様子を見に来るんだけどこんなタイミングに来るなんて…!あれ?きゅーきゅーちゃんは会うの初めてだったような…」

「なんで掘り進めてねえんだ?」

「実はきゅー…99番が事故で大けがしちまってな…手当してたんだぞ…」

「ケガだぁ…?そんなもん無視しろ無視!使い物にならねーなら捨てちまえ!!」

「な!?そんな事したら死んじまうかもしれねえぞ…」

「死んだら代わりのやつを雇えばいい。てめえらは所詮下級民!死んでも誰も心配せんし代わりなんざぁいくらでもおる!お前らは何も考えずにひたすら働けばいいんだよォ!」

「人を道具扱い…な、なんてひどい…!」

「ふん!そんなことも分からんとは、どうやら再教育する必要があるな…おいガキ!デュエルガジェットを持ってるようだなァ!」

「!?」

 少年は自分の左腕に煤汚れた円形の機械が付いていることに気づく。そして牛岡の左腕にも黄金に輝く同様の機械が。

(アニメでデュエルする時に使うアイテム『デュエルガジェット』が何で俺の腕に!?いや、これは確か鉱山で働いてる時にこのガシェットを見つけて…うーん、さっきから前世の記憶と今の記憶がこんがらがって頭が回らない…とにかく!!)

「わしとデュエルだァ!!」

(今はやるっきゃない!)

『デュエルガジェット・オン!デュエルを開始します』

 ガジェットを起動すると起動ボイスと共に変形し、カードを置くフィールドが出現する。

「「デュエル!!」」


『あなたの先攻です』

(ああ、そうか。前世の世界ではじゃんけんで先攻後攻を決めて、その後デッキシャッフルして…って感じだったが、この世界ではデュエルガジェットが全部自動でやってくれるのか。ACも自動管理してくれるみたいだし便利だな…っと感心してる場合じゃなかった)

「ターン貰います。ドロー」


少年

HP:4000 AC:3 手札:5枚

牛岡

HP:4000 AC:0 手札:4枚


「ああ…デュエルが始まっちまった…きゅーきゅーちゃんの持ってるのはゴミ捨て場で拾った攻撃力の低いモンスターばかり…勝てる訳がねえ…!」

 心配する8番さんをよそに、少年は手札を凝視していた。

(…この手札。もしもあの前世の記憶が正しいなら…!)

「『愚かなコンプレッサー』を使います。デッキのヨブゲロゲを墓地へ」


AC:3→2

『愚かなコンプレッサー』 マジックカード

自分の山札からモンスターを1枚選び、墓地へ捨てる。


「自分のカードをマジックカードを使ってわざわざ捨てるだと!?バカめ!!やはり下級民はろくなカードを持ってないようだなァ!!」

「手札からリボンゲロゲを召喚」

 少年がモンスターをガジェットのフィールドに置くと、カードが光りだす。そして目の前にピンク色の小さなカエルモンスターが現れた。

(おお、モンスターが実体化した。これがこの世界でのデュエル…!)


AC:2→1

『リボンゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100

効果:このモンスターが場に出た時、自分の墓地にある名前に『ゲロゲ』と付く下級モンスターを1体選び、召喚する。(このターン中にリボンゲロゲの効果を既に使っている場合、この効果は無効となる)


「さらにリボンゲロゲの効果でヨブゲロゲ召喚。その効果でドロゲロゲを召喚。ドロゲロゲの効果で1枚ドロー」

 黄色い小さなカエルモンスターのヨブゲロゲ、そして茶色いカエルモンスターのドロゲロゲが現れる。


AC:1→0

『ヨブゲロゲ』

下級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100

効果:このモンスターが場に出た時、自分の山札にある名前に『ゲロゲ』と付く下級

モンスターを1体選び、召喚する。(このターン中にヨブゲロゲの効果を既に使っている場合、この効果は無効となる)


『ドロゲロゲ』

初級 タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:0 防御力:100

効果:このモンスターが場に出た時、場に水タイプの爬虫類モンスターが2体以上いるなら、自分はデッキから1枚ドローする。(このターン中にドロゲロゲの効果を既に使っている場合、この効果は無効となる)


「裏側でカード出します」

(下準備はこんなもんかな…後は…)

AC:1→0


「お…おお!モンスターが次から次へと!何が起きてるか全然分からん!でもきっとすごいぞー!」

「ガハハ!いくらモンスターを並べたところで全員攻撃力0じゃねえか!所詮下級民の雑魚カードを並べたところで無駄無駄無駄!!」

「さらにゲロゲモンスター3体でエクストラ…うおっ!」

 3体のカエルたちが光に姿を変え、デュエルガジェットに吸収された。そしてガジェットから激しい水流が発生し…

「『沼地の支配者ゲロゲロック』をエクストラ召喚」

「ゲロゲロオオオオオオ!!!」

身体中に毒のコブ。そして手には特大ギター。そんな体長3m程の巨大なカエルが雄たけびと共に姿を現した!


『沼地の支配者ゲロゲロック』

条件:水タイプ爬虫類の下級モンスター3体

エクストラ タイプ:水 分類:爬虫類 攻撃力:1500 防御力:1800

効果:1ターンに一度、このカードの素材モンスターを一つ捨ててもよい。そうしたならマジックカードまたはカウンターカードのどちらか一つを指定する。次の相手ターンの終わりまで、互いのプレイヤーは選ばれたカードを発動できない。(このターン中に沼地の支配者ゲロゲロックの効果を既に使っている場合、この効果は発動できない)


「な、なにい!?下級民のガキごときがエクストラ召喚だとォ!?」

「なんと!!こんな切り札を隠し持っておったのか!!」

(エクストラ召喚の演出すげえ迫力…これが俺の切り札…!…間近で見ると…)

(めっちゃキモイ!!)

「ゲロ!?」

(っと、そんなこと考えてる場合じゃなかった)

「ゲロゲロックの効果発動。マジックを選択」

「ゲロオオオオオオオオ!!!!!」

「んぎゃあああ!!耳がァ!」

(うっるせえ!)

 ゲロゲロックのギターによる騒音が周囲に鳴り響く。思わず少年も牛岡も8番さんも耳をふさぐ。

「た、ターンエンドで」

「ふん!わしのターン!ドロー!!」


少年

HP:4000 AC:0 手札:3枚

フィールド:沼地の支配者ゲロゲロック

伏せカード1枚


牛岡

HP:4000 AC:3 手札:5枚


「エクストラ召喚には驚いたが攻撃力1500!?下級モンスター並の攻撃力じゃぁねえか!そんな雑魚じゃわしに敵わぬことを教えてやろう!まずは『ガンウルフ』を召喚!」

 手に拳銃を持った二足歩行の狼のようなモンスターが姿を現した。


AC:3→2

『ガンウルフ』

下級 タイプ:地 分類:獣 攻撃力:1400 防御力:300


「ガンウルフが召喚に成功した直後!こいつの効果を発動できる!相手プレイヤーに100ポイントのダメージを与える!ウルフショット!!」

 牛岡が効果を説明した後、ガンウルフは発砲。銃弾型のビームが少年を襲う。

「っ!」


少年 HP:4000→3900


「さらにガンウルフをダブルガンウルフに進化召喚!!」

 牛岡が進化召喚を宣言すると、ガンウルフの身体は一回り大きくなり、拳銃は右手と左手の二丁に増える。


AC:2→1

『ダブルガンウルフ』

中級 タイプ:地 分類:獣 攻撃力:1800 防御力:700


「さらにさらにダブルガンウルフの効果発動!相手プレイヤーに200ダメージ!!」

 ダブルガンウルフが二丁の拳銃を発砲し、ビーム弾が少年に襲い掛かる。

「うっ…!いっつ…!」

(デュエルで受けたダメージは実際に痛みとして感じる…これがこの世界のデュエル…!テーブルの上で普通にやってた前世のデュエルとは全然違う…!)


少年 HP3900→3700


「ダブルガンウルフの攻撃力は1800。少年のゲロゲロックの防御力も1800。このままじゃ相打ちにされちまうぞ!」

「わしが相打ち程度で許すと思っているのか?ここからが本番!もっともっと痛みつけてやろう!!」

 牛岡の手札の1枚が光を放ち、そしてダブルガンウルフの上に重ねられる。

「銃を操りし獣人の王!歯向かう愚民共を蹂躙せよ!!」

牛岡が口上を唱えると、同時に大地が揺らぎ、ダブルガンウルフの身体が変化していく。

「進化召喚!!いでよ!マシンガンウルフ!!」

「ウオオオオオオオオオオ!!!」

 雄たけびで土煙を吹き飛ばし、マシンガンを担いだ巨大な狼モンスターが姿を現した。


AC:1→0

『マシンガンウルフ』

上級 タイプ:地 分類:獣 攻撃力:2700 防御力:1500


「こ、攻撃力2700だと!?あんなモンスター…いくらきゅーきゅーちゃんでも勝てる訳がない…!」

「がはは!攻撃力が高いだけじゃないぜ!!マシンガンウルフには相手に500ダメージを与える効果がある!こいつでてめえをたっぷりいたぶって…」

「あ、その前に『落とし沼』発動します。マシンガンウルフ破壊で」

「は?」


『落とし沼』 カウンターカード

相手が攻撃力2000以上のモンスターを召喚した時に発動できる。そのモンスターを破壊する。


「ウオ!?ウオオオ!?」

牛岡のフィールドに底なし沼が現れ、マシンガンウルフはズブズブと沈んでいく。うろたえながら沼に沈み、マシンガンウルフは消滅する。

「なななな、なぁにいいいいいいいいィィィィ!?」

「なんと!攻撃力2700もあるモンスターをカウンターカードで破壊した!?これで牛岡さんのフィールドはがら空き!」

(さらに相手のACは既にゼロ。このターンはもうカードが出てくることも無い)

「くっそお…ターンエンド!!」

「ターン貰います。ドロー」


少年

HP:3700 AC:3 手札:4枚

フィールド:沼地の支配者ゲロゲロック


牛岡

HP:4000 AC:0 手札:2枚


「『魔鎖鬼の壺まさきのつぼ』で2枚ドロー。さらにウォーターガードナー召喚」

 少年が召喚すると盾を持った液状の人型モンスターが水しぶきと共に現れた。

「ほう!カエルのモンスター以外にもモンスターがいたんだなあ!」


AC:3→2

魔鎖鬼の壺まさきのつぼ』 マジックカード

自分の山札から2枚ドローする。


AC:2→1

『ウォーターガードナー』

下級 タイプ:水 分類:アクア 攻撃力:1000 防御力:1600


「カードを1枚伏せます。さらにゲロゲロックの効果発動。対象マジックで」


AC:1→0

伏せカード1枚


「バトル入ります。ウォーターガードナーで攻撃」

 ウォーターガードナーが牛岡に向かってたいあたりをかます。

「ちぃ!」


牛岡 HP:4000→3000


「さらに沼地の支配者ゲロゲロックで攻撃」

 ゲロゲロックの超音波攻撃が牛岡に炸裂。

「うおおおおッ!!」


牛岡 HP:3000→1500


「ターンエンドで」

「ぐぬぬ…わしのターン!ドロー!!」


少年

HP:3700 AC:0 手札:3枚

フィールド:沼地の支配者ゲロゲロック ウォーターガードナー

伏せカード1枚


牛岡

HP:1500 AC:3 手札:3枚


(わしの手札は『ガンウルフ』と墓地のモンスターを召喚できるマジックカード『死者復活』。ガンウルフではゲロゲロックを倒せん。ここは『死者復活』でマシンガンウルフを復活させたいところだが…)

『沼地の支配者ゲロゲロックの効果が発動中です。マジックカードを使用することはできません』

 デュエルガジェットから状況を解説する音声が流れる。

「く…さっきからわしの戦略をあの手この手で邪魔しよって…!!どうしてわしに気持ちよくデュエルさせねえんだ!!」

「ニチャア…」

 少年は性悪そうな笑みを浮かべる。

(だが残り1枚の手札は…ふん!まだ手はある!!)

「ガンウルフを召喚!さらに効果発動!」

 ガンウルフが再び現れ、少年に向けて発砲する。

「っ」


AC:3→2

少年 HP:3700→3600


「カードを1枚伏せターンエンド!!」


AC:2→1


「じゃあターン貰います。ドロー」


少年

HP:3600 AC:3 手札:4枚

フィールド:沼地の支配者ゲロゲロック ウォーターガードナー


牛岡

HP:1500 AC:1 手札:1枚

フィールド;ガンウルフ

伏せカード1枚


「牛岡さんの残りHPは1500!このままゲロゲロックとウォーターガードナーの攻撃が通れば勝ちだ!いけー!きゅーきゅーちゃん!!」

(くっくっく!わしの伏せたカードは『聖なる結界ミラーバリア』!こいつは相手モンスターが攻撃した瞬間、そのモンスターを破壊する!その憎たらしいゲロゲロックを返り討ちにしてくれる!)

「ゲロゲロックの効果使います。対象カウンターで」

『次のターンエンド時まで、互いのプレイヤーはカウンターカードを発動できなくなりました』

「…え??ええええええええええ!?!?!?わ、わしの逆転の一手があああああ!?」

「そのままバトル入ります。ウォーターガードナーでガンウルフを攻撃」

 ウォーターガードナーの盾に押しつぶされガンウルフは消滅する。


ウォーターガードナー:攻撃力1000 ガンウルフ:防御力300

牛岡 HP:1500→800


「うおおっ!」

「ゲロゲロックで直接攻撃」

 ゲロゲロックの騒音と共に発生した大波が牛岡に襲い掛かる!

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


牛岡 HP:800→0


『YOU WIN!あなたの勝ちです。デュエルマネーを獲得しました』

「…勝った」

「わ、わしが…下級民のガキに…負けた!?ひ、ひいい!覚えていろよお!!」

 ゲロゲロックの攻撃でずぶ濡れになった牛岡は慌てて逃げて行った。

「おおおおお!!すげえぞきゅーきゅーちゃん!!あの牛岡さんに勝っちまうなんて!!お前さん、デュエルの天才じゃねえか!?」

「………」

「ん?どうしたきゅーきゅーちゃん?せっかく勝ったのに黙り込んで?」

(…前世から受け継いだデュエルの腕と記憶。こいつがあれば…)

 考え込む少年には、ある思惑が浮かびあがっていた。

(俺、この世界でなら人生イージーモード俺TUEEEEEEリア充勝ち組生活できるんじゃね??)

「ふっふっふ…」

「ん?おお!やっぱり勝って嬉しいんだな!そういう時は思いっきり笑わねえとな!あーはっはっは!」

「ふっふっはっは」


 デュエルオムニバースの世界で生まれ変わり、前世の記憶が蘇った少年。そして記憶と共に生まれた野心。

 しかしイージーモードからは程遠い、波乱万丈な人生が待ち受けているということを、少年はまだ知る由も無かった…!


To be continued…

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