第一章26 『実はツンデレ』

 


 学院二日目の朝、1Aのクラスで電撃が走る。コウの自己紹介に、誰もが疑問を抱いた。


「……おい、コウ。お前って家名あったの?書類にはそんなこと書かれていなかったぞ?」


「あ〜、俺にも色々事情があって、そこまで公にこの家名は名乗れないっていうか……」


 早速ミラ先生に突っ込まれたコウは、ボヤかしながらも説明する。しかし見た感じ、コウの家名について何か知っているようには見えなかった。どうやら、ただ単純に疑問を抱いているようだ。


「お、おう。そうか、事情があるのなら仕方ない……よな」


「……よろしくお願いします」


 難なく自己紹介を終えたコウは、椅子に座る。次はコウの後ろの席が自己紹介する番だ。クラスメイトの名前を覚えるべく、耳を傾ける。


「俺の名前はディーガだ!趣味は筋トレで、この肉体も毎日の筋トレによって手に入れました‼︎ どうぞ宜しく!!」


 金髪に琥珀色の瞳、鍛えられた肉体は制服越しでも伝わった。コウとの体格差も随分とあり、戦闘において彼の肉体は多大なる恩恵を与えると思われる。


 ディーガは自己紹介した後、席に着き、また次の人の自己紹介が始まった。

 一人あたりにかかる時間は短いので、すぐにコウの隣に座る人物――アルの番が回ってくる。


「俺の名前はアルタイル。家族や友人からはよく、アルと呼ばれています。皆さんも気軽にそう呼んで下さい」


 席を立ち上がったアルは、予め考えてあったのか、スムーズに自己紹介を終えた。

 席に座ったアルは、ホッと一息を吐いてからコウに小声で話しかける。


「……ねぇ、もしかしてコウって、何かの貴族だったりする?」


「いや、別にそういう訳じゃないけど、どうして?」


 貴族というものがこの王国にも存在する、それは誰もが知る事実だ。ただ、貴族だからといって特段何かが凄い訳ではない。

 確かに一般人よりは豊かな生活を送っているが、法を破ることは許されないし、平民をどうこうする権利も持っていないのだ。


 もちろんコウは貴族ではないので、否定するのだが……、


「この学院に首席で入学するのは貴族しかいなくてね。不正をしてる訳ではないと思うけど、幼少から英才教育を受けてる影響で、そうなってるんだ」


「へぇ〜」


 ……だから入学式の時、俺の名前が呼ばれた時だけ微妙な反応だったのか。


 アルの話を聞き、少し合点がいった。だけど、「首席なのが貴族」と言うのではなく、「首席で入学するのは貴族だ」と言うのは何故だろうか。

 その答えはアルが解決してくれた。


「まぁでも、入学当時は貴族しか首席にならないけど、学院で修行を重ねた平民が首席に成り上がることがあるんだ。――だから、僕もコウに負けないよ」


「あはは……俺も首席でいられるように精進するよ」


 アルの発言により、改めて『首席』というモノがどのような存在なのかを思い知る。


 ……俺も、頑張っていかないとな。


 話を終えたコウとアルは、再びクラスメイトの自己紹介に耳を傾けた。学院生活はまだ、始まったばかりで、これから沢山の事があるのだ。今も身体に纏い続ける高揚感は、未だかつて無いくらいに高まりつつあった。



 * * *



「それでは今から、二人組を作れ」


 自己紹介を終え、訓練場に来ていた俺たちに、ミラ先生は残酷な言葉を告げる。ミラ先生は、分かって言ってるのだろうか。このクラスは25人しかいないため、一人は余ってしまうということを……。


「あっ、一応言っておくが、余った奴は私と稽古な。みっちりシゴいてやるよ」


 ……っ、やっぱり一人余るということを知ってたか!先生と手合わせ出来ることには若干の興味があるが、なんか怖い。

 ……ここは無難に、クラスメイトと二人組を作ろう。


 コウは軽く咳払いをしてから、隣にいる筈のアルに声を掛けようとする。――しかし、


「なぁ、アル――「おいアル!一緒に組もうぜ!!俺の勝手な直感だが、お前と組んだら何か良いことがありそうなんだ‼︎」


「……う、うん。分かった。やろうか、ディーガ君」


 コウがアルに話しかけるのを遮って、ディーガが割り込んできてしまった。アルはコウを見て、申し訳なさそうにしながらも、ディーガの誘うを受け入れてしまう。


 コウは顔が暗くなるのを感じながらも、別に誰かいないかと探し出すことにした。


 ……でも、何か俺、避けられてる気がするんだよなぁ。


「あれは……ヘスティアか」


 そんな時にコウは、二人組を作るのに困難を強いられてるヘスティアの姿を見つける。どうやらヘスティアはまだ、コウに気付いていないようだ。

 背後からヘスティアに近づきつつ、コウはどう声を掛けようか悩む。


 ……何か話しかけにくいな。でも、普通に話しかければ大丈夫、だよな……。


「あの、ヘスティアさんも組む相手がいないの?もし良かったら、俺と組んで欲しいんだけど……」


 コウが死角から急に話しかけると、ビクンッとヘスティアは跳ね、それでも何事も無かったかのように澄まし顔でこちらを振り向いた。


 ヘスティアは不気味な笑顔を浮かべながら、コウに話しかける。


「私はヘスティアよ。別に“さん付け”なんかしなくて良いわ。コウ


 ……“さん付け”はマズかったか……ってあれ?どうしてヘスティアは“さん付け”してくるんだ?


 ここに一つ、矛盾が生じた。……というはどうでもよく、ここで話を途切れさせてはいけない。コウはヘスティアを誘わなければならないのだ。未知なる恐怖を回避するために。


「あの……俺と一緒に組んでくれる?」


「……良いわよ。私も是非、あなたと剣を交えたいと思ってたから」


「そうか。じゃあ、宜しく」


 ヘスティアは少し考える素ぶりを見せたものの、了承してくた。コウは少し嬉しくなりながら、ヘスティアに右腕を差し伸ばした。


「……?」


 しかしどうやら、ヘスティアにはコウの行動の意味が理解できなかったようだ。


「あ、ごめん。握手のつもりだったけど」


「別に、二人組を作るのに握手は必要ないでしょう。先生もそこまでしろと言ってなかったわ」


 コウが言いながら右腕を下ろすと、ヘスティアはあくまで知っていた風を装いながら、早口気味に言い返してくる。

 別にそこまで否定しなくていいのにな、と内心で思いながらも、コウは「分かった」とだけ言っておいた。

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