第一章15 『実技試験開始』

 


 次にコウが来た試験会場は、体育館だったさっきとはだいぶ違っていた。


 闘技場のような試験会場には、いくつかコートが作られていて、その空間の中で試験官と受験生が試験を行っている。


 列というものは存在していなくて、みんなが自由にして待っていた。

 果たして、こんな状態で自分の順番がくるのか疑問に思ったコウは、辺りをよく観察することにした。


 すると、ちゃんと順番というものはあるようで、受験番号順と思わしき順番で、受験生が呼び出されていたのを確認できた。


 ……良かった。一応、順番通りに行われているみたいだな。


 コウは内心ほっとしながらも、どうやって待っていようかを考えた。


「……座って待つのもよし。素振りをして待つのもよし。観戦して待つのもよし」


 近くにはベンチがあるし、素振りをしても良さそうなスペースもある。だけど、どうせなら観戦して待っているのが一番良いだろう。


 試験官の動きを完璧に分析する、というよりは、他の受験生がどのような剣術、戦い方なのかをここで見ておきたい。


「……始め‼︎」


 たった今、コウのすぐ近くで始まった試験から、コウは一人一人の受験生の動きを観察し始めた。



 *



「おぉ……! 今の人は凄かったな」


「――次、受験番号124番!」


 中には退屈なものもあったが、たった今終わった試験の内容はかなり良かったな、などという勝手な感想を抱いていると、コウの番号が呼ばれる。


 コウは「はい」と返事をしてから、試験を行うコートの下へと向かった。



 試験を行うコートは正方形で、一辺がおよそ11メートルというところだ。

 地面はレンガ造りで、足踏みをした感じだと、相当のことがない限り破壊されることはなさそうだった。


 念のため地面を壊さないようにしようと、些細な誓いを立てながら、コウはコートの中へと向かう。



 コウと試験官はコートの中で互いに向かい合い、剣を構える。

 この試験では、木剣ではなく真剣を使うそうで、決着をつける際には寸止めを用いるようだ。


 試験官はコウの予想していた通り、中断の構えをしていた。そのため、コウはその試験官の構えを見てから、中断の構えから脇構えに切り替える。


「――――」


 無言の沈黙の中、コウの構えを見た試験官の瞳が僅かに揺れた。

 おそらく、今までの受験生にない動きをしていることがその理由だろう。


 コウは剣を握り締める両手の力を一度弱め、また強めた。剣の位置をしっかり固定し、剣先が試験官に見えないように意識する。



「……始め‼︎」


 動きが完全になくなったのを見て、コウたちの準備は整ったと判断したのだろう。

 この試験においての審判的な役割をになう男性は、コウたちを交互に見てから、開始の合図を告げた。



「ハァ――ッッ!!」


 すると、合図が告げられるのと同時に、試験官は思い切りのある声を零しながら、コウに向かって攻め込んできた。


 真上に振りかぶり、力強く振り下ろしてくる。その一連の動作を完全に見切ったコウは、構えを保ったまま後ろに跳んで避けた。


 対抗することはせずに、ひたすらにかわし続ける。

 コートの外側まで追い込むようにして試験官も攻めてくるが、コウは大きく跳躍して試験官の上を通り過ぎ、試験官の後ろに着地して躱す。


 どんなことがあろうと、依然として構えは保ったまま。ただ、剣先が試験官に見えないようにだけ、コウは気を配っていた。

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