第一章1 『絶望に変わる瞬間』
「フッ! ハッ! ヤッ!」
昼ごはんを食べたコウは、皿洗いをしてから、剣を振ることに集中していた。
一振り一振り、腰や腕などの
「ふぅ――っ」
一度、剣を動かす手を止め、コウは近くにあったタオルで汗を拭う。そして、ほっと一息をつきながら身体を休める。
すると、
「おつかい頼まれてくれないー?」
「――分かった!」
コウの母から声がかかり、コウはおつかいを頼まれることとなった。
野菜を色々買ってきて欲しいようなので、少し歩いた先にある市場まで行くことにする。
剣などの武器を持つことは禁止されていないため、腰に剣を装備させた状態で、市場まで買い物しに行くことに決めた。
おそらく、コウが帰ってくるときには日がかなり沈んでいるだろう。
「行ってきます!」
コウは家族に向けて声高らかに言ってから、市場にへと向かった。
* * *
「少し遅くなったか……」
コウが帰り道を歩き始めてから少し経つ頃には、夕日が地平線にかかっていた。買い物袋を提げるコウは、急ぎ足で歩く。
……暗くなる前には家に着いていたいな。
――ドクン――
「――っ‼︎」
心の中で呟いている最中に、コウは何かを感じ取る。
あまりにも突然の感覚に、思わず買い物袋を落としてしまい、コウはその買い物袋をもう一度掴み直そうとする。
だが――、
――ドクン――
「――は……っ‼︎」
今度こそ何かがおかしかった。
まるで何かが、コウに訴えかけているかのような、不思議で辛い感覚。
訴えかけてくる何かは、「家が危ない」ということを確かに訴えかけていた。
「今すぐ行け」と催促してくるかのように、その何かは胸の鼓動を
コウは、袋を掴みかけた手を固く握り締め、買い物袋を置き去りにしながら走り出した。
このどうしようもない焦りの気持ちを胸に抱えたまま、コウは急いで村に向かう。
――だが、運命には絶望が付き物だ。
他でもないこのコウが、このことをよく知っている筈だった。
*
――『地獄』
まさに、この状況を表すのにはふさわしい言葉だった。それは、ただただ絶望と恐怖を感じさせる光景。
コウが時神村に着いたときに見た光景は最悪だった。村中の家がボロボロに壊されていて、村のあちこちで損傷が見られる。
そして――、
辺りには、人のものだと思われる血痕が沢山あった。
「……嘘、だろ……」
コウは、
コウでも気づかないくらいに、コウの手や指は震えていた。
*
――コウの村は、たった一体の魔物によって蹂躙されていた。
コウは、その魔物の姿を見ながら驚愕する。遠くから見ているだけだが、震えが止まる気配はなかった。
体長はコウを遥かに上回っていて、露出している身体はとても引き締まっている。筋肉が多く、腕や足などの全てが大きい。
まるで黒い牛のような見た目をした魔物の鼻息は荒く、
肩には大きな太刀が担がれていて、下劣で外道で不愉快な笑みを浮かべながら、村中を許可なく歩き回る。二足歩行をしていた。
そして、その巨大な体には、赤い返り血がたくさん付着している。
「――ぁ」
瞬間、コウの胸の内で恐怖を通り越した感情が湧き上がった。
怒りでもあり、絶望でもあり、悲しみでもあり、悔しさでもある。
胸で湧き上がり続ける激情は、その流れを止めない。それらは一つの感情にまとまらず、複雑に絡み合った。
「みん、な……」
……ユウキもハルトも、父さんと母さんも、村のみんなも、どうなってしまったんだ⁉︎
……もしかして、もしかして――、
「嫌、だぁ……」
コウの平凡な日常が、『絶望』に変わった
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