第22話 僕の事情
聖マリン大聖堂――現在のミュラー教の総本山を、破壊する。
僕のそう告げた言葉に、キングはひゅうっ、と口笛を吹いた。
「楽しそうな話じゃないの。でも大教皇のマリンちゃんって、ノアちゃんのお友達じゃないの?」
「友達……どうなんだろうね。ギリ知り合いかな」
「何よノアちゃん。お友達の基準、結構厳しいの?」
「厳しいかどうかは知らないけどさ」
マリンはまぁ、なんとなく関わってきただけの相手だ。
かつて僕が一人でリルカーラ遺跡から戻ろうとしたとき、帰り道にいたから一緒に出口まで行った。
父さんと母さん、ハル兄さんが囚われの身になっていたとき、大教皇の隣に立っていた。そのとき、初めてマリンが大教皇の娘だと分かった。そして僕がマリンの父を殺し、彼女が大教皇の職業を授かった。
あと、僕が上位職に転職するための方法を聞きに行った。何故かリルカーラ遺跡に行けと言われた。おかげでリルカーラが仲間になった。
ついでに、ドラウコス帝国が滅びて聖アドリアーナ大神殿が破壊されたとき、聖マリン大聖堂の掃除を手伝った。
うん。
僕とマリンの関わり、それだけだ。
割と薄い。
「でも、ギリ知り合いだからね。死なれると寝覚めが悪いっていうか」
「ふぅん」
「あと、グランディザイアにもミュラー教の神殿を作るって話も出てたし、折角だからそこに来てもらおうかなって思ってるんだよ」
僕が大教皇、そして守護者ゴルドバを倒したとき、マリンに言ったのだ。
グランディザイアにも、いずれミュラー教の神殿を作らないか、って。まぁ、僕が普通に魔王って噂が流れてるから、その話も流れてしまったんだけど。ミュラー教にとって、魔王は絶対悪って認識されてるから、神官が全員拒否したそうだ。
「でも、それだったらノアちゃん」
「うん?」
「いっそのこと、全部ぶっ壊しちゃったらいいじゃない。ミュラー教そのものを。そうすれば、後顧の憂いも全部なくなると思うけど」
「でも、そうなると色々困るんだよ」
はぁ、と溜息。
僕がマリンをグランディザイアで保護しようっていうのは、なにも彼女のためだけってわけじゃない。
「ミュラー教がなくなったら、天職を授けてくれる相手がいなくなる」
「あー……」
僕の言葉に、頷くキング。
そもそも、僕たちに天職を授けてくれるのはミュラー教の神官だ。
オルヴァンス王国ではミュラー教を国教としていないけれど、こと天職に関することだけはミュラー教が必要ということで、そのために神殿を建てているほどだ。そして僕がレベル49で頭打ちになったとき、上位職になるための試練とやらを聞きに行ったのもマリン――ミュラー教である。
この世界で生きていくにあたって、最も必要である天職――それを知るためには、ミュラー教が絶対不可欠なのだ。
「だからまぁ……こう言うと何なんだけどさ」
「ええ」
「ミズーリ湖岸王国にマリンが監禁されてるなら、丁度いいから保護って名目でグランディザイアの中に入れて、そこで国内の天職関連のこと任せちゃおうかなって」
「わぁお。歯に衣着せないわねぇ」
「本人には言わないけどね」
これは完全に、僕からの一方的な希望である。
今のところほとんど魔物ばかりのグランディザイアだけれど、流民を受け入れたりしていくうちに、人口はきっと増えていくと思う。その中には、まだ天職を授けられていない子供もいるはずだ。
そんな子供に対して、「天職知りたいなら他の国で聞いてこい」とはとても言えない。
だから、国内にミュラー教の神殿が欲しかったのは事実なのだ。
「だからまぁ、そういうこと。聖マリン大聖堂は破壊しちゃっていいよ。シルメリア曰く、マリンに味方してる神殿騎士は全くいないらしいから」
「あらぁ、人望ないのねェ」
「人望がないというより、今まで甘い汁を吸ってた連中が、もう一回甘い汁を吸いたくてマリンに反逆したって感じらしいよ」
「なるほどね。それなら、何の躊躇いもなく大聖堂をぶっ壊せるわ」
うん、と頷くキング。
マリンはとても可哀想だと思うけれど、まぁ今後はグランディザイアで面倒を見るから許してほしい。
ちなみに聖マリン大聖堂を破壊する話は、ちゃんとジェシカにも了解をとっている。
ジェシカは「既にミュラー教は、宗教としては歪な形をとっています。今や総本山がなくなったとしても、特に問題はないでしょう。むしろ総本山がなくなったことで宗教としての力を失い、他国が一方的にミュラー教を利用してくることがなくなると思います」とのことだった。僕に宗教と国家の関係は分からない。
「……小僧、そろそろ降りるぞ」
「ああ、パピー。了解」
「ふん。我をただの乗り物扱いしおって」
ゆっくりとパピーの速度が落ち、高度が下がっていく。
既に場所的には、グランディザイアの外だ。街道なんかに降りたら騒ぎになる――パピーもそれを分かってか、街道から離れた崖の上へと降り立った。
さて、ここからは歩きだ。
「んじゃパピー、お疲れ。先に帰ってていいよ」
「……」
「それじゃキング、行こうか」
「ええ」
パピーの背から降り、やや離れたところに見える聖マリン大聖堂。
まぁ、歩いて向かうには少々遠いけど、このくらいなら散歩みたいなものかな。
「……おい、小僧」
「うん?」
「本当に我は帰っていいのだな」
「帰っていいって。さっき言ったじゃん」
「本当に帰るぞ。いいのだな」
「帰れって」
何こいつ。
なんかいきなり、据わった目で何か言ってんだけど。
僕、普通に帰っていいよって言ったはずなのに。
「むぅ……!」
「どうしたんだよ、パピー」
「何故だ! 何故我には大聖堂の破壊とか、そういうことを命じてくれんのだ!」
「は?」
「我できるドラゴンぞ! あの大聖堂破壊しろって言われたら喜んでやるぞ!」
「……」
そう言われても。
今回、僕とキングの二人だけで行く予定だったし。
「小僧! そういうの我には全く命じないではないか! 我に用事と思えばいつもいつもいつもいつも乗り物扱いではないか!」
「あー……」
「我も誇り高きスカイドラゴンだぞ!? たまにはそういうの命じても良いではないか!」
「だってお前、レベル67だから《
「小僧が我だけ強化してくれんからではないか!」
「だってお前嫌がったじゃん」
「もう嫌がっておらぬだろうが! あれからどれだけ経ったと……」
「さ、キング行くぞ」
「ええ」
「我を無視するなぁっ!」
ああ、もう。
こいつめんどくさいなぁ。
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