エピローグ

 僕の国は、野望に近付いていた。

 魔物と人間が共に暮らせる国。魔物と人間が隣人として仲良く暮らせる世界。それが、僕の掲げていた理想だ。

 まだ道半ばではあるけれど、これから僕の国は大きくなってくれるだろう。


「ノア様」


「ああ」


「ドラウコス帝国より、難民の集団がやってきたとの報告です。どうなさいますか?」


「できる限り受け入れて。土地は用意して、当面の食料品についてはシルメリアに相談」


 ようやく、オルヴァンス女王フェリアナとの約束から、二年が経った。

 二年間動くなと言われてきたから、ずっと富国強兵やってきたんだよ。おかげで、軽く国境付近で帝国軍と諍いがあったらしいけど、魔物軍で一気に倒すことができたんだとか。

 そのせいでドラウコス帝国内でも、「帝国はもう終わりだ-!」みたいな風に考える人が多くなったらしく、僕の国に亡命してくる難民が多くなってきたのだ。


「ノア様」


「うん」


「ノエル様より、国境付近に帝国軍の姿を見かけたとの報せです」


「ユーミルの街に、エリートゴブリン隊を派遣して。オーランの街の方にも、一応一軍を控えさせておいて。人選はドレイクに任せる」


「承知いたしました」


 ジェシカ、ドレイクの報告を聞いて、素早く指示を出す。

 割と、王様やってるのも板についてきた気がする。ジェシカは主に内政方面を、ドレイクは主に軍事方面を担当してもらって、僕の裁可を仰ぐ必要がある内容のみ報告するようにさせているのだ。

 最近は難民の移住だったり、オルヴァンスからの人員の補充だったりが続いて、僕の国も人間の割合が多くなっている。相変わらず魔物は多いし、魔王リルカーラが仲間になったから付き従う魔物たちも増えたけど、それ以上に人間の数が増えている現状だ。

 そして、魔物が普通に市井で暮らしているけど、大きな問題は起こっていない。まだ人間側に恐怖心はあるようだけれど、魔物側に決して暴力を振るわないよう厳命しているのが功を奏しているようだ。


「それで、ノア様」


「どうしたの、ジェシカ」


「ドラウコス帝国に入っている諜報員から、Sランク冒険者を次々と帝都に招いていると報告を受けました。どうやら、帝国側はやる気のようですね」


「そっかぁ……」


 ふーむ、と顎に手をやる。

 僕たちへの対策として、Sランク冒険者を招聘しているのだろう。その中には、いつぞや逃がしたシェリー、ランディの二人もいるのかもしれない。

 だったら、僕たちも乗ってやろうじゃないか。


「分かった。それじゃ、どうにかしよう」


「では……!」


「ああ」


 帝国は、未だに僕の国――グランディザイアに対する姿勢を、変えていない。

 僕としては、両親も無事だったしミュラー教との和解も済んでるし、そこまで諍いを起こすつもりもなかった。だけど向こうさんはそういうつもりがないらしく、小競り合いを続けている。

 今日も、国境付近に現れたということだし。

 そろそろ、僕も本腰を入れるべきか。


「出陣だ。帝国に攻め込む!」


「承知いたしました!」


 ジェシカに伝えると共に、僕は玉座の間から出る。

 そして、そこに控えるのは僕の仲間たちだ。凶悪な笑顔を浮かべて、僕の言葉を待つ幹部たちが、そこに集っている。


「ご主人、戦争だな。俺様に全て任せな!」


「我が主、必ずや我が主に勝利をもたらさんことを誓いましょう」


「ごしゅ、ごしゅじん、おで、がんばる」


「ご主人様! 僕もいっぱい戦います!」


「ふはははは!! 我も血が滾るわ!!」


「ノア様、どうぞご命令を。我が武は、ノア様の栄光のために」


「この老骨、再び戦場に立ちましょう。ノア様に勝利を」


「ノア様、御身の前に。このアマンダ、全力で戦わせていただきますわ」


「アタシもやるわよぉ。とりあえず、帝国のどこを潰せばいいのかしらぁ?」


「メイレイ、ヲ。マスター」


「くくっ……戦争か。血湧き肉躍るのぅ……!」


 ミロが、ギランカが、チャッピーが、バウが、パピーが、ドレイクが、アンガスが、アマンダが、キングが、ロボが、そしてリルカーラが。

 僕の誇る最強の仲間たちが、ここに集っていた。


「さぁ、皆」


「……」


「行くぞ。僕たちの力を、帝国に見せてやれっ!」


「おぉぉぉぉぉっ!!」


 さぁ、暴れよう。

 そして、僕の理想の世界を作るための、第一歩としよう。

 僕と、僕に従う仲間――魔物たちと共に。


 僕は魔物使い。

 魔王すら従える、世界でただ一人の魔物使いだ。

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