第18話 『村人』ノア・ホワイトフィールド
まぁ、村人といっても肩書きで、僕の職業は魔物使いなんだけどね。
と、そんなわけでアリサと一緒に、僕の新しいおうちに到着した。
「ここだ。今は誰も使っていない」
「そうなんだ? アリサの家から近いね」
「ああ。以前に言っただろう。ドラゴンを倒すために、戦士たちが出陣したと……ここは、戦士の夫婦が住んでいた場所だ。今はもう、誰も住んでいない。他にもまだ数軒、空き家はある」
「そっか……」
確かに、戦士が出陣して帰ってこなければ、家は余るよね。
老人や子供だけで住んでいる家が多いんだと思うけど。いくら隠れ里が小さいからって、たかが数十人ってわけじゃないだろうし。
しかし、立派な家だ。
僕が一人で暮らすのは申し訳ないと思うくらいに広い。天井は低いから、ミロじゃ入れなさそうだけど。
でも、ギランカとチャッピーとバウなら入れるかもしれない。あ、でもバウは番犬か。ミロは外で暮らしてもらうとして、パピーはどうしよう。あいつ無駄にでっかいから場所とりそうだ。
「じゃ、魔物たちを呼んでくるよ。今は僕も村の一員だし、僕の仲間が歩いても大丈夫だよね?」
「ミロ殿やギランカ殿については、戦っている姿を村の者も見ている。この村を守ってくれると信じているから、大丈夫だ」
「なら助かるよ。パピーはどうしようか?」
「ドラゴンは……そうだな。少しは怯える者がいるかもしれんが、徐々に慣れてゆくと思う」
「分かった」
よし、それじゃ村の入り口に行こうかな。
あいつらにも、ちゃんと屋根のあるところで休んでもらいたいしね。まぁ、魔物には睡眠が必要ないみたいなんだけど。
あ、そうだ。思い出した。
「そうだ、アリサ」
「む……どうした、ノア殿」
「報酬で、アリサを奴隷に売れって言ってたけどさ」
「あ、ああ……大丈夫だ。私には既に覚悟ができている」
「そうじゃなくて。もう必要ないよ」
「えっ……」
まぁ、最初から断るつもりだったけどさ。僕は奴隷反対派だし。
そりゃ、知り合いでもないエルフが奴隷になったって聞いたら、多少気分が悪いくらいのものだと思う。だけど知り合いが――アリサが奴隷になるとかは、さすがに耐えられない。
しかも僕に報酬を支払うために奴隷に落ちるとか、僕の良心の呵責が酷いことになる。
「だってさ、もう僕はこの村の一員だから」
「だが……!」
「ここで暮らす以上、お金なんて必要ないでしょ? なら、僕は無駄なお金なんて必要ないよ。それよりは、仲の良い友人が近くにいてくれる方がいいからさ」
「……」
ちょっと無理やりかもしれないけど、僕の本音でもある。
エルフに金銭取引の概念はないみたいだし、できた作物を皆で分け合うとかゆるーい文化だ。僕もこれからは、それに溶け込まないといけない。
僕のことを崇拝しているような老人と、訳の分かってない子供だけじゃなく、そこにはアリサもいてほしい。
「……ありがとう、ノア殿」
「いいよ。僕が勝手にやったことでもあるしね」
「だが、この恩はいつか必ず酬いよう。私にできることがあれば、何でも言ってくれ」
「うん。そのときは遠慮なく頼らせてもらうよ」
「分かった。では、私は家に戻る。何かあったらいつでも来てくれ」
「うん」
アリサと握手をして、別れる。
まぁ、アリサに「僕の奴隷になるんだろグヘヘ」とかって展開でも良かったのかもしれないけど、僕だってそんなに非道じゃない。むしろ、僕がこれから村に溶け込むためにもアリサは必要だ。
だって、同じ隠れ里に住むエルフのアリサを奴隷商人に売ったりしたら、この村の中での僕の悪評が凄いことになりそうだし。
「さて……おーい、お前たち」
「あん……?」
そしてようやく、村の入り口――そこにたむろしている、五匹へと声をかける。
最初に反応したのはミロとバウで、次にギランカとチャッピーが頭を下げた。最後にパピーがばさっ、と翼を動かす。
このまま家に連れ帰ってもいいんだけど。
そこで、ふと思った。
ミロとパピーが暮らせるくらいの、小屋くらいは建てようかな。
さすがに僕も専門家というわけじゃないから、どんな風にするかとかそういうのは考えられないけど。
でも、柱を四つ建てて上に屋根でも乗せれば、それだけで雨は凌げる。あとはどうにかして壁をつけて、頑張って扉を作ればなんとかなるだろう。
そのためにするべきこと――それは、木材の調達だ。
「ミロ、ギランカ、パピーとバウはついてこい。チャッピーはここで護衛をしてて」
「どこ行くんだよ、ご主人」
「ちょっと木材を調達したい。あ、今日から僕、この村に住むから。お前たちにも色々手伝ってもらうからね」
「承知した、我が主」
「なんだ貴様、ここに住むのか」
「まぁね。落ち着きたいと思っていたところだから」
そう言って、四匹を連れて森へと入ってゆく。
あんまり、近所から伐採するのも申し訳ないよね。人間が迷い込むといけないし。
なら、なるべく森の奥――入り口近くから伐採した方がいいかもしれない。
「じゃ、パピー。僕を乗せて飛んでくれる? バウ、ミロ、一緒においで」
「はい! ご主人様!」
「おう」
「パピー、僕たち全員乗せられるか?」
「我を舐めるな。その程度問題ない」
ふん、と鼻息荒くパピーが言ってくる。
「んじゃ、ギランカは……パピーが飛んだ先を歩いてきて。それで、途中に何か食べられる獣でもいたら捕まえてくれる? 鹿とか猪とか」
「承知した。我が主の食料を調達しておこう」
確かエルフって菜食主義だから、肉を食べない文化らしいんだよね。
でも僕は肉が食べたい。魚も食べたいけど、さすがにここは海が遠すぎるから我慢する。でも、さすがに肉くらいは食べたいよね。
魔物は僕らを襲ってこないわけだから、のんびり狩りができそうだ。
「それじゃパピー、よろしく。チャッピー、留守番しててね」
「うむ」
「う、うん……」
「さぁ、それじゃミロ」
「おう、ご主人」
「森の入り口あたりで、木材を調達するから……まぁ、伐採よろしく」
「俺ぁその役割かよ」
「力仕事要員だろ?」
「違ぇねぇな!」
僕とミロ、バウを乗せてパピーの巨体が上昇する。
森を一望できるほどの高さまで一気に上昇し、そのままゆっくりと空の遊覧旅だ。
流れる景色に酔いながら、頰を撫でる風に身を任せる。
パピーを仲間にして良かったと思うのは、この景色を知れたことかもしれない。
ミロもまた驚きながら、笑みを浮かべている。普段は見ることのできない景色というのは、誰の心にも響くものだろう。
さぁ。
僕のスローライフの幕開けだ!
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