最弱神法士と問題児兵士、二人で始めるゴミの島生存戦略

仕黒 頓(緋目 稔)

序章

 ピュォオオオォォ……


 洋上にぽつんと浮かぶ小さな島全体を覆う分厚い雨雲から、潮風とは違う湿った風が吹き込む。

 ついに何百年前からあるのかも分からない木造の桟橋に接岸した時、甲板にいたエメインの胸に湧いたはずの期待はがらがらと崩れ去った。


「嘘だ……」


 家族に見送られて乗船した時も、船酔いで六日ほど使い物にならなくなった時も、永遠に終わらないという嵐の海域でずぶ濡れになった時も、近付く船を全て呑み込む魔の潮流で甲板から振り落とされそうになった時も、まだ希望はあると自分に言い聞かせた。

 なにせこの船が二週間近くに及ぶ航海の先に目指すのは、創世神話に語られたその時の姿を唯一残す、伝説と神秘の島だ。それを自分の目で直に見るというのは、世の神職者と神法士みほうしにとって、神の姿を見ることに次ぐ夢と言えた。

 だからこそ、気弱で根性なしのエメインにも耐えられた。船員が見張り台から島影発見と叫んだ時には、その甲斐があったと歓喜に震えた。危険な航海をやり遂げ、一回り成長できた気さえした。

 だというのに。


「何なんだ、これ……!?」


 島へと続く桟橋は、九割以上が自然物でない何かの残骸で埋め尽くされ、悪臭を放ち、その全容を隠していた。

 否、桟橋だけではない。伝説の島自体が、最早同じようなもので埋まっていた。強い風が吹く度に頬にかかる飛沫に、それらが放つ腐敗臭が強く乗る。


「なんだこりゃ。ゴミの島か?」


 同乗していた若い兵士が、小さな島全体を見回しながら、呆れきった声を上げる。いつもならあるはずの上官からの叱責も、この時ばかりはどこからも上がらなかった。

 確かに、伝説の島はゴミの島と化していた。

 上陸すれば一日で鼻が曲がりそうだが、エメインたちはこの島で五日もの滞在を予定していた。

 しかも当のエメインには、一部の者しか知らない秘密の任務が託されていた。


「き、き、聞いてないよぉぉぉっ」


 よぉーぉーぉー……

 ざざん、ざざん、と波が船底を洗う音に混ざって、その残響は実によく響いた。



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