第二話

 三輝の話が終わると、二人は同時に飲み物を口へと運んだ。話した本人はおろか、司も大分喉が乾いている。そうして今聞いた話をまとめるべく、手帳にサラサラと文字を並べると、三輝へと顔を向けた。

「で、三輝はどうだった?」

「いつも通りだよ。鳥肌たった」

「そう、か」

 司は先程の話を書いた最後に、《真》と書き足した。

 どういう訳か、三輝は聞いた話が真実であった場合に鳥肌がたつと言う。この手の話は語り手が盛ったりして怖さの要素が付け足されるものだが、そもそもその話自体が作られたものである場合も多い。それを見極めるのに、三輝の鳥肌はこの上ない判断材料なのだ。

「俺が怖くなかった話を蒼夜君にするわけないでしょ?」

「それもそうだね」

 だから司は、三輝との付き合いがやめられない。

 実話怪談師を語る以上、簡単に創作話をするわけにいかない。話を盛り上げるために、少しばかり言葉を付け足すことはあるが、作られた新たなエピソードを加えることが司の最も嫌う行為だ。

 司は満足そうに口元に笑みを湛えると、手帳を静かに閉じた。安心の怪談クオリティに小さく礼を呟いた。

「で、だ」

身を乗り出して三輝がニヤリと口角を上げてみせる。まるで悪戯小僧がよく見せるそれに、司はまたかとやや呆れ気味に溜息をはくと、続く言葉を待った。

「今からそのファミレスに行ってみない?」

あぁ、やっぱりと司は再度溜息を吐き出した。

三輝はよくこうして現地へ行きたがる。根っからのオカルト好きなのだ。けれどよくある事で、三輝自身がそういう体験をする事はほとんどない。意気揚々と現地へ出向いても、肩透かしをくらうことが殆どなのだ。

かたや司は、こんな生業をしていながら、その実怖がりという不思議な人種である。司自身に強い霊感があるわけではないが、彼はよく「聞く」タイプだ。同時に、同調しやすいタイプでもあるので、無意識のうちに何かを憑せてしまう事が多い。

そんな時、役に立つのが三輝だ。視える人曰く、三輝には陽の気を纏っているらしい。だから本人がいくらオカルトが好きで心霊現象に遭遇したくとも、祓ってしまうという訳だ。

それでも司は高確率でそういった事案に遭遇することから、なんとかおこぼれをもらおうと、こうしてそういう類の場所へと誘う。

すでに件のファミレスの場所は調べてあるらしく、三輝の顔はキラキラと期待満面の表情を浮かべていた。ネタは貰えたわけだしと、司は苦笑を浮かべつつも渋々頷いた。

そうと決まればとばかりに、三輝はグラスに残っていたドリンクを飲み干す。司にも早く飲めよと残りを片付ける様に促すと足早に外へと向かった。伝票をテーブルに残したまま。

ネタを提供したお礼とばかりに司はその伝票を握ると、勘定を済ませて外の三輝を追った。

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