恋は謎解きの如く

柿本 修一

恋?

今日も今日とて家にいてやることなどない。


いつものように10時ころに目を覚ます。



この時間に起きると、私の地区の場合もう郵便が届いていることが多い。


それは今日も同じであった。



最近では、〝文通〟なんてことをする機会はずいぶんと少なくなくなった。


わざわざ84円出してやり取りしなくても、基本的にタダで言葉が交わせるのだから、ずいぶん便利になったものだとつくづく思う。



もちろん、私の家のポストに投函された書簡は、ほぼすべてが大手企業から聞いたこともない怪しい会社まで多岐にわたるDMであったり、ガスや水道の料金の請求書であった。




ただ、その中に、たった一つだけ異彩を放つ封筒があった。


差出人の名前は無いが、大体想像がつく。



「またか…」



そう呟きながら、ちょっといい紙でできた封筒を開ける。



中にはA4用紙が1枚。



見たこともない記号?文字?が羅列されていた。



もう慣れていた。


解読には気力が必要だが、たいして難しいものでもない。




1時間ほどして、俺は暗号をすべて解読した。


中身はこうだ。



「サイキンオアイデキナクテサミシイデスワネ マタコンドオモシロイショウセツヲゴショウカイイタシマス オタノシミニ」



ちょっと聞きたいのだが、これを84円で送ってくるのは一体どういう心持なのだろうか。



送り主は間違いなく想像がついた。


謎解きを愛してやまないあいつだろう。




あれは半年くらい前。


図書館で一人、静かに本を読むあいつの姿に一目ぼれしてしまった。



勇気を出して声をかけた。


ただ、返事は暗号だった。



「これを1週間以内に解いてくださいませ」



ただそれだけだった。


暗号の解読が守備範囲でなかった俺は、それの解読に2週間を要してしまった。



しかも、解けたのはよかったのだが、その中身が


「イッシュウカンゴ タイイクカンウラニテマツ」


だったのが大問題だ。



俺は約束を守れなかった。



ただ、そんなことがあってから1ヶ月もしないうちに、俺の家に暗号が送られてくるようになった。


差出人の名前は、一度も書かれてはいなかった。




今朝の手紙には続きがあった。


もう一枚の紙に、今度は日本語で。



「電話と海と私」



たったそれだけ書かれていた。



これ自体が暗号なのだろう。



もう日本語で書かれている暗号を解く...


今までにない経験ではあったが、俺はこの暗号の意味に気づいてしまった。



俺は慌ててあいつに宛てた手紙を書いた。

中身はもちろん

「電話と海と俺。」


そうだよ。俺もだよ。もちろんさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋は謎解きの如く 柿本 修一 @shuichi_kakimoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ