旺華国後宮の薬師

甲斐田紫乃/富士見L文庫

序章


 古人は言う、『良薬は口に苦し』。


 すなわちよく効く薬はかえって飲みづらく、同様に自分のためになるような忠告は、かえって耳に逆らい素直に聞きづらいものだと。


 しかし大陸の南を版図とするおうこく、そのきらびやかなる歴史において一人、後宮にあって薬学にけ、後にやくと世にうたわれし佳人はこう言った。


 ──『不苦の良薬こそ最上である』。


 すべての人々が苦みも苦しみも感じずに服用できる薬こそが、最も素晴らしいのだと薬妃は語り、事実、かの妃はそれを実在のものとしたのだ。


 旺華国に後に薬妃記として伝わる、とある女性の物語。


 だがいまだ彼女は己の運命を知らず、その志をほうとして胸に秘めたまま──


「こちらが、本日のお茶でございます」


 ──宮女としての毎日を過ごしていた。

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