第359話 かき氷(前編)

 電車の何両目で各待ち合わせをして、乗り継いだバスに揺られて着いたのは海水浴場。

去年は縁がなくて、二年ぶりの海だ。

レンタルしたパラソルで陣を取って、その辺の木陰で着替えた俺を含めた男共はシートに座っている。


 足裏にやや熱された砂の感触。


「混んでる混んでるじゃなくてよかったな」


「ですね。ってか先輩達遅くないですか?」


 塩っぽい風が生温なまぬるい。


「女の子の準備は絶対に急かすなって姉ちゃんが言ってた」


「いい教育されてんねぇ」


 当たり前に他の人らも水着。


「ところでどーんな水着着てくっか聞いたー?」


 と、レンが嬉々として肩に手を置いて聞いてきた。

俺を挟むように逆側にはコセガワが座る。


「僕は何も。クサカは?」


「お、俺も何も……つか聞けなくね?」


「俺は聞きましたけど」


 挑戦者現る。


「でも教えてくんなかったです」


 見れるからいいんですけど、と若干そわついているタチバナも珍しい。

俺もこのくらいフランクに聞けたらいいのに、と思う。

変な気恥ずかしさが邪魔するというか、かっこつけというか。


「タチバナちゃんって好きなもの先に食べる派?」


 そっすね、と続いてレンもタカナシも先派、と答える。


「僕は後派。クサカもじゃない?」


「かも? あ、楽しみ取っとく派ってやつ?」


「そ、楽しみー──来た」


 やっとか、とコセガワの視線の先に向くと、板。

いつもの格好ではない、初めて見る女子の、み、水着姿……水着?


 ここから女子達が来るまで十数メートルの、男の俺達の会話。


「──彼氏連中、口開いてんぞー」


「……や、うん。シウちゃん肌白ぉ」


「チィお腹見えてるし、髪結んでる……」


「ノノちゃん開放的過ぎない? ってか可愛い系珍し……フリフリおリボン」


「クラキ先輩のワンピース系、俺好みっす」


「へ?」


「みっ、水着の話っす。ひらっとしたスカートとかっ」


「ソラちゃんわかるぞー、見えそで見えないのがいいんだよなー」


「むっ、ひらひらならチィだって下のスカートがそうです」


「タチバナどこ張り合ってんだよ──って、コセガワはどうしたよ」


「とっても耐えています」


「はぁ?」


「かっこいいのはもちろんっていうか当たり前なんだけど最近可愛いが過ぎて萌えギレそうだし、俺以外の──」


「コウタロ先輩、俺とか言うんすね」


「たまにな」


「──俺以外にもその可愛いの見てほしいけど自分だけ見たかったってのが本音で、いや待てよ? マンツーマンで見るとか俺の忍耐パラメーター足りる? 待て待て無理無理オーバーキル、でもやられてたまるかみたいなぁ──」


「壊れた?」


「こいつは元から壊れとるぞ」


「──頭も良くて運動神経も良くてスタイルも二兆点とか優勝過ぎて殿堂入りでしょうがよ、あとでっかいおっぱい最高です!! ──むがぁ」


 しまった、口塞ぐタイミング思いっきり遅くて全部言わせてしまった。

超笑顔でとんでもない事口走る癖ほんとやめろぃ。


 女子達、到着。


「──お待たせーぃ、パラソル設置ありがとねー。って、何してんの?」


 何にもー、と俺含め男側が笑顔で迎える。


 うひょーぃ……いつもあんま肌見えない感じのお洋服なシウちゃんなのに、今日は肩も腕も足も……うょーぃ。

あ、やべ、目ぇ合っ──。


「──変かなぁ」


「え、え?」


「じろじろ見るから」


 それを聞いた女の子三人はバッグやヤオルで前を隠して少し後退りしてしまった。

けれどすぐに弁解してくれたのが、タカナシだった。


「似合ってるから見ちゃうんですよ。三人とも可愛いですよー」


「うんうん、とりあえず荷物置くべー」


 にっこり、と笑みも浮かべてすらすらと言いのけるタカナシに追加のレン。

驚く俺らをよそに、後輩ズのもう一人、タチバナは膝立ちのままチョウノさんの手を取った。


「めっちゃ可愛いー、ありがとー」


 と、これまた素直にお礼まで述べていた。

ナチュラルにスマート対応が凄い後輩達に送れを取った俺とコセガワは頷くしかない。

すると女子とノムラは俺らの前にしゃがんできた。


「……普通でいてよ」


「え?」


「……我慢してるの、そっちだけじゃないって事よ。はい、これ膨らませてくらたら、恥ずかしいの頑張るわ」


 そう言って女子は持ってきたぺしゃんこの浮き輪を俺に渡した。


 女の子ってずるい。

こっちの我慢はお構いなしに頑張っちゃうんだもんなぁ……俺も頑張ろ。

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