第358話 タピオカジュース(後編)
フードコート付近は買い物休憩中の人達でいっぱいだ。
タピオカジュース目当ての人もいて、長打の列の真ん中辺りで私達はあれこれ話しながら待っている。
「──オススメのお店だけあるわね」
「ほんと、めっちゃ並ぶじゃん。流行ってんだね」
「ノノカは流行りとか
「そうでもないよー、シウよりは知ってるかもだけどー」
「む、ほんと?」
「あっは、嘘! 全然ってわけじゃないけど、あーそうなんだー、で終わっちゃうのがほとんどかな」
「わかるかも」
「勉強に部活に自分の事で精一杯──でも、シウとなら別」
「コセガワ君とも?」
そう言うとノノカが片手で私の頬を掴んできた。
口が、むゆ、ってなってきっとブスになっているからやめてくださいノノカさん。
「ちょいちょい挟んでくるねー、んー?」
凄むのもやめてくださいノノカさん。
ぺしぺし、と降参のタップをして解放してもらえた私は、今度は逆の両手でノノカの頬をゆるく挟んだ。
「私の中で大流行なんだもの。仕方なくない?」
「むーっ、仕方ないってなにーっ」
好きな二人だからよ、と言うとノノカの顔が熱くなった。
からかいとじゃれ合いも含むのだけれど黙っておきましょう。
おっと、列が進んだ。
一歩ほど移動して話を聞く。
「そ……そんな、とんとん行きませんて。リストあるって言ったじゃん?」
ノノカ達は恋愛リスト的なものを作っている。
手を繋ぐとか、一分間ハグとか、学校で一緒にお昼ご飯を食べるとか。
「疑問が三十個くらいあるのだけれど、聞いてもよろしいかしら?」
「多い! 三つにして!」
随分減らされたけれど譲歩しましょう。
「付き合う前にも手くらい繋いでたのに、駄目なの?」
「違っ──くはないけど、なんて言うか……つつつつ付き合ってからだと、勝手が違うみたいで……知らない手、みたいなんだもん。って、シウ何してんの?」
ちょっと初々しいのが眩しかっただけよ、と目を瞑って深呼吸した私は続いて質問を投げる。
「彼が恋人で嬉しい?」
「うっ、うううう嬉しいよっ。あんまそういう目で見た事なかったけどさ、かっこいいよ、うん。頭良いし、足速いし」
小学生が好きになる三大要素みたいだけれど、コセガワ君がこれ聞いたら調子に乗って悶絶しそうだわ。
教えてあげないけれど。
「は、はいっ! あと一個!」
やっぱり三十個全部聞けばよかった。
あと一つ、どれにしようか──。
「──ちゅー、した?」
そう小さく耳打ちすると、耳まで真っ赤になってしまったノノカは口をぱくぱくさせて、列からはみ出ようとしたのでその腕を掴んで止めた。
「したんだー」
「しっ、してない! 口にはまだ──」
「──へーえ? ほっぺ?」
墓穴は聞き逃さないわ。
「ほ、ほんと勘弁してよ……これでもアタシ、ちょっとは変わったんだって」
「うん、可愛くなった」
それは元からなんだけどー、と自分を取り戻したノノカは熱い熱い、と手で扇ぐ。
誰が聞いても今のノノカは乙女で、応援したくなる。
最近の変化として目つきが優しくなったというか、雰囲気が柔らかくなった。
前はどこか寄りにくいところがあったのに──なんて、違いはあるけれど私とノノカはひとりでも平気なところが似ていたのかもしれない。
「はいっ、この話終了! そういえば泊まり、家の人に何も言われなかった?」
「うん、行ってらっしゃいって。日焼け止めと浮き輪を出してくれたわ」
私よりも父さんと母さんの方がぷかぷか浮かれていた。
そんなに私が出かけるのが嬉しいのかしら。
「あ、やっとアタシらの番来たよー。シウはどれにする?」
「んー、初めてだし、定番のタピオカミルクティーにする」
「じゃあアタシは……ほうじ茶ミルクにしよかな。生クリーム乗せ」
飲み比べしたいっしょ? とさすがノノカ、わかってる。
「よし、半分くらい飲んだらまたあの店戻ろ、水着選ばなきゃ。んでもお腹見えるビキニもタンキニも駄目ってなるとなー……ってか、アタシが今日水着買いに誘わなかったら何着るつもりだったの?」
まぁまぁノノカさん、せっかく受け取ったばかりのタピオカジュースがあるじゃないですか。
まずはひと口──思ったより甘み強し、む、太いストローを通ってきたタピオカが、つるん、なんだけれど気をつけないとむせそう。
うんうん、つるっ、と、もちむちっ、とした食感、飲んで食べて飲んで食べて。
バランスよく吸わないと先にミルクテイーがなくなりそうだわ。
美味し──あ、水着の話だったわね。
「中学の時のスク水だけれど」
すると美味しいものを飲んでるはずのノノカの顔が、苦虫を噛み潰したようになった。
「そーれは絶対ない! ほら、さっさと行くよ」
「え、ノノカのひと口……」
「水着が先。決まんないとあーげない」
えー、何が駄目なのかしら。
むぅん。
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