第357話 タピオカジュース(前編)
去年の今頃はノノカと二人で出かけるだなんて考えられなかった。
同じクラスで、お構いなしに話しかけられて、話すようになったのはいつだったっけ。
いつから苗字呼びから名前呼びに変わったんだったっけ。
いつからこんなに仲良くなったんだったっけ。
きっと友達になるって、こういう感じ。
「──ヤだ」
水着を買いにショッピングモールへと来た私とノノカは、早速気になった水着を手に取っては言い合っていた。
花柄やら縞柄やら、様々な形の水着は夏色という感じで眩しくさえ見える。
私があまりこういうお店に寄らないので新鮮なのかもしれない。
そしてノノカが選んでは私が、ヤだ、と言うのはもう三回目。
「えー、可愛いじゃん。あんま派手なのは、っていうからシンプルにクリーム系の白、アンタらしいレース使いのタンキニだよ?」
確かにさっきの派手派手な柄よりはいいし、レースも可愛いのだけれど。
「お腹見えるのはちょっと──おやめくださいノノカさん」
ノノカが後ろから私のお腹を触ってきた。
容赦も遠慮もなくて思わずなされるがままの私。
「シウは気にし過ぎなんだよ。太ってるだの太いだの、フツーだよフツー」
「事実よ」
やわやわぽよぽよふにふにむにむに。
触ってわかるでしょうに。
「だったらダイエットでもすりゃあいいのに、お菓子お菓子お菓子じゃん」
痛いところを突かないで!!
「す、ストレッチくらいはやってるわよ。あ、あと……恥ずかしいじゃない。肌、見せるの」
夏は開放的になるとかいう。
そりゃあ暑いしいつもよりは露出するのだけれど、下着のような布面積は、ちょっと。
するとノノカは、嫌いなもん着てもしょうがないしね、とまた更に選び出した。
シンプルな色で、お腹が出るビキニはいや。
ほんとは足やお尻もあんまり、なんて言い出すとキリがないので妥協する。
なんて、海に行くのが楽しみなのは本当だ。
これからも行く機会はあると思うけれど、今しかない楽しみでもある。
学生時代の夏休みに友達と海なんて、今年は素敵過ぎる。
おっといけない、私もノノカの水着を選んであげるんだったわ。
胸はふくよかだし、お腹もすっきりだし……ビキニ決定。
可愛いよりかっこいい系が好きみたいだけれど──うん、この辺りかしらね。
「ノノカ、これどう?」
「人には躊躇なくビキニかい」
「嫌い?」
「別にいーけど──えぇ……これぇ?」
にやり、と微笑んだ私は、選んだ水着をノノカに当ててみる。
ちょうど後ろに鏡があったので振り返った。
色は黒で、細い紐のホルターネックタイプ。
ついでにパンツもサイドに紐がついていて、その先端には黒の小さなリボンがゆらゆら。
胸元とパンツのウエストにふりふりのフリル。
「んぁー……可愛過ぎない?」
「黒できりっとしてるわよ?」
「じゃなくてこのフリフリと紐がさー……」
布面積は問題ないのね。
あるとしたら──。
「──可愛げの足し算よ」
「何それ」
「似合うって話」
「そっかなぁ……らしくないって言われそ」
「誰に?」
そう言うとノノカの顔が、ぽっ、と赤くなった。
悔しそうに歯を食いしばっている。
「ねぇねぇ、誰に?」
「くぅ……っ、わかってるくせに!」
「んふ、ごめんごめん」
前にからかわれたから、からかい返しよ。
「こういうギャップはぐっとくるものよ」
「そうかなぁ……」
男の子って単純な生き物だもの、なんて、まだそんなに知らないくせに恋愛上級者ぶってしまった。
まぁコセガワ君ならどんなノノカでも過剰に喜ぶのでしょうけれど。
……ふむ、リョウ君ならどんな水着が好きなのかしら……いやいや、別に水着姿を見せたいとかそんなのちっとも思ってないし、やだやだ恥ずかしい。
「……わかった。せっかくシウが選んでくれたからこれにしますっ」
満更でもない様子で水着を当てて鏡を見ていたノノカが、ぱっ、と晴れた顔で振り返った。
しかしその意気込みは覚悟っぽいものを感じるような。
「頑張ってみるから、シウも頑張ろー」
えー……今から腹筋して間に合うかしら。
「あ、下のドリンクショップ行きたいのだけれどいい? カシワギちゃんが、タピオカ美味しかったよー、ってオススメしてくれて──」
「──水着もそのくらい早く決めたらいーのに」
ご、ごもっとも。
「まぁいいや、喉乾いたとこだし、とりあえずこれレジに預けて一服しますか──ん? 待って、胸のサイズこれじゃちっちゃいや」
なんですって、と驚いたところで私達は一度、水着売り場を後にしたのだった。
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