第342話 干し梅(後編)

 生物部がある旧校舎はいつの間にか皆の集合場所になりつつある。

来る前までは近づいてはいけないような、近寄り難いところがあったのだけれど、一回来てしまえば何回も足を運びたくなる不思議な場所だ。

それに今、集まっている面々も素敵な人達ばかりだ。

生物部のチョウノさん、リドル部のカラスちゃん、部活終わりに遊びに来ていたクラゲちゃん、同じく遊びに来ている私の四人が部室内にいる。


 ……初めて会う面子だけれど、初めてじゃないような?


「干し梅どうぞです」


 四人が囲んだテーブルの真ん中にはほんのり茶色の梅があって、それぞれ冷たい麦茶がある。


「ん、甘め! と思ったら酸っぱ!」


「夏バテ対策になので塩気多めで」


 なるほど私も一つ。

こう暑いと汗もかくし、冷房との温度差も体調変化に繋がってしまう。


 んぅ、少ぉしだけまろやかな甘さから、噛んだ瞬間の酸っぱしょっぱさは目が冴える感じ。

美味し。


「カラスちゃんと学校で会うのは初めてね」


「そういえばそーだねー」


 チョウノさんとクラゲちゃんにお店で会った事があるの、と話すと、今度行きますー、なんてお喋りが弾む。


「合宿いいなぁ……楽しそう……」


 合宿予定がないメイク部のクラゲちゃんがしょんぼりと呟いた。

私がここにいる理由は遊びもそうだけれど、リドル部に呼びだされたのもあるのだ。


「合宿の話ですよね? ノノちゃん先輩がここに集まるからって言ったままどっか行っちゃってますけれど」


 そう、まだ内容は知らない。

合宿が同じ日程の部活の代表、私は副部長だけれど代わりに来ている。


「そそ。せっかくだから顔合わせっつーか、あたしが皆を見たくてさー」


「何かするの?」


 それは皆が集まってから、とカラスちゃんはテーブルに突っ伏して、だらだら、と皆が集まるのを待っている。

そんな私は気になって、そわそわ、しちる。

するとカラスちゃんの大きなお目目と、ばちっ、と合った。


 何だろう、中身まで見られてそうな、そんな気がする。

視線で触られるって感じ……。


 そう思っていたら次々と生物部に入ってきた。


「うぉ、不思議面子──っと、誰?」


 ノノカの人見知り戦闘力が上昇した。


「リドル部部長のシロクロカラスでっす。お邪魔してまー。あんたが生物部の部長? あと写真部の代表はあんたで、天文部はクサカちゃんね。おっひさー」


 カラスちゃんはお構いなしに次々と指を差しては確認していく。

ノノカにコセガワ君、写真部部長の代わりのレン君に、クサカちゃんこと男子。

あとの二人はミヤビ君とタカナシ君だ。

どちらもついてきただけかと思って聞いてみると、なんと二人とも生物部植物科に入部するらしい。

っていうかノノカ、私の後ろに隠れるのはおやめなさい。


「あっはー。そうびびんなって。んじゃまぁ──これ」


 カラスちゃんはスカートのポケットからくちゃくちゃになった用紙を出した。

隣に座っていたクラゲちゃんに、代わりに読んでー、と渡して、少し見えた用紙には学園長のサインがあった。


「えと……合宿一日目の夜、リドル部企画の肝試しを許可しますぅ?」


 にひっ、と笑うカラスちゃんはまた一つ干し梅を口に帆織り込んだ。

聞こえた面々は、は? という顔になったけれどこの一言にかき消される。


「何これ楽しいやつ!!」


「あっはっは! そ、楽しいやーつだよー。どう?」


 最後の夏休み。

部活でも特別は出来るけれど、こういう事もまた一味違う特別。


「──書道部、参加します。写真部は?」


「そんな面白ぇの参加しねぇわけないべ。ほい、生物部ぅ?」


「参加ー。いい思い出になりそ。最後、天文部は?」


 皆が男子に注目する。

そして、にっ、と男子はすぐに笑った。


「参加に決まってんだろー?」


 ですよね、と私も皆と一緒ににやけた。


「はーい決まりー。悪いようにはしないからさ。そんなわけで二日後、どーぞよろしくお願いしゃーっす!」


 はーい! と皆が言う中、合宿がないクラゲちゃんだけが、ずるいぃぃぃ!! と嘆いていた。


 ※


 こんな先輩達をよそに、俺ら一年は困惑していた。


「……タカナシも入部するとは思わなかった」


「カジこそ。まぁ同じ部、よろしくー」


「うん。っていうか、ぽんぽん決まってっけど……なんか、ついてくのやばそ」


「そだな……」


 初の合宿に新しい部活。

俺とタカナシは圧倒されながらも、自らここの一員になるところ。

すると気づいたチョウノ先輩が駆け寄ってきた。


「──二人とも入部してくれてどうもありがとうっ。あの、変な人達ばかりだけれど大丈夫だからねっ。すぐに慣れちゃうからっ」


 もうすでに圧倒させてくる一人だと気づいてないチョウノ先輩があまりにもフォローになっていないフォローをする姿が小さくて可愛いので、俺達は少し癒された。


「え、あのっ、なんで二人して頭撫でるの!? せ、先輩ですよっ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る