第243話 キアッケレ(前編)

 女子会のメンバーは二年生の私、ノノカ、カシワギさん。

一年生はチョウノさん、クラゲちゃん、ムギちゃん。

計六名、おやつはさっくりさくさくのおしゃべりのお菓子、キアッケレ。


 ※


「──アタシらも最終学年になるんだなー」


 私達の教室で机を二つ並べくっつけて、周りに私達が座っているところにノノカが切り出した。

そこにカシワギさんのつっこみ。


「まだあと二日残ってるじゃん?」


「そうだけれどー」


「私はもうちょっと二年生でいたかったわ」


 それそれ、とノノカが私に同調する。


「なんで? 三年生ってよくない?」


「よくなくないこたぁないけれどさー」


「二年生ってちょうどいい気はするわよね。頼れるし、頼られる」


 それそれ、とまたノノカが私に同調した。

そこに今度はムギちゃんが口を開く。

ついでにキアッケレも、さくさく、いい音で食べられていく。


「えー、一年が一番楽じゃないです?」


「一番若いから?」


「クラゲちゃん、口の端にお菓子ついてるわよ」


 私が注意すると、小さいチョウノさんが大きいクラゲちゃんにさらに注意した。


「あっ、袖は駄目! はいティッシュ。またクジラ君に怒られるよ?」


「うわん! 内緒にしといてっ!」


「ふふっ。そういえば三人ともクラス違ったんだっけ?」


 私達は部活動繋がりでそれぞれ知り合った。


「そですー。チィちゃんは隣のクラスで、クラゲちゃんは隣の隣のクラスですねー」


「うちの植物科が色んなところに顔出しするのでそれで、って感じですかね。主にタチバナ君がふらふら──というか、いつの間にか」


「いやぁ、遠慮ない後輩で」


「うっ、それはその、ノノちゃん先輩達を倣っての事でっ」


 確かに生物部は動物科、植物科分け隔てなく、色んな部と色んな事をしているなぁと感じていた。

得手不得手からの協力のし合いが上手いというか。


「そうそう、服デ部さ、メイク部さんにお世話になったの。ありがとうね、おかげで良い集大成になったよー」


 カシワギさんはドレスを作っていると言っていた。

作るだけではなく、化粧をして写真を、というので協力してもらったらしい。


「いえいえ! アタシはまだお手伝いしか出来なかったですけどっ、っていうかクジラがめっちゃハイテンションでお騒がせしましたっ」


 メイク部のクラゲちゃんも、お手伝い出来るなんて成長を感じる。


「何々?」


「クジラ君の事だもの。集中夢中熱中、かしら?」


 モデルの企画の時の事が最近の事に感じる。

あの時のメイクは、今思い出しても素敵の一言だ。


「あ、想像出来ちゃった……」


「ハイテンションですけど、かっこいークジラです!」


 好きな事に一生懸命は皆もだ。

生物部のノノカもチョウノさんも、いつの間にか目新しい事をしている。

スイーツ部のムギちゃんはいつもお裾分けをくれる。

メイク部のクラゲちゃんだって少しずつ器用になっている。

服デ部のカシワギさんもクジラ君タイプで熱中する派なのを知っている。

私は誰よりも劣るかもしれない。


「ねねね、みーんな彼氏持ちだよね?」


 するとカシワギさんが女子会特有の恋バナに持ち込んだ。

追加、カシワギさんはこの手の話が大好物だ。


「アタシは違うっ」


 真っ先に否定したノノカだったけれど、私以外が、え、と反応した。

本当はこう言いたいでしょう、と私は言ってやる。


「はぁ?」


「シウ怖い、圧ある圧」


「アタシも違いまーす! 好きだけれど、好きになってくれるまで頑張り中なので!」


 今度はクラゲちゃんが否定した。

こういう言い方の方が可愛げ百点。

なのでノノカのを訂正してあげる。


「ノノカは素直になるのと耐性がつくまで色々練習中なんですぅ、でも我慢出来なくって逃げちゃうんですぅ」


「にっひっひっ、なーんかシウ先輩強くなった感じですねー」


 と、ムギちゃんが言うので軽く首を傾げた。

続けてチョウノさんまでさらに言う。


「ちょっとわかるかもです。何か最近、すっごく綺麗になったっていうか」


「この前太ったって言われたばっかなんですけれど」


 カトー君の一撃はまだ引きずっている。


「それでもお菓子は手放さないところがシウなんだよねー」


「……むぅん」


 だってお菓子は正義だもの。


「あは、シウ先輩達は三年生になっても変わんないっぽいですねー!」


 ムギちゃんが言うと皆が、うんうん、と頷いた。


「……どうなるかなぁ」


「今年からクラス替え廃止になったし、アタシらは一緒だよん。カシワギちゃんもね」


「うん、またよろしくねっ」


 そう、クラスメイトは変わらない。

ただ教室が一階上になるだけ。


「あたしはこの教室になりますー。一年三組から二年三組!」


「そっか、部活の後輩とか出来るんですよね! 来るかなー、メイク部にー」


「うっ……人見知り発動しそう……」


 一年生達も来年は高校生になって初めての後輩を持つ事になる。


「チョウノちゃん人見知り改善してきてると思うよー。ま、何とかなるって。先輩も後輩もいるのが二年生だしさー」


「確かにー。意外に楽な位置だったかもー」


「そうね。楽だけれど、めんどくさい位置でもあったわね」


 すると三姉妹の真ん中だというムギちゃんが、挟まれる真ん中の宿命、と少しげんなり顔を見せた。


「でもでもっ、後輩って可愛くない?」


 カシワギさんのフォローがフォローになってないような。

するとクラゲちゃんが意思表明を叫んだ。


「頼られる先輩になりたいっ!!」


 しかしすぐにチョウノさんがつっこんだ。


「ドジが減るといいね?」


「うわん!!」


「にっひっひっ! チィちゃん辛辣ぅ!」


 仲良しが微笑ましい。


「あは、でもそうだね。三年になるんだもん、しっかりしなきゃ」


「お、カシワギちゃん意気込むねー」


「だってあと一年しかないじゃない? それに好きな人も出来たいよーぅ」


「焦らない焦らない」


 私がそう言うと、ノノカが頬杖を付きながら斜めに見てきた。


「アンタが言うと重み違うわー。ほんと、長々ぐっずぐずしてたもんねー」


「はぁ?」


「の、ノノちゃん先輩に言われたくないですよねっ。こっちもやきもきしてましたしっ」


 そうそれ、とチョウノさんと軽くハイタッチすると、ノノカがむすくれた。

いや、これは照れ隠しか。


「あたしはクラゲちゃん応援隊でーす。っていうかすでにそうなんじゃとか思ってるけど。クジラ君もノムラ先輩的な要素あるしなー」


「ん? 何々? さくさくしてて聞こえなかった!」


「何でもなーい。美味しいよね、キアッケレ」


「んふっ。私、またこうやってみんなとお菓子を食べたいわ。先輩後輩交えて、色んな事お喋りしたいの」


 私がそう言うと、皆がキアッケレを持ってこう言った。


「それは大丈夫だと思います。だってクラキ先輩ですし。あ、また部室にも遊びに来てくださいねっ。タイヨウ──じゃないっ、タチバナ君にお茶淹れさせるんでっ」


「ははっ! そだねー、シウだしねー」


「ですね! またスイーツ部のお裾分け持ってきまーす!」


「あ、わかったかも。っていうか、クラキさんと、イコール、なとこあるもんねぇ」


「クラキ先輩! また今度一緒に遊んでください! お買い物とかしたいです! 可愛いとこ! それで買い食いしましょー!」


 次々と、わかっただの、そうだね、だの。


「……え?」


 答えが定まらなくて私がそう言うと、皆は声を揃えてこう言った。


 ──私の近くにいると絶対お菓子があるから大丈夫!


 ですって。

むぅん!

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