第244話 キアッケレ(後編)
何となく集まってしまったのが俺、コセガワ、レンの二年組み。
そして一年のカトウとイチノセとタチバナの一年組み。
お菓子は……なんか揚げたのに砂糖がまぶってるやつ!
※
「……何すか、この集まり」
カトウは嫌そうな顔を素直に出したまま言った。
「……帰っていいですか?」
タチバナも直球で素直に言う。
「お前ら帰ったら俺気まずいからいて」
そしてイチノセが二人を止めた。
「取って食うみてぇな言い方だな。何もしねぇって」
「こういう交流もたまにはいいんじゃない?」
レンに続いてコセガワも、よろしくー、と迎えている。
「っていうか俺だけか? 全員知ってんの」
「そっすね。俺が一番知らないかと」
確かにカトウが一番繋がりが薄いと思われる。
「関係性よろ。これ美味いな。ってか誰の?」
「カトウの彼女がくれたお菓子です」
イチノセがレンに軽く説明する。
キアッケレ、というお菓子らしく、ムギ後輩がくれるもんは大体美味いので毎回ごちそうさまでーす。
「へー、カトウ君って彼女いるんだ。可愛い?」
「学校一っすね」
「相変わらずすげぇな……同じクラスだっけ?」
カトウはムギ後輩の事になるとド直球に照れなく言いのける。
さて、繋がりだけれどイチノセ、タチバナが説明してくれた。
「俺とカトーとカトーの彼女のタナカさんは同じクラスです。タチバナは隣のクラスで、生物部とメイク部の繋がりで、って感じです」
「コウさんと俺は同じ生物部で、レン先輩は写真部での繋がりで……クサカ先輩って何で知り合ったんでしたっけ?」
そう、俺だけ部活で繋がっていない。
言うなれば同じクラスの──。
「──コセガワ繋がり?」
するとカトウがこう言った。
「クラキ先輩じゃ? 俺は書道部一緒ですし」
「モデルの企画からー、ってなる前に俺とクサカは同じ中学」
「んー……俺もモデルの企画から、ですかね」
「企画からが多いかもねー。賑やかだったしさ」
確かに。
モデルの企画の参加組、見学組も最後辺りは皆一緒って感じだった。
そしてタチバナが歯に衣なしで質問をしてきた。
「クサカ先輩って特別これっていうのないのに、何でそんなに顔広いんですか?」
「これってのがないとか言うなや……」
それに顔が広いとは自分では思わない。
「いやお前が言うなよタチバナ。ぶっちゃけ俺も話すの今日が初めてだけれど」
「カトウは、うん。そうだな」
「あー……お前ら二人だと会話弾まなそ」
一年組みは中間のイチノセがフォロー役か、と微笑ましく思った。
ついでにお菓子を一つ──お、さっくさく。
「僕もカトウ君初めましてだけれど、なぁんか初めましてな感じがしないなぁ」
「コセガワとカトウは匂いが一緒。同属性って感じ」
レン、それ言い当て妙かも、と思ったらカトウがぶっこんできた。
「おっぱい好きっすか?」
「好きだねー」
コセガワも普通に答えんな!
「そーじゃねぇだろっ」
「クサカ先輩は嫌いなんですか?」
「……タチバナ、真顔で聞くのはやめろぉ」
「はっはっはーっ、クジラちゃんはどうよー? ちなみに俺は尻派な?」
レンお前まで!
「き、嫌いな事はないです、けど……」
イチノセごめん、俺じゃ止められなかったぁ。
「っていうかコセガワ先輩って、あの煩い──ノムラ先輩でしたっけ、どこまでいってんですか? あ、すっげぇ偶然に色々知りました知りたくなかったですけど」
「やっとお手手繋いだー。もー、ノノちゃん可愛すぎてハゲそー。ちなみに世界一可愛い」
学校一と世界一、張り合うな張り合うな。
「初々しくって羨ましい事で。どこもかしこも彼氏だ彼女だだなー、はーあ」
「……ノっさんが可愛いとか不気味」
「許してやれタチバナ。つって、お前もチョウノさんとイチャついてんだろ?」
「はい」
ここも素直かい。
「そう言うクサカ先輩は? クラキ先輩と……………って、何この沈黙」
この話はまだ少し気まずいと言いますか何と言いますかっ。
「俺がクラキにフラれたんだよ。だからこの空気」
「マジっすか。ご愁傷様っす」
「お疲れっす」
「ど、どんまいですレン先輩……」
「残念でした」
「す、すまん……」
「気にすんな気にすんな。もう消化してっからよ。てか俺だけ独り身かよ、切なぁ」
そういえばそうかも? と思ったらイチノセが否定した。
「え、あ、俺も独り身です」
「は? ニノミヤいんじゃん」
「そうなんだ」
「タチバナちゃん興味持ってー、会話弾ませてー」
「俺は接点ねぇからわかんねぇや」
「さっさと言えばいいのに。あからさまじゃん」
どうやら、ニノミヤさんのアプローチ? が凄いらしいけれどイチノセがまだ? らしい、で合ってるだろうか。
「……色々あんの、色々っ」
「これはクサカ先輩の出番じゃないっすか?」
と、カトーがお菓子を食べながらそう言った。
「なーんで俺──」
「──色々あって、ぐっずぐずして、だっらだら、ゆーっくり成就したの知ってるんで」
「マイペースって言ってください!?」
そして俯き気味だったイチノセが小さく話し出した。
さく、さく、とこれも小さくお菓子を齧っている。
「……わかってんですけれど、こっちも意地があって……惚れたら負け、みたいな」
「僕はノノちゃんに負け負けだけれど?」
「俺もムギになら負けて良いです」
「俺はチョウノに勝ってるつもりです」
これは俺も言う順番か?
「……勝ったり、負けたり?」
するとすぐに声が飛んだ。
それも全員から。
「嘘つけー、お前は負けっぱだろー」
「勝ててた事ありましたっけ」
「うん、負けてるよねー」
「勝てる要素は?」
「……あの、クサカ先輩の扱いっていつもこんななんですか?」
「優しくされたいっ」
ちょっと言ってみただけなのにこの言われよう。
どうせ俺は負けっぱなしだよ、わかってたよ、負けてますよっ。
「ま、女の子には敵わないよねー」
「弱るよな」
コセガワとレンが、うんうん、と頷き合っている。
そしてカトウ達一年組みもそれに続いた。
「女の方がどうしても強いっすね」
「弱いと思ったら結構強いとこありますしね」
「強すぎて困ってます……」
三者三様、全員合わせると六者六様?
「まぁ……それでもいいと思ってるんだよなぁ」
「あ、ノロケ。ちくしょ」
「ひゅー、言うねー」
「クジラもこんくらい開き直ったらいいんじゃね?」
「えぇ……」
「ま、三年になってもフラれないといいですね、クサカ先輩」
「へ!?」
最後のはタチバナが言った。
表情を変えずにさもこれからそうなるような物言いで、心臓が跳ねた。
「先の事はわかんないじゃないっすか。新しい後輩も出来る事だし、またクサカ先輩がやらかすかも」
「ははっ、不吉ぅ」
「コセガワ先輩も同じっすよ。すでに拗らせてる感ありますし」
「おっとー? カトウ君もねー?」
「俺んとこは安泰なんで一緒にされると困ります」
それぞれ、何かしら思ってる──想ってる。
そしてイチノセがこう言った。
「良いも悪いも、進んでみないと、ですね」
「……だな」
ここは俺ら二年の教室の真下、一年の教室。
俺らはここから二年になって、今度は三年になる。
俺は、女子とどうなるんだかな、と最後のキアッケレをさっくり、と食べたのだった。
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