第182話 チョコレートソース(後編)
フォークで刺して、ナイフで切って、柔らかぁい肉は噛めば簡単に解けた。
……マジ、チョコ感。
苦い感じやば……。
二回くらい噛んだ時に女子を見たら、女子も俺を見ていた。
はっ、目ぇでっかくなってら。
わかるわかる、めっちゃ美味ぇよなー。
うんうん、と二人で頷きあって、そしてこう思ってるはず、と飲み込んで言った。
「──米欲しい」
「──お米欲しい」
「ははっ、やっぱ?」
「肉にはお米派」
「パンでも美味ぇけどなー、なんでだろな」
「食べ慣れてる、が一番かしらね」
お喋りもしたいけれど我慢出来ずにもう一口。
やっぱり米と合わせて食いたいと思った二口目だった。
俺は近くにいた、黒と白の縞々の着物にふりふりのエプロンをつけた店員さんを呼んで、軽く米が欲しいんすけれど、と頼んでみた。
「おっけおっけ、かしこまりー」
おう、フランクな店員さんだなおい。
すると女子がその店員さんを見て、ひそ、と話しかけてきた。
「あの子、一緒の学校の子じゃない?」
「え、マジ?」
「最近転入してきた同学年の子、かも。転入生って珍しいし、ノムラさんと言ってたの」
まず転入生がいた事も知らなかった俺は感心する。
俺と女子が通う学校はめっちゃでかくて、一年から三年までそれぞれ十三クラスもある。
そして一クラス三十人前後で、と計算したら知らない奴の方が圧倒的に多い。
「ふふっ、着物可愛いな」
女子はああいうのが好きそうだ。
もしかしたらふりふりエプロンも込みでか? と、瞬間想像した俺は──。
「ん? 上に何かあるの?」
──いつの間にか天を仰いでいたようで。
「……米、待ってんのっ」
と、誤魔化した。
すると女子も上を見ながら、じゃあ私も、と付き合ってくれて、けれどすぐに目が合ってまた二人で笑った。
※
本当に美味しい。
ビターなチョコレートの香りが癖になる感じ。
味も濃く、深くなっているのかしら。
頼んだお米もお肉とチョコレートソースに合うようにと、ハーブライスになっている。
「どうしよう……私これ永遠に食べられるかも」
お肉、ご飯、お肉、ご飯。
「とまんねぇよなー」
男子もがつがつ食べていて、そのがっつきから美味しいが伝わってくる。
「ちゃんと味わってる?」
「ぬん」
うん、と男子がもぐもぐ食べながら頷いた。
「クサカ君、ご飯食べるの早いんだもの。びっくり」
「ん、そ? 男はこんなもんじゃね?」
そっか……けれど父さんはゆっくりなのよね。
もしかして私や母さんに合わせて食べてくれてるのかなぁ。
そう思っていたら男子、完食。
早いっ。
「ねぇ、半分食べる?」
「ん? 腹いっぱいになった?」
「ううん。お肉の方が多くなっちゃうから」
お肉とご飯のバランスは大事なのです、とお肉を三分の一くらい切って男子のお皿に、と思ったら、口を開けて待っていた。
「あー」
「……あは、はい。あーん」
大きく開けた口には小さかったお肉が、あっという間に食べられてしまった。
唇についたチョコレートソースを舐めて、また満足そう──。
「──いちゃこら中に失礼しまーす」
あ。
さっきの着物の店員さんが来て、私と男子は慌てて姿勢を正す。
「これ、カナリアちゃんからサービスでっす」
「カナリアちゃんって……」
「この店の
「え、ええ……あなたは?」
「
まさかシロクロさんに私達と同じ年齢の子供がいたなんて思わなかった。
だってシロクロさんはとても若く見えたから。
カラスちゃんは少し派手なお化粧がどこかノムラさんと似たところがあって、けれど可愛い感じは彼女のフランクさと、にこにこしている笑顔からかも、と思った。
そしてノンアルコールだというピンク色のシャンパンをグラスに注いでくれた。
「ありがとうカラスちゃん。好きな色だわ」
しゅわっ、と、ぱちんっ、と弾けるビーズみたいに小さな泡がのぼっては消えていく。
「あたしも好きー。で、さっき聞いたんだけれどあんたらとあたし、ガッコー同じなんだってねー。しかもタメ。あたし転入したばっかだからさー」
「えっ」
驚く男子に私は、ほらね、と微笑む。
「さっきその話をしてたところだったの」
「そーなの? じゃ、お近づきのしるしに──」
カラスちゃんはトレーをテーブルに置くと、握った拳を私と男子の前に突き出して、手を下に、と言った。
「──クッキィ? チョコレイト?」
私と男子は一度、目を合わせて、同時に選んだ。
「……チョコレイト」
「……チョコレイト」
そして手の上に何か落ちてきて、カラスちゃんは開いた手をどけた。
私と男子の手には、金色の紙に包まれた丸いチョコレイトがあった。
「すげっ、何、どーやったんだ?」
カラスちゃんは手に何も持っていなかった。
それに丸いチョコレイトは握っても大きいサイズだった。
種明かしをとカラスちゃんを見たけれど、カラスちゃんは唇に人差し指を当てて──。
「──クリスマスの魔法、って事で」
と、テーブルを後にしたのだった。
わお。
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