第180話 ハニーレモンキャンディー(後編)
ソファーにて。
「──この小さいキャンドル、
「だな。爆弾みてぇ」
私は、じと、と男子を見た。
「……一気に可愛さが消えたわ」
「言い方を間違えましたすんませんごめんなさい」
「ふふ、許す。あと気になってたんだけれど、いい匂いしない?」
「どんな匂い?」
「甘いような──あ、これかも」
低いテーブルの端にあった六角形のキャンドルを失礼して持ち上げる。
鈍い黄色は蜂蜜の色。
手で扇いで匂ってみた。
そのまま男子にも近づけて嗅がせてみると、首を傾げられた。
「……よくわからん。今飲んでんのの匂いじゃね?」
「そんな事ないもん……多分」
今度は私が首を傾げた。
「ははっ、いい匂いならいーんじゃん」
※
真ん中の展示の近くにて。
「──近くに寄ると色々違うのがわかるなー」
「うん。見て見て、このグラス可愛い。ランプみたい。細工も綺麗ね」
「お、それいいな。観測ん時とかこれ置いときてぇ」
観測の時はいつも懐中電灯だ。
けれどこれ一つあったら、それっぽい? というか──。
「──かっこいいんじゃない?」
それ。
かっこつけてるみたいだけれど雰囲気出るし、それに──。
俺は女子を見た。
緩い灯りではっきりと見えない女子を。
なんか……また雰囲気、変わるっつーか……。
「──なーに?」
そう微笑む女子は橙色に灯っている。
「……うんや、
下心なそれを誤魔化した俺はランプみたいなキャンドルのそばにあったカードを手に取って読んだ。
作り手と説明と──。
「おっふ。見てみ」
「何……わお」
──値段。
予想もしない高級品だった事に、俺と女子は静かに横歩きして離れた。
※
別のテーブルにて。
「──美味しそうなキャンドル発見」
「あんまちょろちょろすんなって」
「いいじゃない。だって私達だけだもの」
お客は私達以外いないので自由に歩き回っている。
男子は店員に許可を取りに一言言いに行ってしまった。
……はしゃぎすぎちゃったかしら?
少し、反省。
けれどせっかくだし一つ残らず見たいし、もったいないような気がして、と私はテーブルのそばにしゃがむ。
ここのテーブルはボタニカルキャンドルが置かれていた。
「──いいってよ。お? オレンジの輪切り?」
「よかった。花とか果物とかのキャンドルね。ふふっ、生物部が好きそうな感じだわ」
男子もしゃがんできた。
「んだな。タチバナとか作れんじゃね?」
「もう作った事あったりして。そういえばノムラさん達、今日も部活って言ってたわ」
「うへー……ようやる」
「好きな事があるのはいい事だわ。それにコセガワ君もいるし」
少し茶化して言ってみたら、男子は少し驚いてこう言った。
「……やっぱ知ってた?」
それはコセガワ君がノムラさんを、って話かしら。
きっと、そう。
「独特の特別感があるもの。幼馴染ってだけでは溢れ出てる、特別」
「特別感」
そう繰り返した男子の腕に少しひっついた私は、男子を見上げてこう言った。
もちろん、狙って。
「──ね? 特別感」
一気に橙色から赤色に変わった男子は焦りながら立ち上がった。
「ひっ、人いんだからっ──ん」
と、差し出してくれた手を取って私も立ち上がる。
ふふっ、お客は私達だけなのに照れちゃって。
という私も少し、照れちゃった。
※
「──結構いちゃったな」
地上への階段を上りながら俺は夜に近づく空を見上げる。
階段を上りきればまだたくさん人が歩いていた。
「まったりしちゃったわね」
さすがに冷えるのか、肩を
危なっかしいので──。
「こっち」
──俺は女子の手を引いた。
ここからだと──こっちで合ってる。
「腹減った?」
「聞こえちゃった?」
「ははっ、減ってんのか。俺もだけどさ」
「ご飯は予約してくれてるって言ってたけれど、どこ?」
これは俺からのサプライズ。
「──ものくろ屋」
「えっ?」
「びびった?」
いつもは和洋菓子屋だけれど、クリスマスなどの特別な日にはディナーをやるっていうのをネットで見つけた俺は、女子をびっくりさせたくて誘った日にはもう予約していた。
すると女子は予想以上の反応を見せてくれた。
「嬉しくてスキップしたい気分だわ!」
と、本当に数歩、下手くそなスキップを見せてくれたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます