第171話 アイスクリーム(前編)

「──なぁんでお前らついてくんだよー……」


 土曜日の昼過ぎ。

午前中の部活が終わった俺は学校から一番近いショッピングモールに来ている。

モール内もすでにクリスマス一色──じゃなくて、三色が目立つ。

赤と白と緑だ。


「僕だって用あったんだもん」


 同じく部活終わりのコセガワが言う。


「俺も買いもんだもん」


 コセガワの口調を真似するのは部活中抜けのレン。


「はいはーい! 俺はクジラとお昼ご飯終わったとこでーす!」


「で、です」


 仲良かったんだ、っていう一年の元天文部のアオノとメイク部の──クジラって名前だったんだな、という一年。

初めましてのアオノはもう挨拶して、人見知りなしでがんがん喋っている。

順能力が高すぎねぇか、と俺は腕を組みつつ右、左に目を配りながら歩いていた。

するとコセガワが隣に並んできた。


「プレゼント調査?」


 ずばり、言い当ててきやがった。

答えててやるのが悔しいので、じと、と睨んでやる。

するとレンも、俺も、と言った。

続けてコセガワも、僕も、と言った。

さらに続けてアオノとクジラも言った。


「なーんだ、皆一緒じゃないっすかー!」


「アオノは誰に?」


「部の皆で持ち寄りするんです! あ、リドル部でーす! 美味しい紅茶の葉っぱ教えてもらったんで、それにしますー!」


 おお、もう決まってんのかい。

しかも楽しそ。


「クジラちゃんは? ニノミヤに?」


 と、レンが聞いた。

ニノミヤって子は確か、モデルの企画の背が高い女の子で、この前レンにひっついてきた一年生。

同じメイク部か。


「う、あ、は、はい。えと、ヘアアクセサリーとか、どうかな、と」


 レンが肘でつついてからかっているところを見ると、なるほど把握。

さっき挨拶したばかりのクジラちゃん──イチノセも決まっている。


「そう言うレン君は?」


「お? 妹にさ。写真見るか? まだちっこくて可愛いぞー」


 と、レンの携帯電話に皆が群がった。

そこには、ほんにゃりと笑う赤ちゃんが写っていた。


「宇宙一可愛い妹に絵本をなー」


 レンは十七歳、妹は一才、年が離れた兄妹きょうだいだ。

そりゃあ可愛くて仕方ないだろう、それでなくても赤ちゃんはもれなく可愛い。


「コセガワはノムラに?」


「うん。新色のリップだって」


「あ? サプライズとかじゃねぇの?」


「僕達は小さい頃からお互い欲しいもんを提示してんの。もう何年になるかなー、一回も欠かした事ないよ。誕生日とクリスマスはね」


 ほー、そりゃ迷わなくていいなぁ。


 そして俺は、はた、と気づいた。

俺も提示してもらえばよかったか、何より何の調査というか女子が好きなものとか好みのものとか欲しいものとか聞いてもいない。

それとなくもはっきりもだ。


 やべー……自信なくなってきた……。


 選んだものが気に入らなかったらどうしよう。


「──ま、選ぶの楽しいよねー」


 と、どよん、とした空気を出していたか、俺の背中を叩いて言った。


「びっくり喜ぶ顔って、作りたいじゃない?」


 もう笑っているコセガワに便乗してにまにま顔なレン、はしゃいでるアオノにそわそわしているイチノセ。

俺は何の自信も出ていないけれど──。


「──頑張ります、か」


 と、言ってみた。


 だって俺もクラキを喜ばせたい、し。


「頑張れ彼氏の称号を持つ者よ──って、クジラ君。その店に入りたいの?」


 イチノセがいかにも、女の子の店! という店を通路から覗いていた。

店の真ん中にあるアクセサリーらを気にしているようだが、戸惑いでその場で背伸びをしたりしている。

だが男が、というのを気にしてか躊躇っていた。


「入ればいいじゃーん。はいはいクジラ、行くぞー。先輩達も一緒にどうですかー? 皆で入れば怖くないってやつ!」


 赤信号は皆でも駄目だが、これは良い皆だ。

便乗便乗、と俺らもその店に入った。


「……俺、こういうとこ入ったの初めてだわ」


「俺も。用ねぇし」


「僕はノノちゃんに連れられて何回か。なんか眩しいよね……目がきらきらする」


「俺も何回かありますー! っていうか今俺の髪につけてるヘアピンとかもこういうとこで買いますし!」


 と、皆がそれぞれ言って次はイチノセか、と思ったが声はなく、俺を含めた四人がイチノセを見ると、すでに選び出しているようで──ぶつぶつと何か呟いていた。

時折聞こえるヘアピンだとかバレッタだとかそういう系の名前は聞こえたが、他のパーツ? だか何だかは俺には呪文のように聞こえた。


「スイッチオン状態のクジラはああなるんでお気になさらずー。いち段落ついたら正気に戻るんで放っておいていいっすよ」


 アオノがそう説明してくれたので俺は少し離れてアクセサリーを見てみた。


 ほー……よくわからんなぁ。


 ネックレスにピアス、イヤリングに指輪。


「──ペアとかにしねぇの?」


 いつの間にかレンとコセガワに挟まれた。


「ド定番だけれど確実性はあるねー。いかにもクリスマスって感じ」


「……定番は参考になっけど……こういうのは、は、初めてだから、ちゃんと考えたのを──?」


「ん?」


「あ?」


 ガラスのショーケースの中にあるものを見て、俺は止まった。


 …………良いかも、しれない、かも? うぅぅぅぅん……。

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