第172話 アイスクリーム(後編)
俺はラズベリーとブルーベリーのタブルベリーと、クラッシュチョコ入りのダブルチョコレートのアイスクリームをワッフルコーンで。
「んぁー……やっぱあれにすっかなぁ……」
コセガワはオレンジショコラと、ほうじ茶のアイスクリームをカップで。
「他のはぴんときてなかったみたいだし、決めていいんじゃない?」
レンはニューヨークチーズケーキと、コーヒーチップ入りのコーヒーアイスクリームをワッフルコーンで。
「後はお前の買いもんだけだぞー」
アオノはキャラメル入りのクッキーアンドクリームと、ハイビスカスとオレンジソルベと、カシスチョコレートのアイスクリームをワッフルコーンで。
「クサカ先輩、こういうのは直感ですってー。
イチノセはストロベリーナッツバニラと、ミントチョコレートのアイスクリームをカップで。
「クラキ先輩に似合うと思いますし良いチョイスかと。派手な感じよりもさりげない感じの方が──って、イカル! 勝手につつくなよ、一言言え!」
イカルはアオノの名前だ。
俺達はアイスクリームショップの前の通路に置かれたベンチに五人並んで座っている。
俺がど真ん中であとはそれぞれ──買い物は済んでいる。
「クサカのベリベリアイスちょっとくれー」
と、レンが付属の小さなスプーンでとった。
「お、これも美味ぇな。あと悩み過ぎな?」
「ほんと。僕もひと口──うまうま。どんだけ自信ないんだか」
コセガワもアイスをつついてきて、俺をもつついてきた。
俺はスプーンを口に咥えたまま言う。
「……自信なんかあるかよ。わっかんねぇんだもん」
「何が?」
「何がよ?」
アオノとイチノセも俺を見てきた。
「……こう、喜ばせ方っつーか……もっと、とかって思っちゃったら、これじゃなくてもっと良いもんあったんじゃ、とか……」
欲が出ているわけ、で。
こんなん俺のキャパなんかとっくに超えてるってわかってるけれど、頑張りたいっていうか頑張ってんだけれど──。
「──ま、わからんでもない」
レンが言ってくれた。
コセガワも少し考えて、頷いている。
「想像しちゃうよねー」
一年達も続けて言う。
「そりゃしますってー。クジラだってそうでしょ?」
「うっ、まぁ……クリスマスでもう浮かれてるんですけど、さらに上乗せ、みたいな」
上乗せ。
「……クジラってクラゲちゃんとどうなの?」
「なっ! そ、それは別にっ、絡まれて部活作ってっていうくらいで、その、クラゲが言ってるだけで──」
「──ん? クラゲちゃんがクジラの事好きなの?」
「ち、違っ──くはないけれど、まだ、と、途中っ!」
「あーっ! いっぱいとった! 俺も食わせろーっ!」
一年達がやいやいし出したので、俺はまたアイスクリームをつつく。
モール内が暑いせいか、もう溶けだしている。
早くしないとなくなってしまいそう。
「……決めた。あれにする」
ショーケースに入っていた、クラキに似合いそうだと思ったやつ。
「お。じゃあ行くべー。まったくクサカは優柔不断っつーか考え込み系っつーか」
「まぁまぁ、決めれたんならいいじゃない。それにさっきお店にいた女の子が、あれ欲しいー、って言ってたからもう買われちゃってるかもしれないし、急いだ方がいいかもねー」
「………………コセ、今なんつった?」
「へ? さっきお店にいた子可愛かったね?」
「違うわ!!」
俺はワッフルコーンをばりばり齧って、急いでアイスクリームを平らげた。
※
さっきのお店に走って戻った俺はショーケースの前であるかないかあるかないか探した。
クラキに喜んでもらえるかどうかの、プレゼントを。
「……はーっ、まだあった。よかった……」
俺は店員を呼んで、これを、とすぐに頼む。
すると店員は、彼女へのプレゼントですか? とにこやかに聞いてきたではないか。
「あ、え、あー、はいっ。その……クリスマスっぽいプレゼント用に、してもらえますか?」
そうお願いすると、店員がまた別の感じで笑っている事に気づいて、俺は後ろへ振り向いた。
そこには俺を追ってきた四人が、にやにやにやにや、していて、そんでもって、ひゅー、とか、うぃー、とか囃し立てていたのだ。
「──うっせぇ!! あっち行け!!」
俺がそう言っても四人は止める事なく、あーくそっ! と俺はパーカーのフードを被ってその場にしゃがみ込んで隠れた。
薄茶色のクラフト紙にレースのリボン、くすんだ赤のドライフラワーを挟んで。
軽くて大事なそれを買った俺は、もうすでに、楽しみだしていた。
どんな顔、すっかなぁ……。
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