第87話 板チョコレート(前編)
隠すものは、それぞれ。
本日は二年生全員参加の校外研修という事で、私達は今、自然いっぱいのキャンプ場に来ている。
ちょうどお昼時で、例によって例のごとく、クジ引きで決めた班でお昼ご飯を調理中だ。
「お、良い感じに煮えたんじゃない?」
私と同じ班であるノムラさんが鍋をかき混ぜながら言う。
クラスメイト三十名、六人の班が五つ。
私、ノムラさん、そして──。
「──ニンジンが見えないねー」
副委員長のコセガワ君。
「ごめんねぇ、
文化祭の時に白雪姫役だったカシワギさん。
「逆にジャガイモはでっかいなー」
小人イエローだった背が高い男の子、
「じゅーぶん美味そうなんだけど……マジでやんの?」
男子、の六人で、皆で
「やるやる、だって一位になりたいじゃん?」
「ええ、絶対に取るわよ」
と、ノムラさんに続き私も、むん、と手をぐーに握る。
このカレーはただ皆で作ってどうのこうの、という協力プレイだけではなく、担任の先生方による味の審査があるのだ。
そしてその審査の順位特典というものがあり、それが私が取りたい、欲しいもの。
購買部で販売される品数限定ジャンボシュークリームの予約券だ。
このシュークリームは、これから来る秋の季節にしか出ない期間限定品で、週に一度、二十個しか出ない
それは大体三年生に買われてしまう、という理由が大きい。
私はまだ食べた事がないので是非ともこの機会を逃したくはないのだ。
……ん? 皆どうしたのかしら。
何かついてる? と手の甲で口元と頬を擦って首を傾げる。
「
すると男子が苦笑いしながらこう言った。
「いんや、絶対の気合いが漏れてた」
むん。
「じゃあ皆、持ってきたもん出してー」
私達はそれぞれバッグ、リュックから取り出す。
ノムラさんの、せーの、の掛け声で皆一斉に見せた。
私は、カカオ九十六パーセントの黒い板チョコレート。
「おー、王道」
サクラバ君わかってるわね。
私達の班はカレーのアレンジとして、皆それぞれの隠し味を入れる事にしたのだけれど、見事にばらばら。
そう思ったら、男子は似ているものだった。
「クサカ君は白い板チョコレートなのね」
「俺ん家は毎回これなんだよ。甘い寄りのカレーだからなー」
似てるようでちょこっと違う、隠し味。
「甘い寄りで言うと……カシワギのオレンジジャムってマジか」
サクラバ君の眉が寄っている。
甘い寄りは好みではないらしい。
「う、うちではこれが定番なのぉ。それを言うならコセガワ君のカルピス原液って聞いた事ないよ?」
私も聞いた事ないよ?
「僕ん家ではいつも入れてるよー。サクラバ君のポン酢の方が聞いた事なーい」
それも聞いた事なーい。
「ガキん頃から俺ん家ではこれだっつーの。さっぱりして美味いんだって。っていうかノムラは……マンゴーの缶詰?」
それはそれでデザートにしませんか?
「うちでは絶対これ。シロップごと全部入れる! ついでに具になる!」
隠し味なのに隠す気が全然ないとは驚きです。
するとサクラバ君が、とりあえずマンゴー丸ごとは無し、と提案した。
私も量を考えるとそうかな、と思ったのだけれどノムラさんはすでに拗ねてしまっている。
カシワギさんが、一つくらいならみじん切りでいれちゃうのは? とフォローしたのだけれど──。
「──じゃあ代わりにそこの川で沢蟹でも捕まえてくる……」
と、言い出したので、角切りマンゴーで手を打つ形に収まった。
では次は私の番。
「私もこのチョコ全部なのだけれど、こっちは問題ないわよね?」
すると皆が一斉に、えっ、と言った。
「……えっ?」
遅れて私も同じように反応してみる。
ふむ、これはあれね。
きのことたけのこじゃあないけれど──。
「──戦争でもする?」
そう言った瞬間、しない、と男子が私の口に白い板チョコの三欠片分を押し込めてきた。
何すんの、と独特の甘さが美味しいと食べながら睨む。
「はいはい、
こんな感じでジャンボシュークリームの予約券が私の手に掴めるのかしら、なんて思ったけれど、いい具合にまとめてくれたので、まぁいいか、なんて思った。
皆も笑ってるし、それしかない、みたいな。
……やっぱり黒い板チョコレートは多めの方が美味しいわよね?
と、こっそり入れようとしたら目ざとい男子に見つかってしまって、手をがっ、と掴まれてしまったのだった。
「こら?」
むぅん、何すんのーだ。
ちぇ。
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